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5月の白馬岳主稜
別所 進三郎

山行日 1994年5月6日~8日
メンバー 別所、他1名

 昨春の赤タンから剱岳への雪稜登下降が素晴らしかった。それと山と溪谷に、日本のクラシックルートシリーズの第一番目として見事なカラー写真で「白馬岳主稜」が魅力的に紹介されていたのが結びついて、是非訪れてみたいと思っていた。
 GWは例会への参加を考えていたが、ルームに出られなかったりで(飯田橋へは大阪から遠い)申し込みの機会を逸してしまった。そうしたら白馬主稜に思いが寄せて来て、4月の下旬には、大丈夫かなぁという不安を持ちながらも、独りでも行くぞと気合いが入った。
 陽光の中、青い空に向かい、白い雪稜を辿るのがイメージ、それには晴天を捉えることがすべて。連休明けに晴れが来るとの予報だったので、金、土、と2日間の休暇を取って日程を決めた。計画書を認め、元会員で兵庫県在住の松谷氏にファックスした。日頃無鍛練、50歳の体力、現地状況不明点有り等、湧き上がる否定的雑念を押さえて、静かに連休を過ごす。幸い松谷氏より快諾を得、田原会長に登山計画書を提出し、晴天を祈った。
 6日、大阪からの夜行「急行きたぐに」を糸魚川で乗り継ぎ大糸線に入る。車窓が自然で一杯になり、山麓や峡谷に春の息吹を強く感じる。松谷氏は西日本全域の都市を飛び廻り、月数度の東京出張をこなさねばならぬ日常なので、都会を離れたことを実感し、嬉しそうである。
 ハクバ駅からタクシーで猿倉まで入り、運転手に帰りの出迎便を予約する。猿倉では登山計画書の受付箱が無かったので、バイクツーリングの若者に町の警察に届けてくれるようお願いする。又、連休中に主稜を狙ったが天気悪く、あきらめて下って来たパーティーに出合う。
 雨も上がり、雪道を歩きだす。行く手に小蓮華尾根や白馬主稜が迫る。山頂はガスってて見えない。白馬尻で杓子側の台地にテントを張る。夕方霰が降り、風が出て来る。明日の晴天を期待し20時寝袋に入る。
 7日、2時半起床、4時5分に出発する。いきなり稜線までの急登だ。ピッケルのピックとアイゼンの前爪だけで登る急傾斜も現れる。学生時代以降雪山から遠のいていた松谷氏は「オイオイこんな処ありなの」と久しぶりの感触に興奮気味である。6時25分、稜線に出る。8峰へのコル?で大休止を取っていると、後続のパーティーが続々と上ってきた。8峰へはいきなりの急登で、我々がザイルを着けている間に、2人組パーティーがスタカットで登って行った。そこからは7、6、5、4峰とナイフリッヂ状の雪稜がうねって続き、高度感と緊張感がなんとも言えない。風は弱く、陽光が背を射し、視界は広く、雪は締まって、絶好のコンディションである。3峰への急峻な雪稜で、5名のパーティーがアンザイレンして順番待ちしている。我々はノーザイルで先行させてもらう。途中、ナイフリッヂが切れ、ギャップがあらわれる。ザイルを着け、慎重を要するところだが、ピッケル1本に全体重をかけ、強引に乗越す。2峰へは正面の岩場を避け、右に廻り込み、ルンゼ状の急雪壁を登る。緊張の連続で疲れが出てくるがあと一登りである。頂上へは雪庇を貫いて登る場合もあるとガイドにあったので、アンザイレンして取付く。右手でピッケルのシャフトを雪中に深く刺し、ガッチリホールドを取っておいて、左手は雪壁に突っ込んで登るが、バイルが欲しいところだ。今日の主稜登攀パーティーのトップを切ってこの雪壁を登り切ると、そこが白馬山頂であった。10時30分、相棒と握手をし、記念写真を撮る。
 2933mの山頂には7ヶ月前に訪れているので親しみも一入である。その時は雨で景観が得られなかったが、今日は晴天が続いていて、360度の大展望である。剱、妙高がいい。
 小屋番の居る白馬山荘まで下り、入口内で装備を尻セード用に着替えたりして大休息を取る。小屋発12時10分。
 天気がついていた。ヤレて良かったと喜びを噛み締めながら、反射光でまぶしい大雪渓を下った。白馬尻テント着14時6分。
 8日、猿倉への帰り道で、往に見かけた中年の単独行者と話をする。彼は川崎から4WDで乗り込んで来て、杓子岳右稜を登攀したが、稜線上はブッシュが出てて、雪の続く左寄りを選んで登ったとのこと。話の終わりに、もう一緒に登ってくれる奴がいなくなってきちゃったんだとつぶやいた。
 長走沢の堰堤の冷たい雪解水で顔を洗い、フキノトウを味見し、山行は終わった。

 晴天下でのアタック、ルートの素晴らしさ、手応えのあった登行、狙いどおりの展開と遂行、そして満足感。今度の山行は、喜びをもって達成したので「成就した」と言い表したい。そして今後も、ただ単に山行を達成したということではなくて、大願かいきあたりばったりか知らぬが「成就した」山行ができたらなあと思うんである。

 追記
 バイルがあれば、ダブルアックスで登れたのにと思う場面がしばしばあった。一方オールディーズの木柄のピッケルは大いに活躍してくれた。ピッケルの有難さを再認識させられ、愛着も深まった山行でした。


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