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平成七年春合宿 白馬岳集中
その5 白馬岳主稜、その他
金子 隆雄

山行日 1995年5月3日~6日
メンバー (L)金子、城甲、田代、水田、湯谷(良)

 5月2日夜、大久保パーティと一緒に新宿発の急行アルプスで出発する。思いのほか混んでいてゆっくり眠ることはできなかった。

 5月3日 晴れ後小雨
 先発している城甲さんと白馬駅で落ち合いタクシーで猿倉へと向かう。バスの便もあったが5人だったのでタクシーの方が安く行けた。城甲さんには現地での買い出しをしてもらい家から持っていく荷物が減らせて大変助かった。
 猿倉荘手前約1キロのところにゲートがあり、そこでタクシーを降りる。道の両側にはびっしりと車が駐車してある。ゲートから先の道路も雪は消えて車の通行は可能なのだがゲートをなくしたら猿倉荘前の広場は車で溢れてしまうだろう。
 下山時の食料、燃料及び着替えなどの不要な物を雪の中に埋めてデポする。だいぶ軽くなったろうと期待してザックを担ぐが気休め程度でガッカリする。林の中を縫うように主稜の取付きを目指す。対岸に主稜が見えてきたあたりで大雪渓をトラバースし、途中で雪融け水を補給。主稜へはほぼ末端の雪壁状となった浅いルンゼから登り始める。先行者がかなりいるようでしっかりとステップが刻まれている。登っているとどこが8峰やら7峰やら判然としない。所々傾斜の強い部分もあるがバケツのようなステップがあり、また天気も良いため威圧感はない。しかし、天気予報によれば明日以降は崩れるとのことなので今日中に稜線まで抜けたいと焦るが全装備を担いでの登攀なのでなかなか思い通りには進まない。
 午後になって天気が崩れだしてきた。2峰を越えたあたりで視界も悪くなりみぞれっぽい雨となってきた。雨はやがて雪に変わってきた。高度からみても稜線まではほんの少しの所まで来ているのはわかるが寝不足と重荷で皆かなり疲労しているので稜線へ出るのは諦めることにする。テント1張程度のスペースを見つけられたので整地しブロックを高く積んで風に備える。だがここは風下のため吹かれることはなかった。

 5月4日 曇り
 今日の悪天は覚悟していたのだが思ったほど悪くもなく充分行動できる天気だ。今回の合宿は各パーティが白馬岳に集合するという計画だったのであまり早く着いても待つだけだと思い朝は早起きしなかった。朝の無線交信で大久保パーティと連絡がとれた。彼らは小蓮華岳付近でこれから白馬岳へ向かうという。我々もそろそろ出発の準備にかかろうとテントを撤収していると続々と人が下から登ってくる。軽装の人が多いが彼らは今朝猿倉から登ってきたのだろう。軽装備で朝早く出発すれば日帰りも可能なのだ。(日帰りといっても東京からの日帰りではない)
 主稜も残すところあとわずか、頂上直下の急な雪壁を登りきれば終りだ。頂上直下の1ピッチはかなり傾斜が強いので念のためザイルを使用する。出発してから1時間ほどで頂上に達する。稜線上は風が強く寒いので写真を撮ると少し下ったところにある白馬山荘まで行きそこで他のパーティを待つことにする。白馬山荘は人で溢れそうなくらいだ。白馬山荘に着いて私のチタンのアイゼンの爪が1本欠けていることに気がついた。朝アイゼンを付ける時は異常がなかったので白馬岳からここへ来るまでのわずかの間に折れてしまったのだろう。幸いに前爪のように重要な部分でなかったのでまだ使えそうだ。貧乏山ヤなのでそうそう山道具を買い替えるわけにもいかず辛い。
 待つこと2時間弱、小屋にいた人達もほとんどいなくなった昼過ぎようやく大久保パーティが到着した。委員長に強引にビールを奢らせ再会を祝して飲み干す。(ムリヤリ奢らせたのは私ではありません。ビール好きなJ氏です)
 大久保パーティは予定を変更して今日はこの付近にテントを設営して泊まるとのこと。我々は当初の計画では小屋の近くに幕営して明日大雪渓を下降して三号尾根に取り付く予定だったが、今日中に三号尾根取付き付近まで下りておいたほうが明日の行動が楽だという結論に達した。大雪渓を下ること約1時間で三号尾根取付き付近に至る。ちょうどうまい具合に岩陰の雪崩や落石の心配ない場所にテント設営跡があり隣には雪洞まであったのでこれを利用させてもらうことにする。荷物は雪洞に入れておけるのでテントを広く使うことができる。

