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沢登り・井戸沢
豊嶋 一人

山行日 1995年8月19日~20日
メンバー (L)小堀、水田、豊嶋

 「イワナの骨酒が飲めるかも? 沢ツアー入門コース」の案内に誘われて、半年ぶりに参加する例会山行は小堀氏がリーダーを務める沢登りに決めた。イワナを釣ってみたいという思いと、自分でコースを確認することもしないで、入門コースというくらいだからそんなにきつくないだろうという想像を勝手にしたからだ。ルームで、大久保氏が「豊嶋氏、やせるよ。」と言っていたのを実感したのは山行二日目のことで、聞き流していた自分を後悔したときには、もう沢のなかだった。仕事の関係で土曜日はもちろんの事、日曜日もなかなか休みが取れず、例会山行は半年ぶりだったが、部活動に燃えて生徒と一緒に汗を流し、スポーツクラブで筋肉トレーニングとエアロビクスに励んでいた私は、内心ではかなり自信があった。そして今回、黒のハーフパンツ(ジャージの半ズボン)で参加した。早く黒ジャージ隊の仲間入りができるだけの実力がつくように頑張ろうという意味あいも含まれていた。
 しかし、・・・・・・。

 8月18日(金)
 お盆休みの最後の週末、午後10時新宿駅に集合したのは、リーダーの小堀氏、水田氏、そして豊嶋の3人であった。小堀号に乗り込んだ私たちが、秩父湖から大洞林道を通って、幕場である荒沢橋に到着したのは12時30分頃であった。大洞林道では、落石が所々にあり、そのひとつに底を擦ってしまった。かなり大きな衝撃だったので、車を止めて下を確認した。幸いに何でもなかったが、20日(日)に荒沢橋に戻ってきたときに車が動かなかったらと考えると、本当に良かったと思う。テントを張った後、お決まりの宴会に突入し、寝息を立て始めたのは、午前3時頃だったと記憶している。

 8月19日(土)
 久しぶりの山行のせいか、ぐっすり眠られずうとうとしているうちに朝を迎えた。朝食後7時頃出発松葉沢まで林道を歩いた。沢に降りる場所がわかりにくく探すのに多少とまどった。惣小屋沢出合いから溯行を開始した。夏の暑さの中、沢登りはやはり気持ちが良くまわりの風景を楽しみながら登っていた。自分では、半年ぶりの山行に拘わらず結構歩けるじゃないかと、最初は思っていた。しかし、やはり小堀氏や水田氏のペースと私のペースに違いがあり、私が遅れるために休憩の回数が多くなってしまったようだ。途中水田氏が私を気遣って、荷物を少し持とうかと言ってくれたが、頑張れるところまで頑張ろうと思い、せっかくの申し出を断った。しかし、そのために全体のペースが遅くなり、かえって迷惑をかけてしまったかもしれない。二人が地図を見てコースを示してくれるので、私はついていくだけで良かったが、これではいつまでたっても一人でできないので、地図を読む勉強もしていなくてはいけないと反省した。
 今回は、水量が少ないようで、それほど苦労せずに溯行できた。直登や高巻きをするときは、むずかしいところには必ずと言っていいほど、残置ピトン等があったため助かった。自分では高いところや急なところもあまり怖さやむずかしさを感じなかったのは、技量が伸びていたためだと思っていた。しかし、それは疲れていたためだと知らされた。「いいや、大丈夫だ。行っちゃえ。」というとき、事故につながりやすいらしい。
 昼はそうめんを作った。三人の健康な男にはやや量が少なかったが、とてもおいしかった。今度は、沢を利用した流しそうめんに挑戦してみたい。なめでやればうまく行くのではないだろうか。
 午後4時前、テントを張った後、1時間ほどイワナ釣りを楽しんだ。小堀氏によると魚影を何度も見たということなので、一層期待に胸ふるわせた。最近月に1、2度のペースで海釣りには行っているが、渓流釣り、しかもイワナなど初めてであった。三人とも大漁であったが、水田氏が釣った大物以外はまた来年会うことを勝手にイワナたちと約束してリリースした。初めて飲んだイワナの骨酒に感激しつつ夜はふけていった。

 8月20日(日)
 長い長い、本当に長い一日の始まりになることを、沢の流れの音でさわやかに目覚めた私はもちろんのこと誰も想像できなかった。
 牛王院平付近の稜線にあがったのは、予定コースタイムをややオーバーした時間であった。雲取山手前の三条タルミまでは何でもない単調なコースであったが、単調なあまり、疲れを忘れるほどの見とれる景色もなく黙々と歩くばかりであった。疲れがたまっているせいか、たいした登り坂でなくてもいつの間にペースが落ちていた。
 荒沢谷・大洞川の下りは3時間の予定であった。沢下り初体験の私が沢登り以上に技術がいることに気づくのに時間はかからなかった。滑って転んだり、爪をぶつけたりすることを恐れるあまり、遅いうえ、へっぴり腰になっていた。
 沢での夜の訪れは早かった。暗くなってきたなと思っているうちに、気がついたときは夜になっていた。ヘッドライトをつけて下っている途中に考えていたことは、月曜日無断で仕事を休んだときの理由だった。家に電話をされていなければ、風邪をひいたとか言えるが、もし家に電話されていたら何と答えよう。とか、考えていた。
 みんながビバークを考え始めていた頃、暗闇の中白い物体が目の前に現れた。荒沢橋のゲートだ。雰囲気が一気に和み、握手をして喜び合った。今日中に帰れる。小堀号に着いたのは、午後7時30分。みんな空腹であることに気づき、途中で何か食べようということになり、着替えを済ませてから荒沢橋を後にした。
 車に乗って10分ぐらい、突然におなかが痛くなった。しばらくすると嘔吐感までもが私を襲った。結局車を止めてもらい、前と後ろのダブル雉打ちを行った。秩父湖で小堀氏が電話をしている間、レモンスカッシュを飲んだら、それも戻してしまう始末。結局、私は西部秩父で降ろしてもらった。電車の中で1時間ばかり寝たら体調が戻り、無事家に着くことができた。

 黒ハーフジャージ隊(黒ジャージ隊予備軍)会員募集
 みんなで黒ジャージ隊を目指して頑張りましょう。


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