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谷川岳・幽ノ沢
金子 隆雄

山行日 1994年6月11日
メンバー (L)金子、井上(博)、城甲

 関東地方も梅雨入り宣言がなされた6月11日、失敗したなと思いつつも越後湯沢行きの夜行列車に乗って土合駅で降りる。久しぶりで登る土合駅の長い階段はやっぱり大変だ。先発して指導センターで寝ている城甲さんと落ち合い、そのまま出合いまで歩く。今回のメンバーは井上(博)さん、城甲さんと私の3名。若者がいないので中高年登攀隊となってしまった。幽ノ沢出合いに4時ごろに着き、テントを張って少し仮眠する。
 7時半ごろ出合いを出発する。登攀ルートは中央壁左方ルンゼを予定。幽ノ沢は出合いから雪渓でしっかりと埋っておりアプローチは容易だった。しかしカールボーデン付近は雪渓がズタズタで崩壊も始まっており近づくことはできない。右岸の雪渓とのコンタクトラインを辿って中央壁のT1下まで行く。T1までは1ピッチだけアンザイレンして登る。左上にトラバースして左方カンテの取り付きを過ぎて左方ルンゼの取り付きに至る。岩は乾いていてフリクションが効いて快適だ。
 このルートは核心部が出だしのピッチにあり、これを越えれば後は容易になるので精神的重圧感は少ない。ここで再びアンザイレンし登り始めたがルートを外してしまった。こんなに難しいはずはないと思いながらも残置ピトンに導かれて苦しい登攀を続ける。ついに行き詰まってしまいルートから外れていることを認識する。一旦取り付きまで下降して正規のルートを確認してから再度登り始める。傾斜は強いが要所にしっかりしたホールドのあるスラブをハング下まで登り、ハングを右側から捲いてハング上のテラスでピッチを切る。先程間違えたところと比べるとウソのような快適さだ。この上は容易なルンゼ状を5ピッチほど登ると中央壁の頭下の広いテラスに出て登攀終了である。下降は踏跡を辿り中央壁の頭に登りそこから更に堅炭尾根まで登る。高度を上げるにつれてブヨの大軍に悩まされる。中芝新道を下って芝倉沢に下り、雪渓上を下るが滑ってなかなか思うように歩けない。芝倉沢の出合いから幽ノ沢の出合いまでの道は倒木が多くかなり荒れている。冷えたビールが早く飲みたい一心でがんばって歩いてきたが、テントに帰り着いてびっくり。雪渓の下にデポしておいた食料がカラスに食い荒らされて無残な姿に成り果てているではないか。夕食がふいになってしまったがしかたない。奥深い山の中にいるわけでもないので一食ぐらい抜いたところでどうということないと、焚火を囲んで酒を飲んで寝てしまう。
 翌日も天気は良かったが昨日の疲れが残っており、また今日も芝倉沢の雪渓を下るのがいやだったので今日は温泉に入って帰ることにする。
 前回岩登りをしたのはいつだったか思い出せないほど久しぶりの登攀のせいか、年齢からくる体力の衰えか、あるいは日頃の不摂生が祟ったのかとにかく大変疲れた登攀だった。しかい乾いた岩を攀じるのはじつに爽快で、しばらく眠っていた岩登りの虫がまた目を覚まして動きだしそうだ。


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