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朝日連峰縦走
藤井 和義

山行日 1994年7月23日~25日
メンバー (L)飯塚、江村(し)、服部、藤井、(阿倍)

 久しぶりに山をやることになった。バスはどこを走っているのだろうか、外は明るくなって左側に海がみえる。たぶん新潟の少し先だろう。昨夜10時30分に渋谷を出発した時はあまり眠れないかもと心配したが、4時間位は眠ったようだ。あとでの話だが服部氏はほとんど眠っていないとのこと。しかし私の後ろの女性二人のどちらかは出発して間もなくイビキをかいていた。
 鶴岡駅から線路沿いに200m程来た角を折れてすぐのところにホテルがあり、そこがバスの停留所であった。駅まで歩いて大鳥行きのバス停前にザックを並べたが、誰かが5人乗りの大型タクシーをみつけて早速泡滝ダムに向かった。料金は約15,000円だった。
 タクシーを降りてから各自共同装備の分担や、すぐ下の沢で水を補給し、朝の美味しい空気に納得しながら一服した後、江村氏を先頭に歩き始める。トンボが多い。沢沿いの比較的緩やかな道を進む。ウグイスがひっきりなしに鳴いている。時々陽がさす絶好の天気だ。トンボがさらに多くなった。江村氏が青大将をみつけ全員で注目する。
 しばらく登ったところで真直ぐ大鳥池へ向かう道から左へ別れて七ッ滝経由をとる。急な登りが混じってきてまたヘビだ。今度のは縞ヘビである。左下に最初の滝がみえた。落差があって絵になっている。またまたヘビだ、山カカシである。江村氏が途中で拾った枯れ木の杖がヘビの発見に役立っている。連続して現れる滝に我々は大いに感動し、見晴らしの良い場所でしばし歩を止めた。
 最後の滝音が消え突然平らな草地が開ける。視線を草地の先に向けると大鳥山荘が一段高い所に建っていた。まだ正午であるが、本日はここまでである。平地を山荘に向かって進むと整地された幕場があり、そこから斜面を少し上がった山荘との中間に水場がある。トンボがメチャクチャに多い。イナゴの大群を想像する程である。時間が大変余っているので、少し疲れて昼寝をしたいという阿倍女史を残し、4人で池の端をブラブラと東沢へ向かう。途中水際に数十匹のイモリがいて、我々の遊び相手をしてくれた。現在この大鳥池には魚釣禁止の看板が立っているが、山荘からの死角になる場所で数人が糸を垂れていた。今晩の大鳥山荘はふもとの町の年行事で以東岳登山があり大勢泊まるとのこと。それならば東沢近くに幕場を探そうという意見も出て来てみたが好適地はなく、ブラブラともとの道をトンボを掻き分けながら戻った。
 夕飯にはまだ早いので幕を張り終えて一服した後、私一人で七ッ滝沢へ釣りに出かける。江村氏は既に日本酒をひっかけて完全にくつろいでいた。七ッ滝付近から釣り下るが15cm位ばかりで、2匹目20cm位の合わせが遅れてハリを少し飲まれてしまい、仕方なくキープした以外全てリリースする。じっくり攻めれば良型が出ると思うが、タイムアップ。釣果の1匹は後で5人に一口ずつ、頭と尾は少し焦がし江村氏のヒレ酒としたが、焼き具合が悪いのか味はイマイチ。夕食がすんで、飲みながらの雑談となり、やがて話題がキジ打ちになった時のリーダーは他を大きくリードしていた。今日は色々な生物と出会ったもんだと見上げれば満天の星であった。夜中に目が覚めると服部氏と思しきシルエットが虫刺されの薬を腕に塗っていた。彼は今夜も寝不足だ。

 2日目 6時30分頃出発。池の脇からオツボ峰への尾根にとりつく。私は以東岳頂上の手前でガス欠状態になり、シンガリの服部氏にあとで行くと告げ、エネルギー化の速いチョコレートを水なしで飲みこんだ。10分程で回復し登り始めたら50mで頂上の皆さんと御対面となり、そっと一人で苦笑い。飯塚さんが早速くれたグレープフルーツがとても美味かった。360度の展望があり、眼下に大鳥池が見える。ここからはルンルン気分の山歩きとなる。先頭の江村氏が次々と出現する高山植物を指し、名称を教えてくれるが、多くを忘れて、オヤジの記憶にあるのはヒメサユリ、ハクサンフウロ、マツムシソウ位である。トンボはかなり減ったが、ウグイスは相変わらず鳴いていて、はるか遠くに鳥海山、飯豊連峰を眺めるそんな今日7月24日と明日は本山行のメインディッシュである。
 12時頃狐穴小屋に到着、ここで1時間昼寝することにした。間もなく服部氏のイビキが睡眠不足を取り返すように響いた。昼寝から覚めて、全員心身壮快となり、歩を進める。阿倍女史は昭和16年生まれでかなりガッツのある人である。女史は小休止になるとザックから毎回違った食物を出して皆に分け与える。なんだかドラエモンのお母さんみたいだなと思いつつ、小休止が楽しみになってくる。竜門小屋のすぐ手前でパラパラとにわか雨がきて遠くで雷が鳴った。小屋まで急ごうと3人の姿が灌木の中へ消え、女史はザックから何かを出そうとしているので、私はブラブラと歩き始めると、間もなく雨はあがり宿泊地竜門小屋に到着、15時少し前だった。それから日没までの夕焼の素晴らしさも昨夜より数倍輝く星空もやっぱり山にこなければこの宇宙的気分を味わえないと再認識する。今日は高山植物と地球規模の眺望に満たされた一日であった。

 3日目 6時頃出発。最終日は金玉水、主峰大朝日岳1870m、銀玉水、鳥原の水、金山沢の流れは釣果ゼロ。そして朝日鉱泉の湯で終わるという水に絡んだ日であった。天気は引き続き絶好調で、当たり前に頂上に立ち、それぞれの名水を十分味わってラストスパート、下りの汗を湯に流し全員無事下山。
 山は体力80%以下で行動するもの、さすれば有事に150%の力が出るものと肝に銘じているが、ラストの10分は110%のハアハアで今後のトレーニングという当然の課題を残した山行であった。
 同行の諸氏、特にリーダーの飯塚さんへ
 「お疲れ様、ありがとう!!」


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