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黒部上ノ廊下
【 】=執筆者

山行日 1994年8月10日~15日
メンバー (L)山本(信)、飯塚、福間、朝岡

【山本】
8月10日 天気晴れ
 信濃大町に着くと、おまわりさんがどちらの山へ入りますか。私は黒部上ノ廊下へ行きますと答える。お巡りはその山はどこにあるのですか。私は黒四ダムの奥にある沢ですと答えると、それでも解らず私は地図を出して説明した。しかし解ってもらえず残念だった。
 黒四ダムで朝ご飯をすませて上ノ廊下へと出発する。平ノ渡しまでは登山道は整備されているが、平ノ渡しから先は道がせまい。ハシゴは腐っており怖かった。3時頃やっと奥黒部ヒュッテに到着。奥黒部ヒュッテの幕場にテントを張らずにもう少し先の上ノ廊下の河原へ行こうとすると、飯塚が急に騒ぎだす。ええっビールは買わないのですかとはしゃぎ出す。暑さでバテた飯塚はよほど喉が渇いたのだろう。でもあれほどビール、ビール、ビールと騒いだ飯塚は見たことがない。
 河原でテントを張る前にビールで乾杯する。テントを張り終えると、ビールに満足した飯塚と朝岡は寝てしまった。山本、福間は釣りに出掛けたが、つまみは釣れなかった。しかし夜は焚火を囲み、宴会が楽しい夜だった。
 このつづきは飯塚が書きます。

【飯塚】
8月11日 天気快晴
 砂地の台地で気持ちよい睡眠をとり目覚めた今日8月11日も快晴。
 幕場を7時に出発し、膝下の徒渉を繰り返し繰り返し進んでいく。谷に朝日が届く頃、下の黒ビンガと思われる切り立った壁が見えてくる。どんな激流があの壁の間を流れているのだろうか・・・。その水の冷たさを思うと身も縮まる思いである。下の黒ビンガの始まりは、両側の壁が迫っている暗い淵で、右岸に沿って水線を辿るが、すぐに水位が腰から胸以上に上がり、朝岡さんがザイルをつけて泳ぐことになった。ここはザイルを伝って、浮輪やザックにつかまり続く3人も問題なく通過した。淵を抜けるとそこは激流で、次は激流の中についに見を投じるゲンさんの出番である。激流の中、岩から岩へとジャンプして左岸にザイルを張ってくれた。そして我々は荷を渡して一人ずつ飛び込んだが、水の中に入ってわかったのは、あっという間に人なんて飲みこんでしまうであろう、激流の凄い力である。そして、再度やや激流となっている所をザイルを使用して渡り、下の黒ビンガの核心部を終えた。この時はこれから先には、これ以上の激しい流れや泳ぎが出てくるのだろうと思っていたのだが、今夏の異常な暑さによる水量の少なさによりこれが今回の溯行中の唯一の!?核心部となったのである。(泳ぎの下手な私めには大変ありがたかったのでした。)
 口元のタル沢では水線を辿り、泳いで渡った所は1ヵ所である。ここを過ぎると、運動場の様な広がりをもつ幅広い河原が延々と続き改めて黒部川のスケールの大きさを感じた。河原歩きにもいい加減飽きる頃、前方左岸に赤壁が望まれ、どうやら上の黒ビンガの始まりである。「もしやまた泳ぐのかなぁ。」と身構えたが、膝下の徒渉のみで花崗岩の美瀑、並んだすだれ状の滝に12時に到着。滝から降り注ぐ水しぶきに虹がかかり、水面がキラキラ輝く青い沢のもう最高の場所で、いきなり釣師に変身したゲンさん(ミミズ派)対福間さん(毛鉤派)は、約2時間釣に勤しむ。が、残念ながらこの日の収穫はナシであった。他2人も思い思いに過ごし、この素晴らしい沢の中でのこうした時間は、本当に貴重なものであった。
 そして金作谷の手前の右岸の砂地を本日の幕場とし、この黒部川では恒例となった、明るいうちからの尽きることのないタキ火→歌付の宴会→朝岡講師の星空教室が今宵も盛大に開かれ、我々4人は再び黒部の砂地で快適な夜を過ごしたのだ。それにしてもこの夜の流星群は、たしかにたくさんあり、一つの星が流れる度に大歓声があがり、私も生まれて初めてこんなに沢山の流れ星を見ることができて、大感激だった。きっと明日からの溯行もうまくいくに違いない-そう思わせてくれる星空の夜だった。

