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平成八年春山合宿 苗場山及び剱岳周辺
その3 剱岳・小窓尾根隊

山行日 1996年5月1日~5日
メンバー (L)山本(信)、城甲、湯谷(良)、飯塚、笠原、田代、小幡

 【山本】
 5月1日(水) 雨
 上市駅に着くと一日早く来た城甲氏の出迎えをうけ、タクシーで馬場島へ向かう。タクシーは青少年センターまでしか入らず、この先はオヤジが手配してくれたトラックで馬場島へ向かう。
 山岳警備隊に登山計画書を提出し終えて出発準備をしていると、雨がパラパラ降ってくる。雨の中を歩きたくないと思いながら出発。雨は止む気配はなく強く降るばかり。小窓尾根の取り付き手前で大きな岩小屋を見つけた。自分は雨の中を歩きたくなかったので岩小屋に幕を張りたかったが、6名は誰一人賛成の返事がなかった。
 思い腰をあげて小窓尾根に取り付く。1400mの台地まで来ると、後ろからこの辺に幕を張りませんかと声がかかった。自分はうれしかった。幕を張り終え、1日の無事を祝って祝杯を上げる。
 いやな1日だった。

 【笠原】
 5月2日(木) 晴
 昨日とはうって変わり良い天気になった。
 6:30分に出発し、しばらくは広い雪稜の尾根を進む。気温が結構高く、時々遠くの雪崩の音が聞こえてくる。
 1900mピークよりやせた尾根となり、1回懸垂で下降。トラバース気味に進んだ後岩稜帯になった所でロープを2回フィックスしてもらい、初めにビナ通しで進む、次のピッチをプルージックで登った。
 急な雪壁を登りニードルを池の谷側を巻く。一旦コルへ下った後、再度急な雪壁を登りドームに11:50着。ここからはマッチ箱への長い登りが良く見渡せた。雪の状態が悪くなっているらしく、先行パーティーは慎重に1人ずつ登っていたが、私達は全員で一気に行ってしまった。(後から聞いたところによると結構ヤバイ状態だったらしい。)
 マッチ箱を過ぎた最初のコルで先行パーティーが幕営しており、ここで私達も本日の行動を打ち切りにした。整地している最中に、大粒の雨が降り出したので、先へ伸ばさずにラッキーだった。

 【飯塚】
 5月3日(金) 晴れ
 AM6:30出発。昨日からの冷え込みで、強は雪面がしっかりクラストしていて、アイゼンがガッチリときいてくれる。
 マッチ箱の上部から小窓ノ頭までの雪稜を登り、小窓ノ王から三ノ窓へは懸垂下降で下降し、ようペースで池ノ谷ガリーへと歩を進めていく。3年前の赤谷山からの縦走の時は、辛くて長くて泣かされたこのガリーであったが、今回は雪も豊富な上にっステップがきっちり刻まれてあったせいか、意外な程登りやすく感じた。登りつめて池ノ谷乗越しへ到着。
 剱岳東面は太陽が眩しく、かなりのデブリがあった。更にもうひと登りひと頑張りで、7人揃って剱岳のピークに立つ事ができた。
 快晴のピークに立ち、皆と握手をしながら感激を味わう。また、この剱岳のピークにつき上げている尾根や谷を360度見渡して、改めて剱岳が雄大でスケールの大きい美しい山であることを実感することができた。記念写真を撮ったり、それぞれが充分に春山・剱岳を堪能してから、今日の幕場・真砂沢へと下山開始。平蔵ノコルからは、湯谷さんが今晩のメインドリンク20本を購入するという任務を果たす為に、一人剣小屋へと下っていった。他のメンバーは、腐りかけの雪の平蔵谷をお得意のシリセードで、快適に!?下っていった。うちカッパを新調した2名はツボ足を選択し、・・・・・お疲れ様でした。
 この晩は、げんさんと共に小窓尾根を登った焼肉と、北陸味・キリンビールで大いに盛り上がった真砂沢での宴会で、夜は更けていった。

