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集中山行 上越朝日岳
その5 大源太山隊
服部 寛之

山行日 1996年9月15日~16日
メンバー (L)服部、有賀、遊佐(清水峠合流)

 私が三峰に入ってまだ間もない頃だったから、もうかれこれ一昔前のことになるが、川田さんリーダーで巻機山から朝日に向け縦走したことがあった。そのとき初めてまじまじと対面した大源太山の姿が、長く瞼に焼き付いていた。深い谷を挟んできりりと立つその姿は、山歩きを始めばかりの頃の、みずみずしい山の感動とともに、今でも素晴らしい思い出となって残っている。
 以来抱いていた「いつかはその頂きに」との思いは、なかなか果たされずにいたのだが、今回の朝日岳集中でそのチャンスがめぐってきた。うれしいのだ。
 集中の参加者はほとんどが沢登りにまわったので、当初ひとりでのんびり登ろうと考えていたのだが、最終的に有賀さんが同行することとなり、また遊佐さんも途中から合流することになった。
 15日の朝、上野発の「あさひ301号」に乗り込み、下車した越後湯沢駅で有賀さんと合流する。新幹線の旅は目的地に早く着いて便利な反面、途中の移動プロセスが3倍速隔絶風景となって素肌に実感されないため、「遠くに来たなぁ感」が薄れ、なんだか高い金出したのに損した気分になって、精神衛生上よろしくない。これは、美人おねえさん車掌による笑顔とお茶のウッフン無料サービスによって完璧に償われると思うのだが、JRさんどうか考えてください。
 9時過ぎ、タクシーで大源太キャニオンへ。タクシーはヒロクボ沢出合まで入った。林道のどんづまりのクルマ4~5台分のスペースは、既に満車状態だった。
 ヒロクボ沢から大源太山頂まではおよそ800mの標高差である。9時50分、出発。北沢沿いにしばらく進んで、やがて尾根に取りつき、ひたすら登る。ひいこら頂上まであと一歩というところで、知らないオッサンに手を差し出されて引っ張り上げられ、にっこりごあいさつ。きれいなおねえさんだったら、もっとにっこりできたのに。大源太山の頂上は、岩のゴツゴツピークだと想像していたが、意外な程平らであった。しかしまぜか羽蟻がいっぱいいて、わずらわしい。金子隊と連絡がとれる。
 13時20分、大源太山から七ッ小屋山に向かう。両山をつなぐ痩せた吊り尾根への下りは、一見急だが、二見しても急だった。ガイドには、途中鎖場が二ヶ所あるとあったが、鎖は一ヶ所しかなく、ボルトだけ残っている方の岩場は逆層で、ちょっと下りにくい。七ッ小屋山への上りにかかるところで無線の時刻となって、一本取る。金子隊は苦戦しているようで、今日は稜線まで届かないだろうとのこと。ここから振り返って眺める大源太山は、尾根道上にグイッと屹立していて、強烈なインパクトがある。武骨な男性的イメージでなかなかキマっている。
 14時50分、七ッ小屋山の稜線の道に出る。この谷川岳から続く馬蹄形の稜線の内側はガスでいっぱいで、良好だった視界に幕がおりる。ここでうまい具合にちょうど遊佐さんと出合った。遊佐さんは、土合駅にくるまを置いて、蓬峠から登ってきたという。腹が減ったので大休憩とする。あとは清水峠まで下りるだけだ。
 30分の下りで、16時清水峠着。例の三角屋根の送電監視所前には既に四張りあって、少し離れた小さな避難小屋も満杯状態。予想外の混雑ぶりに少々驚く。監視所前にテントを設営し、金子隊も今日こちらまで来れる見通しとなったと連絡が入ったので、彼らの幕場も確保する。湯檜曽隊、田代隊とはなぜか連絡が取れず。ここには水場がないと思っていたら、200m離れたところに小さな沢が流れていた。遊佐さんは監視所裏でスケッチに勤しみ、夕メシには早いので有賀さんとオレとでテントの外でお茶していると、金子・水田組がズブ濡れでやってきた。ザックから取り出したるテントもびしょびしょで、中に入ったら余計濡れそう。水もしたたる沢オトコも、好きでやっているとはいえ、つらいものがある。酒も切れそうでは余計つらかろうと、お察し申し上げた次第。
 翌朝はすばらしい天気。ガスもすっかり晴れ上がり、一ノ倉・谷川の岩肌も近く感じられるほど、くっきり見えている。反対側の朝日・笠の峰々にも一辺の雲もない。谷川にしては珍しいほどの上天気だ。
 6時20分、金子隊に先んじて出発。俊足の彼らには後から追いついてもらう。朝日岳への上りは長いが、高度を上げるにつれすばらし景色が広がって気分が良い。ちんたら歩いていたら、突然頭の上から、
「どちらまで?」
見たような形態の脚が並んでるなあ、と思ったら、その上に福間さんと高木(敦)さんのニコニコ顔が乗っかっていて、
「おぅ、なぁんだあ」
 傍らにジャンクション・ピークの道標が立っていて、思ったよりも早く着いた。まもなく金子・水田組も到着して、3パーティー揃って朝日のピークに向かう。するとすぐに飯塚さん、笠原さん、山沢さんのチャッキリトリオのお出迎えを受けた。
 湯檜曽パーティーは昨日のうちに朝日山頂まで上がってしまったそうで、ピークから少し下がったところの木道の上に宴席を広げ、単独で宝川から上がってきた野田さんも加わって、もうかなり出来上がっていた。なしくずし的に我々3パーティーも合流して、尚も宴は盛り上がって行き、若い委員長は集中の"シメ"に四苦八苦する。オレもこの時になって気づいたのだが、どうもうちの会の「集中」には「宴会するため」という自明の目的があるらしい。
 皆で集合写真を撮ったのち解散となり、足の遅いうちらは一足先に出発する。ひとり土合で皆を待ちわびるゲンさんと1時間毎に無線で連絡を取りながら(ゲンさんは、昨夜夜行をかけたが途中で道が不明瞭となり、指導センター泊となっていた)、笠ヶ岳から白毛門へとわりと賑やかな稜線をたどり、土合へ下りた。私は、重荷を担いでの縦走は久しぶりであったので、しまいには足がヨレヨレになってしまった。有賀さん、遊佐さん、お疲れさまでした。

 今回の山行のしばらく前に腰をおかしくしてしまい、考えた挙句補助として急遽登山用の杖を調達してきた。杖は腰の負担軽減には結構役立つ。だが杖をついていると、気分も歩き方もなぜかイッキに爺化してくる。登山用の杖は地味なものが多いが、ド派手な色柄にしたら歩く気分もだいぶ違ってくると思うのだが、どうだろう?

〈コースタイム〉
15日 ヒロクボ沢(9:50) → 大源太山(13:00~13:20) → 七ッ小屋山縦走路出合(14:50~15:25) → 清水峠(16:00)
16日 清水峠(6:20) → ジャンクションピーク(9:00~9:05) → 朝日岳(9:15~9:45) → 笠ヶ岳(11:00~11:20) → 白毛門山(12:10~12:20) → 土合駅(15:20)

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