 5月5日 雪後晴れ
 夜半からの降雪のため朝方になるとテント内がひどく狭苦しくなっており、起きだして少し除雪する。朝になっても雪は降り続いており視界もかなり悪い。しかし、天気予報では急速に回復方向に向かうということなので悪天候の中出発する。
 雪渓をトラバースし適当なところから尾根上に上がり反対側に少し下って尾根沿いに進む。雪壁を直上し岩稜となった尾根に再び戻るが雪壁は凍結している部分もありあまり快適ではない。
 視界が悪くルートが見通せないのでどこいら辺を登っているのか確認できないのでとにかく登り易い方へと進む。岩稜上に出てから左側の急なルンゼにルートをとる。ここは大雪渓までいっきに落ち込んでいるので気持が悪い。薄日が差してきて気温が上昇してくると雪の状態が悪くなりヒヤヒヤさせられるようになる。
 ようやく尾根に戻りつくと晴れ間が広がりルートが確認できる状態になったが時既に遅し、三号尾根の主要な部分は過ぎておりほとんど違うところを登ってきたことが解った。視界が悪くルートを確認できなかったとはいえ大失敗である。
 定時の無線交信で佐藤パーティと交信する。彼らは昨日は大久保パーティと一緒に村営小屋付近に幕営したが、稜線上はかなりの強風で大久保パーティのテントは破壊されてしまい一緒に大雪渓を下降中とのことだ。
 三号尾根の最後は岩壁帯となっており正面を避けて左側の這松帯を登って稜線に出る。休息するべく白馬山荘に入ったが昨日の賑わいがウソのように今日は誰もいない。城甲さんは例によってビールを買い込む。
 大雪渓を下降しテントを撤収後猿倉台地へ向かう。猿倉台地では大久保パーティが到着していた。佐藤パーティは下山してしまっており会うことはできなかった。大久保パーティはテントの張綱が千切れてしまいフライも使い物にならなくなってしまっているので下山するかここに泊るか迷っていたが天気も良さそうなので我々と一緒に泊ることにした。時間がたっぷりあったので大工事をして立派なテントサイトができあがった。

 5月6日 晴れ
 今日はすばらしい快晴である。最後の仕上げに杓子尾根を登るべく湯谷、水田、金子の3人で雪の締っているうちにと早朝に出発する。城甲さんは下山、田代はテントキーパーで残ることになった。杓子尾根の末端の取付きからいきなりの急登で息があがる。取付きの急雪壁を登りきれば後は楽になる。取り立てて悪場もなく先行パーティを追い抜いてどんどん進むと程なく双子尾根とのジャンクション・ピークに着く。この先も特に問題はないが杓子岳直下で氷結しているところがありアイゼンを外していたので少してこずる。最後はちょっとした岩稜になり岩だらけの杓子岳に着く。
 定時の無線交信で服部パーティのゲンさんと交信がとれた。猿倉に向かって下っているらしいが言っていることが意味不明でどこを下っているのか良く解らなかったが何度か話しているうちにようやく大雪渓を下降していることが解った。我々も後を追い早速下降にかかる。村営小屋付近まで下ったのでは時間がもったいないので適当なところで大雪渓に下りる。
 猿倉台地が近くなるころ前の方に大きなザックを担いで、コケながらヨタヨタ歩いているのがいるので、どこの会の新人かなと思いながら近くまで行くとなんとそれは服部であった。イブリ山からのロング縦走お疲れ様でした。
 服部パーティは一足先に下山し、我々は昼飯にトン汁を作り残った酒を空にしてからのんびりと撤収に取り掛かる。当初の計画ではもう1泊して明日帰ることにしていたが、今日中に帰りたいという意見が多かったし、明日どこかを登る予定もなかったので今日帰ることにした。最終のバスで白馬駅に着いたが直通の電車は既になく一旦松本まででる。松本からの最終の特急の発車までの時間がほんの少ししかなかったので風呂に入る時間も食事をする時間もなく慌ただしく電車に乗り込み帰路につく。

〈コースタイム〉
5月3日 猿倉(6:30) → 主稜取付き(8:00) → 5峰(11:30) → 3峰(14:20) → 幕営地点[2峰~山頂間](15:40)
5月4日 幕営地点(9:40) → 白馬岳山頂(10:45) → 白馬山荘発(12:50) → 幕営地点[三号尾根取付き付近](13:50)
5月5日 幕営地点(6:30) → 稜線(11:40) → 猿倉台地(14:00)
5月6日 猿倉台地(5:00) → ジャンクション・ピーク(8:30) → 杓子岳(9:30) → 猿倉台地(11:00)

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