【福間】
8月12日 天気快晴
第3日目 金作谷~立石奇岩~B沢
 雪渓に埋まる金作谷をあとにする。ここからすぐに泳ぐ箇所が3ヶ所出てくるのだが、今年は徒渉でクリアできた。3ヶ所目は深い淵から急流となっている。朝岡君が2回チャレンジするが流れが急なため最後の左岸への渡りができずに戻ってくる。ゲンさんがライフジャケットでなんとか突破。岩が花崗岩でつかむ所がなく難儀したようだ。我々はザックを浮袋がわりに泳ぐ。右岸より赤牛沢が流れ込む。本流とは数メートルの段差があり、仏像の台座にかかった布のように水が落ちる。そのすぐ先に岩苔小谷が右岸より現れる。ここは大きなゴルジュのトロがある。緑色の美しくも畏くなるようなトロである。ここで大休止。ライフジャケットをつけ岩棚から飛び込む。水の中も緑で白い細かな泡をたてながらもぐっている自分が「緑の館」の主人公になったような気がする。最高に気分爽快。これぐらい泳げたらいいのに。このゴルジュをぬけると左岸に大きなすだれの滝がでてくる。ちょうどその対岸は高台になってテントが張れ滝見見物するのにもってこいのようだ。
 いよいよ立石奇岩が現れる。足元に気をとられていると通りすごしてしまう。実に奇怪な姿で空にそびえていて、今にも崩壊しそうだ。後でゲンさん曰く男の××のようだといって女性組の冷たい視線を浴びる。この先のちょっとした淵でゲンさんがイワナがいるというが誰も信じようとしない。あまりうるさいので皆でのぞいてみるとなんと一尾足元にいるではないか。実にノンビリとしている。今日は薬師沢まで行きたいのにこんな所で遊んでいる場合ではないと思いつつ「ゲンさん釣らなきゃ」と発した自分に少々あきれながらこの釣堀状態のイワナに糸をたらす。しばらくするとゲンさんの騒ぐ声。本当に釣ってしまった。あわてて記念撮影をしたあとどうしようとイワナをもって騒いでいる陽子ちゃんからイワナを受けとりさっそくとどめの一刺。内臓を取り出し蕗の葉にくるんでパッキングOK。興奮さめやらぬままEDC沢を過ぎて2mの滝を過ぎた所でイワナがはねるのを目撃するが誰も信用してくれない。又またはねる。必死であそこあそこと指さす先の小滝でイワナも必死で滝のぼりをしている。そのあまりの数の多さととても登れるとは思われないほどの急流を泳ぐというよりかけ上っていくイワナの生命力にしばし皆で興奮。朝岡君はヘルメットでジャンプするイワナをなんとかすくい取ろうとするが空しい。こんなにいるんだからこの淵にはもっと沢山のイワナがいるはずだとすぐに釣師に変身。心おちつけてのぞいてみるといるわいるわ岩かげに群をなしているのが見える。次回ここにくる人はぜひ網をもってくることお勧めします。というほどすごかった。イワナに遊ばれすぎてここで時間をくってしまったので近くにテント場を探すことにする。B沢A沢の間の4mの岩をゴボウで降りた所には2人の釣り組が場所を確保していたのでその先をうろうろしながら岩を掘り起こしてなんとか場所を作る。午後4時半薬師沢へあと1時間程の所でこの夜は一匹のイワナがもたらした至福に酔いしれた夜だった。今夜も満天の星に白い天の川、飛びかう流れ星に願いをかけ上ノ廊下の唄を唄い焚火の炎にこの世の幸せを見たのだった。

【山本】
8月14日 天気晴れ
 昨日まではどっぷりつかって満足した我々は三俣山荘を後にする。三俣山荘から見る鷲羽岳は急登である。しかし我々は重い足を引きずって鷲羽岳へと出発する。
 1時間30分で山頂に到着。山頂で上ノ廊下を見おろす。長かった上ノ廊下を目に焼き付け、竹村新道へと向かう。竹村新道は道はしっかりしているが、かなり崩壊して怖い登山道である。
 5時間かかってやっと湯俣温泉に到着。暑くて長かった。今夜はビールにどっぷり浸かって上ノ廊下の思い出話に宴会がもりあがった。

8月15日
 重い頭と重い足にムチを打って高瀬ダムへ下山したのです。

〈コースタイム〉
8月10日 黒部ダム(8:30) → 平ノ小屋(11:30~12:00) → 渡船場(12:15) → 東沢谷出合(15:00)
8月11日 幕場(7:00) → すだれ状の滝(12:00) → 金作谷手前幕場(15:00)
8月12日 幕場(6:40) → 赤牛沢(9:00) → C沢(13:00) → A沢手前幕場(15:00)
8月13日 幕場(7:20) → 薬師沢小屋(8:30) → 赤木沢出合(10:00) → 三俣山荘登山道分岐(14:00) → 三俣山荘(15:00)
8月14日 幕場(6:20) → 鷲羽岳(7:40) → 竹村新道分岐(12:00) → 湯俣温泉(16:20)
8月15日 湯俣温泉(7:20) → 高瀬ダム(10:15)

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