 【小幡】
 5月4日(土) 曇り
 テント場出発6時40分、田代氏はテントキーパーするとの事で6名にて源治郎尾根へ向かう。本日で春山合宿も4日目となった。昨日はアルコールをやや控え目にした為か体調良好、湯谷氏の後をとぼとぼついて行く。尾根取付きより急登の連続、一歩足を滑らせれば急斜面を谷底まで一気に滑落し命もないだろうと思うとピッケル、アイゼンと、ついつい力がこもる。下を見ないよう三点支持を確実に高度をかせぐ。剱は今まで自分が登った山とは、やはり違うなとつくづく感じる。雪壁の連続、クレバスの通過と、色々冷や汗個所を何とか通過出来ホッと一息・・・・。
 先行パーティのテント場の跡か、ここにて大休憩となる。この先懸垂個所有り、かなりのパーティが順番待ちのようで、まず安全な所で待とうとなる。10分、20分、時間は経っていく。5、6人いたから1人5分として、30分位すれば下りるんじゃない等と色々意見は出た。しかし剱から下りて来た2人のパーティの話を聞くと、この分だと1時間半から2時間は待たないといけないと言われ皆「えー」の一言・・・・。じっとしていると寒さも増し、途方もない不安を感じる。頂上は断念し雪壁を下山したらよいのか、又平蔵谷を下りられないものか、色々意見は出るもただ待つばかりとなる。天候は悪くもならず、良くもならず、そんなに心配することはない。右前方を見ると八ツ峰をかなりのパーティが登っている。八ツ峰とはそんなに魅力のある山なのか、金子さんの冬、剱の原稿一部分が頭にうかぶ。『残り少ない酒を空にして、登頂を喜び合い、夢を語り、歌を歌う。酔うほどに嬉しさがしみじみ込み上げ、次は小窓尾根、赤谷尾根、やれ八ツ峰だ』と、この気持ちは今、原稿を書いている時に思い込んだもので(7/2)、その時はただ、早くピークを踏んでテントへ戻りたいの一言であった。
 1時間も経ったのか、山本さん「様子を見てくる」との事で一人、這い松の出た雪稜を一歩一歩確実に登って行く。姿が消えてからの待つ事、待つ事・・・・。1時間位経ったのか、山本さん頭の上で大きな輪を作り「GO」のサインが出る。一同ホッとし着実に足を運ぶ。懸垂手前かなり狭い雪稜、山本さんの「後向きで下りろ」の声を聞き慎重に下り、やっと懸垂基部に到着。懸垂は皆慣れたもので蜘蛛が糸を引いて下りてくるよう華麗であった。
 あとはピークまで特に危険な個所もなく、剱頂上、13時30分到着。記念写真となる。あとは昨日下山した平蔵谷をシリセードで下山するのみ。今日はびんびんに飛ばし、田代氏の待つテントへ向かう。昨日は湯谷氏のビールの買い出し、今日は山本さん、笠原さんの買い出しで夜は登頂祝いと、アルコールの酔いで幸せ一杯の気分でシュラフに入る。
 リーダーの山本さん、そして湯谷氏、同行の田代氏、城甲さん、飯塚さん、笠原さん、春山の剱を無事に終えありがとうございました。来年は春の八ツ峰を目標にやってみませんか・・・・。

 【笠原】
 5月5日(日) みぞれ後吹雪
 夜半からの雨は、出発する頃には雪となった。当初ハシゴ谷乗越から下山する予定だったが、雪崩の危険を考え別山乗越を経て室堂へ下山することになった。
 剱沢の登りはダラダラだが遅々として進まない。10時頃にようやく剱沢小屋付近でスキー隊と出会い、小屋で1本いれた。
 この頃より視界は一段と悪く風もでてきて雪が顔に吹きつける。再度剣御前小屋でスキー隊と会い雷鳥沢を下った。結構傾斜がきつく、スキーで登るのは大変だろうなと思った。雷鳥平、みくりが池を経てやっとこさっとこ立山バスターミナルに着いた。今回の山行で一番つらく長~い行程だった。
多くの人が憧れる剱岳はどんなにかオソロシイところに違いない!ましてや5月の小窓尾根なんぞ私ごときには・・・・と思っていた。しかし、天候に恵まれ、雪が沢山ついていたせいか、どうにか泣きを見ずに済み、美しいスケールの大きい剱を堪能することができました。リーダーはじめ、メンバーの皆様大変お世話になり有難うございました。

〈行動概要〉
1日 馬場島(8:30) → 1600m下部(12:00)
2日 幕場(6:30) → 2100m(8:40) → ニードル(10:15) → ドーム(11:50) → マッチ箱上部(16:00)
3日 幕場(6:30) → 池の谷乗越(9:45) → 剱岳ピーク(11:20) → 真砂沢幕場(13:30)
4日 幕場(7:40) → Ⅰ・Ⅱのコル(10:00~12:00) → 剱岳ピーク(13:30) → 真砂沢幕場(15:30)
5日 幕場(7:00) → 立山バスターミナル

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