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平成10年正月合宿 槍ヶ岳・三岩岳・甲武信岳
その2 甲武信岳隊
鈴木 章子

山行日 1997年12月31日~1998年1月2日
メンバー (L)鈴木(章)、藤井、遊佐、澁谷、笠原

 もう20年以上前から、お正月の過ごし方には夢があった。
 それは、晴れ着にコタツにミカンに初もうで‥‥。
 だが、年末も近くなると、この10何年間、毎年お正月は山の中。晴れ着といえば、この15年間同じ物。確か鮮やかな赤だった膝と肘のパッチワークが可愛いやつ。15年前から写真の中でいつも目立っていた。でも、最近なぜか無地と化した愛用のWヤッケ、年末にこの服を取り出すと、又、夢が1年遠くなったと悲しくなる。
 1才でも若いうちに出来るだけ多くの所に出掛け、1日でも若いうちに出来るだけ多くを体験し、1時間でも若いうちに多くを学ばなければと焦りながら、その結果、今年も又、山中で正月を迎えてしまった。
 正月合宿が急遽中止。理由ははっきりわからない。でも、取り敢えずお正月は山で迎えたいと、私の所に仲間が集まる。
「どこかに行きましょうョ」
と、私を突く。
「ハテ?」
 今の私、訳有りで体力がない。体調不安、冬山やるには体重不足。どうすりゃいいのさ、どうすれば‥‥。
 近場でいい、近場でいいんだよ、雪が有れば‥‥。
 やっと思い浮かんだのが奥秩父。ここなら以前行ったことがある。それに、あの雁峠小屋に泊まろう。そうそう憧れの雁峠小屋、心安まる雁峠小屋。

12月31日
 西国分寺駅8時集合。藤井号と遊佐号、そして笠原嬢と澁谷嬢、最後に章子おばさん(私)が登場。
 何と華々しいメンバー、我ながらうっとりする。
 2台の車は一路塩山へ向け出発。空は快晴、何と暖かな日だろう。中央高速道からの富士山、南アルプスはあまりにも美しく、つい遊佐号は勝沼の出口を通り過ごしてしまった。藤井号は勝沼の出口で、私たちがたどり着くまでの間、何を考えていたのだろうか。申し訳ない!
 その後も多少のハプニングはあったものの、何とか新地平に。1台は西沢渓谷入口に、もう1台は新地平に。
 新地平には雪があり、雪に気を付けながら身仕度をし、昼食を済ませ、1時に出発。
 暑い暑いと言いながら林道を2時間、山道を45分、やっと峠へ着く。峠から見る夕日が、とても美しかった。夕日を見終えてから小屋に入る。先客は4人組の中高年、2人組の若者、どちらも2階を使っていたので、私たちは1階土間にテントを張る事にするが、しかし‥‥。
 テントを張り始めて気付く。大久保さんから送ってもらった内張り、何と2~3人用ではないか。それに笠原嬢は、重い重いとフライまで持ち上げていた。何とも打合せ不足、装備の管理不足。これから先、はてさて、どうなる事か。西国分寺を出てからすでに始まっていた珍道中。それでも澁谷チーフの豪華な夕食、暖かいテントの中、水もトイレも小屋の前、十分すぎる大晦日の幸せ。山中で迎えるお正月の幸せ。そして又、1年遠くなっていく夢へのさみしさ。「ああ、明日はお正月だー」

西国分寺(8:00) → 新地平(13:00) → 雁峠小屋(16:00)

