トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ293号目次

今は昔の庚申沢
藤井 和義

山行日 1995年9月23日~24日
メンバー (L)藤井、田代、鈴木(章)、福間、笠原

 「今年最後の沢登りだね」
 「今頃入渓するのは我々だけかな」
などと言いながら、5人は銀山平の国民宿舎から300m奥にある駐車場の幕場を0800時に出発する。天気は薄曇りである。予報は下り坂とのことだが、本日中降雨の心配はなさそうである。
 歩き始めてほどなく、左岸からの丸石沢に沿って林道が右へ大きく曲る所の車止めを通過する。橋の手前で傾斜の緩さをみて林道から丸石沢に下り、さらに少し下って本流へ出た。
 リーチとタンヤオは最近の山行で一緒になることが多く、今回の準備打合せもツーカーで完了した筈であったが、昨夜新宿駅西口に2人共車で集合してしまった。若干のロスタイムで治まったが、これがほんとのツーカーである。
 軽い変化の流れを登ってゆくと、間もなく巨大な新しい堰堤に進路を阻まれる。書に従って右岸に取りつき、大高捲きを開始する。急傾斜にへばりついて登路に苦労していると、ソンナーがバックウォーターの水際をゆく後発隊と思しき人影を発見、見下ろせばスイスイと行く風だ。後に続けと我等は落石に注意しながら降りる。ナルホドこの手があったのかと進んで行くと、少し先で黒く淀んだ渕の中に入り込む状況になっていて、対岸に徒渉した足跡がみえる。「早速泳ぎかな」「楽はさせてくれないね」など云いながら順番を待つ。先頭のリーチが慎重に左側をへつりながら「なんか臭いな」と一言。川底を探りながら中央部へ左岸へと渡る胸までの深さで、ニーハオなんか顔しか出ていない。
 「目に枯葉山ふところで初泳ぎ」読人知らず......ひとたび水に浸ったらもうドンドン行くだけである。チュートロが寒さに強い体力を生かして水量のある落込み脇のハング気味を首だけ出してガンガンへつって行く、そんなチュートロに怖いものはないようである。ワイワイと後に続きニーハオはテープを操って突破する......このへんが沢登りの楽しいところであろう!
 どちらかというと幅の狭い印象の沢で、特別難しいところもなくて1510時に二俣到着となる。右俣の左岸に先着隊らしき天幕があり、5人は合流地点の下方30mの右岸を幕場とする。タンヤオが左俣へ釣り上がるが、10cmを2匹ひっかけただけで納竿となる。
 夕食後天幕の中で「日本酒よりウイスキーの方が温まるね」とか「来年も東北の沢をやりたいね」とリーチが切り出す。一方焚火の脇でタンヤオが「会の中で人気が高いけどどう思いますか」とさりげなく尋ねると、「今は山への想いで頭が一杯」と素晴らしいソンナーのお言葉。ソロソロ寝ヨーカナ。

 明けて24日、幕の撤収が済んだ頃から雨が降り始める。右俣の境沢へ入り右へ右へと進むと、目立った滝も無く、何れも小規模な廊下とゴーロである。数年経ったと思われる針葉樹の倒木が、所々に折り重なって行手を塞ぐ。雨は本降りになり、どちらかというと暗い渓相が更に暗く、ひたすら歩いて1時間と少々、なんとなくクタビレて木の枝が広く被さっている河原で一本となる。早速全員立ったままで口をモグモグ、ちょっぴり幸せで気分の落着く一時である。
 小休止より歩き始めると、程なく六林班峠からの登山道に出る。「登りたい人はどうぞ、ここで待ってるから」とニーハオが檄をとばす!?皆迷うことなく庚申山荘への下山道へと進む。標高1600mの現在地から1500mの庚申山荘までをゆったりと下って行く。熊笹の茂る右肩下がり(チョット嫌な響きである)の景色がずーっと続く道程である。
 庚申山荘は近年建てられたもので、既に3パーティほどが休憩していて、5人もホットコーヒーなどで暖をとり大休止とする。小屋番は居らず利用者の良識に任せている様子で、5人が一階と二階を見回した居心地は4ッ星かも。
 さて銀山平へのラストワンピッチ。水面沢に絡みながら一ノ鳥居まで下り、そこから林道をひたすら国民宿舎のかじか荘へ歩いて昼に到着した。そして5人は温泉につかり、飲んで食ってまた幸せになりました。

 追伸、どうしても庚申沢に入りたい諸氏へ。
 丸石沢出合の上流に近年築造された巨大な堰堤により変化の楽しめたと思われる渓相が嫌な形態に変わっている為、その上流からの入渓を御勧めします。

〈コースタイム〉
23日 銀山平(8:00) → 丸石沢出合(8:30) → 堰堤越(9:30) → 光風の滝(10:10) → 7mチョックストーン滝(10:30) → 水面沢(12:00) → ミオ沢(14:20) → 二俣(幕場)(15:10)
24日 二俣(幕場)(6:50) → 5mの滝(7:5) → 登山道(8:20) → 庚申山荘(10:30) → 銀山平(12:00)

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ293号目次