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富士山雪なし雪訓
服部 寛之

山行日 1994年11月26日~27日
メンバー (L)服部、山本(信)、飯塚、田代、澁谷、藤井、豊嶋

 正月合宿に向けて恒例の雪訓第一弾を今年も富士山で行った。
 25日金曜の夜JR八王子駅南口に7名が集合、ワンボックス2台に分乗し中央道をすっとばしてスバルライン料金所前に到着。美しい星空の下、何の申し合わせもないのに今夜もスムーズに天幕宴会に移行する。
 まもなく自分の車で来ることになっていた秋場氏も到着、だが翌日用事ができたとかで、担当の晩飯だけ置いてすぐ行ってしまった。電話一本で済ませられるところをリチギにわざわざ届けてくれるとは、みんなでどもどもすまんすまん、感謝感激菓子うどん、晩飯ようきた熱烈歓迎、そないしても秋場はんえろうすんまへんなあさんきゅうおおきにべりまっちほな気ぃつけて行っておくれやす、となんでここで急速に関西弁化するんかようわからへんけどそやかて宴会はなおもしつこく続いたんどすえ。(なんちゅうことばやねん)
 翌26日は定時の9時にゲートが開いて、われわれは一番乗りで快調に五合目駐車場に急ぐ。パラウロの(パラパラとウロついている)観光客のあいだをぬってよっこらしょと佐藤小屋に向かったが、今年の富士は雪が遅くて五合目付近はまったくと言っていいほど雪がない。どうすんべえかと思いつつ、とりあえず佐藤小屋のすぐ一段上の小屋前に幕を張る。
 張り綱を石につないでいると、登山者の安全指導の使命に燃える明朗快活精神も肉体も鍛えてますよハッハッハッ風の富士吉田署の若い本官が約1名山の装備に身をかためてパトロールにやってきて、
 「昨シーズンも雪が少なかったが凍ったところでアイゼンをつけない足を突風にすくわれて死んだものがいるので上に行く際には早めにアイゼンをつけるように」
 と、うちら及び隣でやはりテントを張り始めた他の雪訓パーティーに明朗快活に注意をふりまきつつさらにずんずん登って行ったのであった。
 こんなとこまで見回り指導とはごくろうさまでありんすと見送るわれらはとりあえず、雪がないので滑落停止もザイルでの確保も練習できない目下の状況であるが、今度の合宿では槍の穂先を登る予定なので、すぐそばの6~7mの石垣でアイゼンの前爪を使った登り下りの練習に取りかかったのであった。前爪での登攀はひっかかっているのがたとえ一本だけでもきちんと姿勢を保っておれば大丈夫だよと言って講師のゲンさんはやって見せるが、しかし慣れないとザイルをつけていてもやはり足先が不安でちょっとビビる。それに次の一歩に迷っていると脹ら脛がけっこうしんどくなってくる。
 昼食をはさんでしばらく練習して、さて次に何をやろうかと言ってもこう雪がなくちゃ雪訓のやりようがないじゃないか、しょうがないから今日はこれで切り上げて明日早起きして山頂に行くことにしようということになった。それまでみんなあまりの雪のなさに拍子抜けして練習にもいまいち身が入っていなかったのに、
 『練習』→『切り上げ』=『宴会』
 と状況が変わるとしょうがねえなあと言いつつもなぜか声は明るく頭はスバヤク次の体勢へと切り換わってゆくのであった。みんな、正直さを隠せない体質なのでありますね。
 翌朝は2時半起床、雪がチラつくなか懐電を点けて5時出発。1時間ちょい登っても雪はうっすらあるだけ、明るくなって七合目の小屋を三つすぎても雪はほとんど積もっていない。みんな昨日の気ぬけした気分を引きずっていて、相変わらず降りしきる雪と開けぬ視界にいまいちファイトが湧いてこない。小屋陰に張った幕から顔を出したあんちゃんに雪の状況を聞くと、大沢の中に雪はあるにはあるが岩は出ているし雪訓をするだけの量となると八合目半くらいのところに1~2パーティーができる位の広さのところがあるだけで、あとは傾斜が急すぎて雪訓はできないとのことであった。ゲンさんと俺とで大沢方向へ偵察に行ってみても5~10cmくらいしかなく、視界の無いなか大沢を詰めて行くわけにもゆかず、みんなに「どうしよう?」と諮っても誰も下りようとは言わないものの気分がいまいち乗らないのがひしひしと伝わってくるので、こんな弛緩気分で登って怪我してもつまらないと思い、
 「え~い、やめだやめだ。風呂入って帰ろう」
 と決断してしまった。登山道を下りてゆくと、後から5~6の雪訓パーティーが登ってきていた。
 撤収して10時半頃いつもの河口湖駅前の展望風呂にゆくと駐車場がいっぱいなのでそこを諦め、途中にあった溶岩温泉(だったかな?)というところへ行ってみたらひとり千円だか千二百円だか言われびっくりして直ちにそこも止め、結局ずっと以前に行ったことのある不動湯へ行った。ここは古い渋い湯殿だとの記憶があったが、今回行ってみると青いタイル張りサッシ窓のきれいきれい風呂場で一寸がっかりしてしまった。でもその宿の前から見る快晴の富士山の青白姿はなかなかの男前で良かったです。
 その後高速に乗る前に食堂へ寄っておそめのひるめしを喰って帰ったが、今回の雪訓は参加者も雪もともに少なくぜんぜん盛り上がらない雪訓で、気分的にもぐったりしてしまった。今回遠くから富士山を見ると、富士吉田側よりも御殿場側のほうが雪線が下がっていたようなので、来シーズンこの時期の雪訓は御殿場側での可能性も検討してみるのも良いかもしれない。


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