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平成八年集中山行 両神山
その4 八丁尾根うんにゃら隊
服部 寛之

山行日 1996年6月9日(日)
メンバー (L)服部、大久保、荻野、四方田、(遠山)

 うちら八丁尾根隊は前夜発1泊で行く。足はオレのくるま。集中前日の土曜日は参加者全員仕事しなくていい日なので、いい日旅立ちはJR八王子駅南口ちょっとけだるい休日のばんめし前の午後6時というやや早めの設定であった。ところが、オレが渋滞で1時間近く遅れてしまったので、出発するときには全員まとめてイライラ度13%+ショーガネーナ度32%+コンニャロ度6%の混合気配ただよう車内状態になってしまった(すまんこってす)。しかしそれもすぐプシュグビグビプッハーッ音にともなうビール臭にまぎれて消えてしまった。
 ポツポツ雨の中八王子~青梅~名栗~西武秩父駅(トイレ休憩)~金山志賀坂林道というコースで八丁隧道入口手前の広場まで行く。当初八王子からそこまで3時間とふんでいたが見通しが甘かった。4時間近くかかってしまった。見通しは林道も悪く、真っ暗闇夜に視程10m弱の濃霧雨であった。そういえばいまフト疑問に思ったのだが、このくらいの濃霧だとヒトはどうして顔をフロントガラスにくっつけながら運転するのであろうか?ふつうの姿勢でも見えるものはたいして変わらないと思うのに不思議である。それとも他のヒトの場合濃霧は姿勢に影響しなくてそういう極端な前窓顔面近接姿勢を取るのはオレだけなのであろうか?
 この辺まで山中を上がってくると雨はそれなりに降っており、テントは東屋の中に張る。いつも通り就寝前の宴会に突入するが、明日の3時間半の岩稜ルート経由11時山頂着というスケジュールを考えあらかじめ荻野さんには呑みすぎないようクギを刺しておいた。だがそれでもオレの1年分くらいは軽く呑んだ。いやはや。

 翌朝起きると今村さんが若い美女AB2名をつれテントに泊っていた。ムムム化する事態に、雨がまだポツポツ降っているので、東屋の下でお茶をわかし一緒に朝メシに誘って観察する。今村さんの美女ABは同僚とはいえ親子ほど歳は離れていて、今村さんもなかなかスミに置けないのだ。
 7時少し前出発。くるまで隧道を抜け落合橋まで下りて行くと、他のパーティーのみんなが焚火を囲んでおり、期せずしていきなりわいわい集中が成ってしまった。そこで、山頂での集中は止めにして、各パーティー勝手に登って下りてくることになった。
 うちらは先頭を切って7時20分出発。上落合橋から八丁峠に上がる。天気は回復にむかい始めたようで、ポツポツ雨も止んだ。この登りは結構な坂で、樹林のなか峠に向け一気に高度を上げてゆく。オレと四方田氏と遠山さんはひと足先に、酒毒過多の荻野氏と本日のキジ射ちの儀第2段目未終ケツの大久保氏(注1)はあとからゆっくり登ってくる。

注1 前射ち、後射ちと断続的に2回射つ(即ち、2段射ち)のは紙が不経済であると以前から指摘されており、この習慣はこの人の財政圧迫の一因ともなっている。
注2 この手の中身のない軽薄バカギャル語はすぐに滅亡するので将来万が一このバカ文を読む人のために解説しておく。「チョベリバ」は超Very Bad、「チョーエムエム」は超Meccha Mukatsukuの略。同様にチョスロは超Slowですね。これはオレがもじった。

