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平成七年正月合宿 槍ヶ岳・北八ヶ岳
その2 南岳西尾根から槍ヶ岳へ
金子 隆雄

山行日 1994年12月30日~1995年1月3日
メンバー (L)金子、井上(博)、田代、水田

 3年ぶりに正月に山に入れることになり、山域も槍ヶ岳と決まったのでどのルートから登ろうかと色々考えた。積雪期の槍ヶ岳へは過去に3度登っているので登ったことのないルートからと考えたが、硫黄尾根では厳し過ぎるし、北鎌尾根は入山者が多くておもしろくなさそうだ。色々考えたあげく手頃なところで南岳西尾根から中岳を経由して槍ヶ岳に至るルートに決めた。ここならマイナーなルートなので登る人も少なく静かな山行が楽しめそうだ。メンバーは井上(博)、田代、水田、金子の4名。

12月30日 晴れ
 昨夜の夜行列車とバスを乗り継いで8時半ごろ新穂高温泉に到着。頻繁に乗り換えるためゆっくり眠ることができず全員寝不足ぎみである。今回の入山経路は富山で高山本線に乗り換え、猪谷で神岡電鉄に乗り換えて終点の奥飛騨温泉口駅から新穂高温泉行きのバスに乗ってようやく到着というものである。乗り換えの回数を減らすには高山駅からバスという経路もあるが、所用時間と交通費を考えると面倒でも細かく乗り継いだほうが良いようだ。

 入山日にはもったいないような晴天の空のもと、寝不足の体に重い荷物を担いで槍平を目指してよたよたと出発する。今年は例年に比べて雪が多いという噂を聞いていたが、見たところそれほど多いとも思えない。穂高平、白出し沢出合い、と重荷に喘ぎながらも順調なペースで歩を進めてきたが、滝谷出合い付近までくると急にペースが落ちてくる。午後3時前に槍平に到着。
 テントを凍らせたくなかったので冬期小屋に入ろうと思っていたが、小屋の中は暗くて湿っているようなので営業小屋(営業はしていない)の前にテントを設営する。今日の夕食はよせ鍋。ザックの中から出てきた材料は鱈に牡蠣に豆腐に白菜とみな生物である。これで荷物が重くないはずがない。明日の荷物を軽くするためにせっせと腹に詰め込む。酒も喉に流し込む。

12月31日 雪
 4時に起床し、朝食は少し早いが年越しそばを食べる。粉雪が音もなく降っているが行動するには支障がない天候なので、7時少し前に出発する。小屋の右手にしっかりと付けられた踏跡を辿る。踏跡は尾根の末端を右側から捲くように延びており、南沢をトラバースし急なルンゼへと続いている。ルンゼの傾斜が更に増してくるころ右側のブッシュ帯に移ると先行している2人パーティに追いついた。ブッシュ帯を登り詰めると最初の難関の岩場が現れる。槍平から見ると三角の形をしたデルタ状岩峰だ。岩壁というほどおおげさなものではないが、古いフィックスロープがありこれを頼りに強引に越す。デルタ状岩峰を過ぎるとようやく尾根らしくなってくる。2613mのピークは少し広くなっており幕営可能であり、実際エスパースが張ってあったが、こんな日に行動しないで何をしているのだろうと思いながら横を通り過ぎる。岩の露出しているピークを左側から回り込むように越えると尾根は細くなってくる。両側が切れ落ちた雪の付いていない痩せ尾根に四角い岩が乗っている部分はフィックスロープがあるが、これだけでは心もとないのでザイルを付けて真上を乗っ越す。この四角い岩がマッチ箱と呼ばれているものだと思う。更に1ピッチ雪稜上にザイルを延ばす。この先はナイフ・リッジとなっているがかなり幅があるので雪を崩しながら進んでいけば問題とならないが、雪が深くてラッセルに苦労させられる。
 南岳南西尾根とのジャンクション・ピークが近くなってくると尾根も広くなってきて、南岳の小屋が見えてくると広大な雪原となり西尾根の登りは終了だ。
 一時的に晴れ間を見せていた空も小屋に付いた時には再びガスに包まれてしまう。北鎌尾根隊と定時の無線交信を行うが入感なし。
 小屋は我々と我々の後についてきた2人組だけでスペースは十分だったので、2階にテントを張って快適な小屋生活を過ごす。今日は大晦日だがそんなことは少しも脳裏に浮かばず、疲労が激しかったので酒もほどほどに夕食の雑煮を食べて眠りにつく。

