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那須三斗小屋停滞(大貧民の夜は更けん)
大久保 哲

山行日 1994年2月11日~13日
メンバー (L)大久保、谷川、田代、坂本、笠原、井上(雅)

 2月11日 出発時間2分前に、ギリギリセーフで坂本さんが、電車に駆け込んできた。これで全員が揃い、黒磯に向けて出発する。黒磯からタクシーで大丸に向かうが、連休のためか、湯本の手前から料金所まで渋滞し、正午近くになって大丸に着く。

 連休中の天気は、土曜日に東京でも雪になるとの予報が出ていた。天気が回復するのは日曜の午後からになるとのこと。タクシーを降り、身支度を整えるが、降雪で風もある。毎度のことだが、峰の茶屋の風が気に掛かる。12時に大丸を後にし、ロープウェイ駅を目指す。この時期、夏なら登山口まで車で入ることも出来るが、冬場は大丸から車道を離れ、登山道を歩く。立木の中を進むが、途中、突風で舞い上がる雪で、しばし、立ち止まる。ロープウェイ上の駐車場を過ぎ、ここから本来の登山道に入るが、例年に比べ、比較的に雪は少ないようだ。登るにつれ風が強まる。雪のため、朝日岳も茶臼岳も見えず峰の茶屋が見えてくるに従い、風のため立ち止まる回数も増す。少し体重の軽い坂本さんには、シンドそうだが、峰の茶屋までがんばってもらう。茶屋で強風を避けていると、先行した別パーティーが避難小屋へと、強風の中下っていくが、何人かは強風に押し戻され、動けずにいた。その様子を見てた笠原さんは、「まるでダルマさんが転んだをやっているみたい」と言って笑っていたが、次は我々の番である。風の頃合いを見計らっていると、強風にあおられたザックカバーが勢いよく飛んできて、アット言うまに視界から消えた。三斗小屋夜話に、外套がワカメになった話があるほど、昔からここは風が強いのである。
 何とか、一気に、避難小屋まで無事に下りきる。ここからは、なだらかな下りが続き、樹林帯に入るので風も収まり、楽な歩きになる。大丸を出て、3時間弱で目指す三斗小屋温泉に着く。地獄から天国とはこのことで、峰の茶屋の強風の洗礼を受けてこそ、天国の温泉に浸かる喜びがあるのだ。早速、夕食までのんびりと湯に浸かる。その夜は、井上さんのひとり舞台で、大いにみんなを笑わせてくれた。特に、風呂上がりのニッカボッカ、裏返しの芸?には、全員、腹を抱えるほどの大受けだった。

 12日 この日、井上さんが下山。出発準備で慌ただしいなか、全員で見送るが、かなりの降雪。早朝のラジオでは、大荒れの予報。回復する見込みがないので、居残り組は停滞とする。予定では、隠居倉から朝日岳を目指すつもりだったが、この降りではとても外に出る気にもなれない。客が退き、静寂が戻ったなか、朝風呂につかり、各自のんびりと時間を過ごす。ラジオからは、雪のため各地で交通機関が大混乱のニュースが流れてた。
 昼近くまで静寂が続くが、そろそろ退屈したのか、各自もそもそと動き始める。めいめいに昼食を取ると、ますますやることがなくなった。ここで、トランプの登場! 何度も三斗小屋に通うと、退屈な時間を過ごすにはトランプが一番である。先ずオイッチョカブを始めるが、賭けるものが無いので、いまひとつ盛り上がらない。しかし、ここで笠原さんが、この日のために用意した?大貧民のやりかたをご丁寧に、紙に書いてきた用紙を取り出した。彼女はゲームのしかたに自信がないので、書き写してきたとのこと。その用紙を受取り、谷川氏がその繊細な頭脳を駆使し、雪上訓練の汚名挽回と必死となって分析する。そのかいあって、いよいよ「大貧民ゲーム・三斗小屋の夜は更ける・外は大荒れ電車は止まる」大会が幕を開けた。このゲームは大富豪、富豪、平民、貧民、大貧民とその身分がわかれ、大富豪になると大貧民から、持ちカードの一番強いカードをもらえ、逆に大富豪は、手持ちの一番弱いカードを大貧民に渡すというルールがあって、強いものはいつも強く、弱いものはいつも弱い、というなかで、いかに大富豪になるために駆け引きをするところが、面白さである。回数を重ねるうち、次第に熱が入り、夕飯が運ばれてきてもゲームが続く。食事の一時中断が終わり、小屋の発電機が止まってもゲームが続く。外は強風が吹き荒れ、雪が小屋の中まで入ってくるほど大荒れ。果たして、明日は下山出来るのだろうか。とりあえず小屋の親父さんに下山ルートを確認にいくが、峰の茶屋は低気圧通過で、かなりの強風だろうとのこと。それにこの雪でトレースも掻きけされている。他の宿泊客は殆ど、強風を避けて深山ダムに下るという。翌日の天気しだいでルートを決めることにする。ひとり明日のことが心配で先に休むが、さらに熱の入ったゲームは、夜遅くまで続いた。

 13日 明け方、目を覚ますが、風はますます強く、外を覗くがまだ暗くて様子は分からず。ラジオで情報を聞くが、都内は記録的な大雪で大混乱の様子。この天気で早発ちの客も多く、朝食も早めに運ばれてきた。外の様子をうかがっていると、深山ダムへ下るパーティーは早くも、吹雪の中を出発していった。深山ダムへ下っても、そこから先の足がないのと、タクシーを呼んでもこの雪では、入ってきてくれるかどうか。結局、我々は峰の茶屋経由で下山することにし、最悪の場合は下山を1日延ばす覚悟で出発する。来た時とはうって変わった風景のなか、先行したパーティーがつけたトレースを辿るが、すぐに追い付いた。先行は4人で、交替でラッセルしているが、思うようには進まず、交替を告げるが、避難小屋まで先行してくれた。小屋で一息つくが、風はゴウゴウと音をたて、雪は降り止まず。覚悟をきめて、ここから先は我々が先行する。樹林帯を過ぎ、岩稜地帯に入り雪が風で飛ばされ歩きやすくなるが、登るにつれ風が強まるが、覚悟したほどの強さもなく、無事に峰の茶屋を通過し、いっきに駐車場まで下りおりる。ここまでくれば風も収まり、ここでまた一息ついて、大丸へくだる。大丸では、日に4本しかない那須湯本行きのバスに運良く間に合い、バスに乗って中の温かさにホッとする。湯本でも黒磯行きのバスの乗り継ぎタイミングが良く、10分程で出発する。途中、凍結のため渋滞はしたが、約1時間ほどで黒磯へ着くが、またまたタイミングよく、快速の上野行きが接続し、これに乗って4時前には上野に着いてしまった。

 こうして、峰の茶屋を過ぎてからは、アッというまに家に着いてしまったため、目にした東京の雪景色は、何となくひんじゃくに見え、気温も暖かく感じるほどだった。今回は思わぬ大雪で、後々各地で遭難騒ぎが相次いだが、無事で何よりだった。今回の三斗小屋山行は、大貧民ゲームで大いに盛り上がったが、次回は峰の茶屋で、笠原さん提案のダルマさんが転んだを実践してみようと思う。絶対、鬼が勝つ!


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