1月1日
 4時半起床。明るくなったら出発と、ダラダラダラダラと支度をする。そこに3人スニーカーをはいた若者が登って来た。笠取山で日の出を見るらしい。でも夜中、雪の上をよくスニーカーで来たものだと、恐ろしく思う。
 6時半頃、今年こそは日の出を見ようと意気込んで出発。古礼山への登り途中で、日の出を待つが、何と元気のない、空は真赤に燃えたのに、出てきたとたんに黒い雲が出て、クシャ。つい、今日1日、天気に恵まれる事を祈ってしまった。
 日の出を見終わると、私たちは又雁坂峠目指してどんどん進む。雪も膝まで、トレースもしっかりしているが、出合う人はほとんどいない。冬は結構穴場だなと会話もはずむ。途中で出合ったカモシカも逃げもせず、珍しそうに私たちを見ている。ここだけは、時間がゆっくり流れる気がした。
 雁坂峠からは出会う人もだんだん多くなる。やはり甲武信岳は人気の山なんだな。でも出合うのは全て中高年ばかり。若者はやっぱりアルプスへ行っているんだろうな。
 東破風山まで登ったら、全員疲れてしまった。今日の予定は甲武信小屋までだったのに。
 笹平小屋でテントを張ってしまった。1時40分、何と早い! 残りの時間をどう使うのか-。私と澁谷嬢は水汲み、遊佐さんは絵を描くとか。他の2人はゴミ燃やし。
 水汲みに行った私たちは、水場が遠くて苦戦。絵を描きに行った遊佐さんは、画材が水彩絵具だったので、画面と筆が凍ってしまったと、ぼやく。でも夕方になると皆それぞれ他にする事がなくなったので、早々と夕食にする。
 昨日に続き、テントの中は又ほのぼのとした幸せが始まろうとしている頃、単独の女性が小屋に入って来た。慣れた手つきでテントを張り、雪をとかし水を作り出した。何年か前の元気な自分を思い出して、なつかしい。

雁峠(6:20) → 古礼山 → 雁坂峠 → 東破風山 → 笹平小屋(13:40)

1月2日
 適当に起床。予定があってない山行。ここらあたりからダラダラとなる。今日の予定もたたない。国師岳に行くには遠すぎる。それでも甲武信岳くらいはと出発する。
 天気は快晴、日差しがまぶしい。日焼止めクリームも自然に厚くなる。富士山がやたらにでっかく見え、登りも結構つらい。さらに澁谷嬢が、昨日からの続きか、又「腹ヘッタ!」とうるさい。休息ごとに食べている。彼女のザックの中身は全て食料ではないかと疑いたくなる。よくもまあ、色々な物が出てくるもんだ。しかも全て行動食。
 戸渡尾根の分岐から足跡はさらに増す。こんなにもこの山は人気があるのか、と感心する。私も今回で3~4度目だと思うが‥‥。
 小屋のオヤジサンは、12月30日~1月4日まで居るとの事。
「犬はどうしたのか」と尋ねると、「正月休み」だと言う。きっと晴れ着を着て、コタツに足を突っこんで、テレビを見ているだろうなと思った。あー、犬は幸せだなあ。
 甲武信小屋の前で再度今後の予定を話し合う。皆地図を広げ出すが、私の地図は古いからダメだと言う。良く見ろ発行年を。今回の私の地図は誰よりも新しいのだ!
 結局、本日中に下山することになり、それまでの間、遊佐さんは甲武信の頂上で絵を描くと言う。他4人は三宝山まで遊びに行く。雪が適度にあり楽しい登りだ。
 この山確かに来た事が有ると山頂で考える。でも思い出せない。もうそんなに多く生きてしまったのか、時はなんて早く進むのか。山頂は樹林帯の中、展望は望めないが三宝岩に登ればすばらしい。北アルプス、南アルプス、浅間山、御岳遠く、頚城山域等‥‥。やっぱり来て良かった。皆も十分楽しんだ様子。それに銀マットも拾ったし。話し合って遊佐さんの待つ甲武信岳山頂へ。遊佐さんに出合うと、又、懲りもせず水彩絵具を使っている。そしてやっぱり又言った。
「筆が凍って、画面が凍って‥‥‥」
 山頂で最近山を始めたと言う中高年夫婦に出合う。百名山を登っているという事だが、話を聞いている内に、だんだん恐ろしくなる。知らないって、本当に強いな。
 捲き道を通り又戸渡尾根分岐にもどり、一気に東沢渓谷目指し下山。この2時間の下山は苦痛そのもの。悲鳴は出るし、尻餅はつくしで、今回の山行で一番つらかった。
 イヤー、本当に疲れました。3日間、お腹にホッカイロをあて、下剤を飲んでの山行。下山後、車に乗っていつもの塩山温泉に入った時は、本当にうれしかった。そして、その後の食事、ヒレカツ定食を食べ終えた時、こんなお正月もまたいいもんだと全員思った事だろう。

笹平小屋(7:00) → 木賊山 → 甲武信小屋 → 三宝山 → 甲武信岳 → 甲武信小屋-[捲き道]→ 戸渡尾根出合(12:30~13:00)-[徳チャン新道]→ 東沢渓谷(15:00) → 西沢渓谷(15:30)


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