八丁峠の展望台で白い霧景色をポカンと眺めながら待っていると、後から来たのはナンと美女ABを引き連れた今村パーティーであった。大久保氏は儀式に手間取っているようで、荻野氏はチョスロである。ウ~ム、これはチョベリバじゃ!と、にわかにチョーエムエム化してると(注2)、間もなく大久保氏到着。そしてややあって荻野氏がようやく上がってきたが、息もいっしょに上がっておるのだ。いやはや。
 続いてすぐに勝部氏、会長、佐藤明氏の赤岩尾根変更温泉酒宴隊もこっちにルート変更して上がってきた。彼らは今朝の焚火に燻されたためきのうの酒毒の分解もかなり進んでいるようで、すこぶる元気である。峠の展望台はにわかに賑やかになったが、今村パーティーは美女ABへの種々の悪影響を心配するかのように(分かるなあ、その気持ち)、先に出発。われわれも混成部隊となって間もなく出発した。道はここから両神の頂上まで樹林と岩稜がミックスする稜線となり、岩稜のなかには結構急峻なところもあるという話なので解毒が進まぬ荻野氏が少々心配だが、本人の登頂意欲も強いのでまあなんとかするべーとオレはリーダーとしてここで覚悟を決めたのであった。最初のうちは岩場もなんてことなく、オレ、遠山さん、四方田氏に続いてオラオラ化した大久保氏が荻野氏につき、その後を勝部パーティーが会長の声だけやたら突出させてあおって進む。天気もあおられたのか、見通しのきく岩場の上に立つと、盛んに上昇する白いガスの下に緑の樹林がしっとりと広がり、なかなか気分が良い。遠山さんは未入会なので、ソソウがあってはならぬと大久保氏に事前に電話で注意をうけていたので彼女の前をカラキジを必死にこらえながら行くが、これは時折けっこうきついものがある。こういう思いって意外とみんなしているではないでしょうか、多少なりともデリカシーがある人は。ついでに言えば、これはカツヤク筋という名称がすなおに納得できる事態でもあった。遠山さんは、見ていると身が軽くてバランスも良く、岩場をひょいひょい上がってくる。続く四方田氏も難なくこなしてついてくる。が、モンダイは荻野氏だ。立ち上がったちょっと長めの岩場の途中で、オレはとうとうザイルを投げた。会長がうなずきながら受け取って荻野氏の胴にしっかりと縛りつける。岩場は解毒が進んでちゃんとニンゲンに立ち返っていれば何ということもない所なのだが、落ちて頭でも打てば死ぬので、ここは慎重に行く。本人が大丈夫と言っても酒毒過多のニンゲンはどこまで信じていいのか経験的によう分からんのがオレの弱みであるのだが、話し二分~三分と思っておけば間違いないのだ。ザイルはいちいち外していると面倒なので、オレがそのまま引っ張って行くことにして、遠山さんと四方田氏は大久保氏に任せて先に行ってもらう。荻野氏はちょっと油断するとすぐ自発的かつ積極的に休憩するので、ザイルをつないだままの方が山行がスムーズに進捗することも間もなく判明した。こうして荻野氏はそのまま両神の山頂までザイルにつながれた人生を歩むこととなったのである。
 ほどなく9時35分西岳に着くと、だいぶ回復してきた空の下で今村美女パーティーがウフウフしながらやすんでおり、うちらもその横に少々腰を下ろす。だが何しろチョスロの進行具合なので、今村パーティーが出発すると同時にうちらもあわただしく立ち上がる。その先は、今村パーティーと大久保分隊がひと足先に先行し、その後をオレ、ザイル、荻野氏、勝部パーティーがローギアで進行してゆく。だが途中の岩場でアクシデントが起こった。たぐったはずみにザイルが踊って荻野氏の眼に当たり片方のコンタクトレンズが飛んでしまったのだ。幸い眼は何ともなくてよかったのだが、ツイてないのだ。予備のレンズもメガネもなく、ますます覚束なくなった足元にローギアのアクセルをさらに緩めて慎重に行く。
 やがて11時東岳に着いたところでのんびり待っててくれた今村美女パーティーに追い付いたが、大久保分隊は既に姿を消していた。一本取って出発すると、前方の稜線からモートーコールが聞こえ、じきに水田沢登りパーティーのメンメンとヤアヤア行き合った。彼らは沢が余りにも物足りなかったので八丁尾根を下りることにしたのだ。
 11時50分、ようやく両神山頂に到着。大久保分隊は1時間近くも前に着いていたとのこと。いやー、おっまっとさんでした!荻野氏も念願のピークに立てて感慨深そう。ぐぁんばって良かったのだ、とザイルを外しながら思いましたね。山頂は狭い岩のピークで、他のグループも大勢いたので、記念写真を撮るとすぐに南側の少々広くなった尾根まで下りて大休憩とする。
 その先は、落合橋まで岩場のない山道を下りるだけである。もうザイルも要らないだろうと幾分気を抜いて歩いてゆくと、道をふさぐように倒木が横たわっていたのでそいつを跨ごうとわが右脚をナナメ38度に持ち上げた途端であった。静かな山中に突如異様な怪音が鳴り響いたのである。ナンと、それまで堪えにこらえ溜りにたまっていたワシのカラキジがいきなり大音響大漏圧大噴出してすまったのだす。気を抜いたら腹の気も抜けてすまったのずら。しまんでした。オレのすぐ後ろにいた会長がものすぎゃびっくらこいて大コケすてすまったが、本人も驚いたす。なにすろ瞬間、からだがちびっと浮いた(ような気がした)んだずら。ちと恥ずかしいのでいきなり言葉がナマッてすまったが、しかしあれはひさびさのヒットであった。
 途中からみんなに先に行ってもらい、会長とオレとで足元がよく見えない荻野氏について下りる。落合橋に下り着いたのは1時半もだいぶ回った時刻であった。すると間もなく八丁峠から沢パーティーも下りてきて、またもや全員登山口に集中と相成ったのでありました。
 その後、ひと足先に帰る今村車を見送ったのち、3パーティーくるま4台でつるんで両神温泉に行ったら、今村さんらもやはり来ていたのでした。風呂からあがってさっぱりしたところで、そこで解散となった。

 今回は、たまたま一緒になった勝部パーティーにはご迷惑をおかけしました。特に最後まで事故のないよう面倒をみてくださった田原会長には御礼申し上げます。ありがとうございました。大久保氏も同行してくれて大助かりでした。実は大久保氏は当初参加する予定ではなく、オレが土曜当日の朝電話してパーティーに引きずり込んだのでした。メンバーの顔ぶれを告げたら、奴はオレひとりでは手に負えないだろうと何も言わずに助太刀参加してくれたのであります。その勘はまさしく大正解でありました。こんど奢ってやらんといけんかなあ。


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