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雪訓・タカマタギ
服部 寛之

山行日 1995年12月16日~17日
メンバー (L)服部、田代、福間、澁谷、笠原、小幡、小林(章)、高木(敦)

 タカマタギは、土樽駅の西側に位置する1529mの頂上を持つヤブ山です。ふもとからの標高差は940m。同駅を出た下り電車がすぐ鉄橋を渡るとき左側に見えます。
 私の記憶では、例会でこの山に雪訓に行くのは、92年冬以来3年ぶりです。そのときも12月の同じような時期でした。雪訓で踏めなかったピークを、年が明けて間もなく、鈴木アッコさんや勝部氏らが改めて踏みに行きました。

 今回は前夜(15日金曜夜)高崎駅に集合し、ステーションビバークで翌朝の下り始発に乗り継ぎ、水上駅で乗り換えて土樽駅まで行きました。水上からの電車はスキー客でいっぱいでしたが、土樽で降りたのは私たちと数人の山屋だけでした。土樽駅前のスキー場は、テレマークの練習には穴場かもしれません。駅待合室で身支度をして、小雪の降るなか9時すぎに出発しました。
 92年の雪訓のときは上越線のガードをくぐってすぐのゆるやかな尾根に取りついたのですが、雪に埋まらぬ枝々にはばまれて時間を喰い、途中でやめてしまったのでした。その後ピークを踏んで雪辱を晴らした勝部氏らが取りついたのは、もっとピークに近い東側の尾根だったと聞いていたので、今回はそちらの尾根に取りついてみようと思っていたのですが・・・・・・。
 今年の冬は雪が多いというウワサは、清水トンネルを出た直後に納得しました。毎年冬に来るたびに思うことですが、この清水トンネルは別世界へつながる正真正銘のSF的異次元トンネルです。このトンネルを新潟側に抜け出たときほど「雪国」ということばが実感をもって迫ってくることはありません。長い暗闇をくぐって、眩しい白銀の世界へ飛び出ます。
 土樽駅前でいきなり除雪車の歓迎を受けた私たちは、毛渡沢・魚野川出合いの毛渡橋を渡ったところの平標山方面への林道入口で、こんどは腰までもぐる雪に迎えられました。前回よりも多い積雪が体で感じられます。雪は湿って重く、結局、この重い大雪に文字どおり足を取られて、雪訓は終わってしまうことになりました。
 関越道と上越線をくぐり200メートルも行くと毛渡沢沿いに平標山へ左折する道への分岐ですが、深い雪のラッセルではそこまでですらなかなか到着しません。分岐の先でワカンを付けると幾分もぐらなくなりましたが、それでもまだ股まであります。交代でラッセルを続けること4時間、やっと計画した尾根の取付き付近と思われる地点に到着しました。これではまるでラッセル訓練です。
 すでに時間は1時半。時間が時間なので、ピークに行くことは断念して、林道上にベースを張ってから、行けるところまで行ってみることにしました。設営が終わって2時、再びワカンを付け直して服部が先頭で手近な斜面に取り付きましたが、深いずぶずぶの雪の急斜面に思うように登れません。バタバタもがいている服部を見かねて小幡氏が、ランニングで鍛えた強力鉄人パワーでがむしゃらに突進。それに触発されたのか、田代氏もその横で全開フルパワーのコンニャロ登りで活路を開きます。それで全員なんとか尾根上に這いあがり、深いラッセルを交替しながら進みます。乱立する木立を右に左に廻り込み、枝を跨いだりくぐったりして、尾根の高い方へと行こうとしますが、行く手に雪が詰まった深い小沢(後に小松沢源頭部と判りました)が入り込んでいて、どうしてもそれを越えられません。結局その小沢に沿って高度を上げ、小沢を越えられそうな地点まで登ったところで4時となって時間切れ、Uターンしてテントに戻りました。
 その夜、笠原・小幡・高木・田代各氏の入ったテントは音声の切れ間というものがないほどのブッコワレ人間ジュークボックス状態となり、隣のテントが耳疲れを起こして寝てしまってもなお、おしゃべりと歌はしつこく盛り上がりを見せたようでありました。テント割りというのは、まったく、未知の化学実験みたいで、混ぜようによっては激しく反応して高熱を発し、キケンです。おもしろいので注意しましょう。

 翌日も雪。昨夜星が出ていたので晴れを期待したのですが、やはりここは「雪国」です。きのう林道につけて来た深いトレースは見事に埋まっています。帰りのラッセルのことを考えるとあまり時間もないのですが、トレーニングに来たのですから少し登ってみることにしました。
 今日はきのう越えられなかった小沢の向う側の尾根に取り付くことにして、テントから林道を少々廻り込むと、すぐに群大ヒュッテがありました。「なあんだ」ということになり、これで私たちの正確な位置が判りました。小沢は小松沢です。群大ヒュッテの前から取り付き、きのうと同じように交替でラッセルします。時間的には一人5分交替で全員を2回りもすれば引き返さねばなりませんが、雪に埋もれた樹林の中を全力で道をひらいて行くのはなかなか楽しいものがあります。次の人に交替して列の後ろにつき、ふとまわりの景色に目をやると、雪を被った枝々が描きだす白い幾何学模様が美しく森の空を飾っています。森閑とした自然の芸術に心が洗われる瞬間です。小松沢をうまく越えた私たちはぐんぐん高度を上げていきますが、9時になった時点で引き返しました。
 テントを撤収して、埋まったトレースをたどって駅に急ぎます。ラッセルはきのうほどではありませんが、それでも膝上から股まであります。関越道をくぐって林道入口の毛渡橋に出るまで今日は3時間かかるかと思いましたが、2時間で済みました。きのうの倍のスピードです。土樽駅に着いたのが12時50分。3時12分発の次の上り電車まで、残りの酒とツマミで待合室がしばし臨時宴会場と化したのは、言わずもがなでしょう。湿雪で濡れてやや不快でしたが、みなさん、ラッセル登攀訓練、お疲れさまでした。

〈コースタイム〉
16日 土樽駅(9:15) → 林道入口(9:30) → 幕営地(群大ヒュッテ手前)(13:30~14:00) → 引返し地点(16:00) → 帰幕(16:20)
17日 発(7:20) → 引返し地点(9:00) → 帰幕(9:25~10:25) → 毛渡橋(12:30) → 土樽駅(12:50)

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