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平成九年三峰神社参拝(雲取山を越えて)
その2 赤指尾根から雲取山(雲取山隊Ⅱ)
水田 洋

山行日 1997年10月18日~19日
メンバー (L)水田、藤井

 当初の計画は、今シーズン沢登りの締括りとして青岩谷を予定していたが、地元のタクシー会社は「後山林道は2キロしか入らないよ」という。1時間以上の林道歩き、秋の日没の早さ、遡行時間等の変数を私の頭脳にあるf(x)関数にぶち込んではじき出された解答は、『計画変更・奥多摩側からの尾根で行動時間は約6時間』となった。
 通常、この解答を具体化すると『鴨沢から七ツ石山』か『峰谷から千本ツツジ』の2コースとなる。事実、会長と小山氏のパーティーは前者を選択している。しかし、私の頭脳に組込まれている演算プログラムは標準仕様ではないので、『留浦から1,104mピークに向かう尾根に取付きそのまま尾根通しに赤指山を越えて峰谷からのコースに合流』との解答を得た。つまり私の脳みそは『世界標準コンパック』ではなく、その中身も『インテル入ってる』でなかったわけだ。計画変更を同行の藤井さんに伝えると、「オレはどこでもいいよ」といつもながらにありがたいお言葉をいただいた。
 奥多摩駅から留浦行のバスに乗ると、案の定、峰谷橋で10人程下車、終点の留浦で降りた乗客は、全員一息もつかずに鴨沢に向けて、歩き出した。
 うちらは、藤井さんが「まず、トイレ行きてーな」で、その間私は尾根への取付点を探しに行った。地図では集落の最奥部にある墓地の脇から破線記号があるが良く分からない。でも、尾根は直ぐ上に見えているので、「ご無礼」と念じながら墓を囲う石塀を足掛かりに強引に斜面に取り付く。尾根にでると踏跡はあるが登山道として整備されていないのは明らかである。登る方向に向かって尾根の右側は植林帯(製紙会社の所有地)、左側は雑木林である。つまりこの道(踏跡)は製紙会社の監視道という訳だ。さっきから、犬の吠える声が、そう遠くない所でしきりに聞こえるのでやけにうるさい。
 途中、1,104mピークをチョンボしようとして捲道に入ったら、頻繁に倒木で塞がれ、崩壊寸前の様相、目的通り1,104mピークを越えた鞍部に出たら、ライフルを担いだオジさんが登場、鹿の駆除のため数人のハンターと山に入っているという。なるほど吠えていたのは猟犬だったのか。
 暫く行くと確かに2頭の小型の猟犬がやってきて、2人目のハンターとも出会った。実は、私は犬は苦手な方だし、ハンターが近くに何人もいるとなると、まさか誤射されまいかと落ち着かない。そんな思いでひたすら登っていると。「ズドドドド」と前方で音がして猟犬に追い立てられた鹿が、直ぐ脇を駆け抜けて行った。藤井さんと顔を見合わせて、「結構、迫力あったね」。
 そこでほっとしたのか、左側斜面の下方が妙に明るい。「これは、もしや林道では」と思ったらやっぱりで、この林道は、途中2回も尾根を横切り、かつ普通乗用車が普通にすれちがえるほど立派なもので、かなり興ざめだった。
 しかしである。この尾根には林道の興ざめをブッとばす面白い仕掛けがあった。そろそろ赤指山への登りに差し掛かるところだろうか、前方左脇になにやら作為的な木の枝葉のかたまりがある。近づくと「ジーッカシャッ」と人工音がして、私の脳みそが「?」に埋まりかけていると、藤井さんが近づくとまたも「ジーッカシャッ」、勘のいい藤井さんが「こりゃ隠しカメラだよ。動くものにセンサーが反応してシャッターがおりるんだろ」という。たしかに枯葉に覆い隠されたレンズが在り、尾根の反対側である右脇には測量に使うような棒が立っていて、その天辺に電源である太陽電池が乗っかっていた。
 最近のテレビ番組で、ビッグフット(サスカッチともいう=ヒマラヤでいうイエティの北米版、未確認大型類人猿)の調査隊の特集をやっていたが、彼等もビッグフットの通り道と思われるところに隠しカメラを設置していた(結局、彼等は何も写すことはできなかったが)。まあ、奥多摩にイエティがいるわけないから、せいぜい鹿か猿の生態観察用なんだろうけど、野生動物扱いされたようで、山ヤとしては嬉しいのか哀しいのか複雑な気分だ。
 さらに行くと、今度は尾根左側の雑木林の中、地上から30センチ位の高さに上方に向けて直径50センチほどのパラボラアンテナ状の網が約20個設置してある。落葉の密度でも測定するのだろうか、全く不可解な装置だ。遠くからみると突然変異で巨大化したキノコみたいで不気味ですらある。
 こんな風になんだかんだしているうちに、赤指山に到着、少し下ると峰集落からの一般道に合流した。思っていたより長くて疲れた。言うまでもないが、ここまで一般の登山者には一人も遭わなかった。 宿泊先の雲取山荘についたときは、4時を回っていて暗くなりかけていた。会長が山荘の主人である新井さんと顔見知りのお陰で、別棟のヒュッテ(個室)で泊まれた(感謝、感謝)。ヒュッテ入口の扉を開けたときは、思わず「モートー」と声が出て、2階から会長の野太い「モートー」が返ってきた。
 さて、後日、ルームでこの赤指尾根の報告をした後、『ヤブ低山派』の今村さん(ご本人の意識と違っていたらすいません)から、さっそく「赤指尾根はどうだった?」とチェックが入る。かくいう自分も『ヤブ低山派』の血が結構な割合で流れているので、こういうチェックは嬉しい。そういえば、今村さんとも長い間一緒に行ってないな。
 私は最近、静岡県の安倍川、大井川流域の低山、栃木県の足尾、安蘇、鹿沼あたりを狙ってます(狙うっていうほどの山じゃないが)んで、どうでしょう。『ヤブ低山派』(本人が自覚しているかどうかは別として)は三峰では決して少数ではないと思います。ご同好=同行の士(女史)をお待ち申しております。

〈コースタイム〉
18日留浦(9:00) → 1,104mピーク鞍部(10:20) → 一般道合流点(12:30) → 千本ツツジ(13:30) → 雲取山(15:50) → 雲取山荘(16:30)
19日雲取山隊Iと同一行動にて三峰神社へ

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