1月1日 地吹雪
 今日の天気が悪いことは予想できていたが起きると激しい地吹雪である。昨夜の方がもっとすごかったらしいが寝付きの良い私はシュラフに入ったら後は朝まで死人も同然で何も分からなかった。一緒に小屋に泊まった2人のパーティは朝ちょっと挨拶を交わすと身支度を整え出発して行った。我々も少し遅れて出発するつもりで外へ出てみたが、あまりにも風が強く地吹雪で視界が悪いため様子を見ることにして小屋の中に戻る。天候回復の兆しは微塵もないので今日は停滞することに決定し、またテントを張り直す。小屋は有り難いもので外はどんなに悪天候でも中にいる限り何も心配はいらない。もみぢと北鎌尾根隊が少々心配ではあるが、ベテラン揃いだから問題ないだろうと寝正月で1日を過ごす。

1月2日 晴れ
 昨日停滞した甲斐があって今日は雲一つない快晴である。明るくなってきたころ小屋を出る。小屋から南岳はすぐの距離で、山頂に着いたころちょうど朝日が昇ってきた。遠くに富士山もくっきりと見えてすばらしい眺望である。昨日悪天候の中行動していたらこんなすばらしい景色を眺めることはできなかったはずだ。稜線上は雪が締まってアイゼンが気持ちよく効いて歩程がはかどる。中岳、大喰岳と走破し肩の小屋には思ったより早く到着した。肩の小屋に荷物を置いてザイルと無線だけ持って槍の穂先へと向う。
 槍への登りは要所にクサリがあり初心者でも容易に登れそうだ。また以前は無かったが頂上直下には二つのハシゴが掛けられておりずいぶんと安全に登れるようになっている。このハシゴがなかったときは頂上直下で苦労したものだ。特に下降するときに出だしが悪く状況によっては懸垂下降を強いられる場合もあった。
 頂上で北鎌尾根隊との無線交信を行い、うまい具合に交信することができた。独標の下にいるらしく今日中に肩の小屋まで来たいと言っているが、はたして来れるかどうか難しいところである。槍の穂先から下りて休んでいると、もみぢの小林さんがやってきてこれから槍に登るという。我々は一足先に槍平に下ることにして小林さんと別れる。
 飛騨乗越から飛騨沢に下降したが、飛騨沢にはほとんど人が入っていないようでラッセルが厳しい。宝の木付近で再度北鎌尾根隊との無線交信を行うがもう入らなくなっている。槍平に着いてほどなくして小林さんも下山してきた。テントを設営して残り少ない酒で下山祝いをする。1日停滞して予備日を使ったので今日の夕食は予備食のジフィーズしかないが、明日は町に下りて好きなものがたべられるのでどうということはない。

1月3日 曇り
 下山は速い。入山日はけっこう苦労したのにあっという間に穂高平まで来てしまった。
 10時15分の定時交信時間に無線を飛ばしてみたら北鎌尾根隊と連絡がとれた。肩の小屋まで下りてきており、今日は新穂高温泉に泊るという。我々に宿を確保しておいて欲しいという依頼があったのでバス停まで行く途中に聞いてみた。最初に当たってみたのはホテルで部屋は空いているが1泊2万円と言われてそそくさと出てきた。次に当たったのは山小屋に毛の生えたような小さなところ。ここは1泊7千円ということでゲンさん達ならこの程度かなということで予約し無線連絡する。バス停の前の上宝村村営の無料の温泉に入ってバスで高山まで出る。高山からは名古屋経由で新幹線で帰宅する。

〈コースタイム〉
12月30日 新穂高温泉(9:30) → 穂高平(10:30) → 白出小屋(11:30) → 滝谷出合(13:15) → 槍平(14:45)
12月31日 槍平(6:45) → 南岳小屋(16:15)
1月1日 停滞
1月2日 南岳小屋(6:40) → 南岳(7:00) → 中岳(8:10) → 大喰岳(9:00) → 肩の小屋(9:25) → 槍ヶ岳山頂(10:10) → 肩の小屋(10:55) → 宝の木(11:50) → 槍平(13:00)
1月3日 槍平(8:00) → 新穂高温泉(10:45)

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