トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ297号目次

平成10年正月合宿 槍ヶ岳・三岩岳・甲武信岳
その1 上高地~横尾尾根~槍ヶ岳~新穂高温泉
小幡 信義

山行日 1997年12月30日~1998年1月2日
メンバー (L)小幡、小林(健)、井上(博)

 今年の正月合宿は上高地周辺の予定であったが、どうも一歩盛り上がりがない。私としては、前から行きたかった北鎌尾根を目標とし、10月に下見に出かけたが、丁度天候が悪化し雪となり、装備不足で敗退した。独標手前で何回も後を振り返り、「正月にもう一度来てやるぞ!」と、悔しさで一杯であった。
 12月に入っても、正月に入山するメンバーが中々決まらず、北鎌尾根に一緒に登ってくれる人も居なく、何となく気が抜けてしまったようだ。そんな中で『もみぢ』の小林さんが、横尾尾根を計画しているとの話を聞き電話をする。今回行けばもう7回目とかで、かなりコース慣れしているようだ。私としての北鎌尾根は断念し、横尾尾根に参加する事に決める。2人では一寸淋しい気がするが、とにかく正月に入山出来れば、それでヨシとしよう。
 12月の2回目のルームで、井上さんも参加するとの事で、メンバー3名となる。一度『もみぢ』に集合し、3人で打合せを行う。

12月30日(火) 小雪
 新宿23時50分発急行アルプス、暖房の良く効いた席でビールを飲みながらの、のんびりな気分で、いざ上高地へ。中ノ湯で計画書を提出し小雪まじりの中、本日の幕営地である横尾山荘まで黙々と歩く。夏は観光客で賑わう河童橋周辺も、今は一面雪に被われ、静かな風景だ。平坦な雪道を6時間半歩き、山荘到着14時30分、キジ場も綺麗だし、水場もあるし、快適なテント場である。今日は、夜行の疲れか、酒も進まず、早々にシュラフに入る19時。

12月31日(水) 快晴
 出発6時40分、本日は朝から天気が良さそうだ。横尾尾根の取付は末端からなのかと思っていたが、小林さんの話だと、沢沿いに1時間位入ってから取付が有るとの事で、右側を注意しながら歩く。 左前方には、屏風岩が威圧感を以て迫ってくるようだ。井上さんの2人で苦労して屏風岩を登攀した話などをしながら歩いていると、前方の方で突然大声で「雪崩だ」と叫んだ。見ると屏風の頭から雪煙を上げて「ドドドー」とすさまじい響きとともに雪崩が発生した。私たちは「おおー、すげえー」と口々に叫び歩くのもやめ見入ってしまった。数分間の出来事であったが、自然のパワーには、つくづく驚かされてしまう。
 約1時間位歩いたのか、右側に取付らしきトレースが有り、赤布も有った為、ここから入る事にする。いよいよ本格的な急登の始まりだ。先行しているパーティーがあるようで、特にラッセルもなく、尾根まであまり苦労せず登れた。ここにて休憩をとり、4人のパーティーの人達と雑談。これから先、さらに急登の連続のようだ。所々に古びたフィックスロープが張られている。4人パーティーを先にやりすごし、その後を登る。
 本日の幕営地は天狗平、15時頃着けば良いだろう。天気も安定しているし、井上さんも快調のようだ。
 P7~P8にかけて横尾ノ歯と呼ばれる難所があるとガイドブックに書いてあったが、先行パーティー2人がザイルを出し通過している所がそうなのか・・・。『こんな所でザイルなんか出していたら時間ばかりかかっちゃうよ』と声に出しては言わなかったが、ぶつぶつ。「失礼」と一声掛け、隣を強引に通過する。井上さんも慣れたもので大して心配はない。小林さんは問題外だ。
 P8から天狗のコルへは急下降し、本日の幕営地を捜す。14時15分予定のコル到着。斜面をならし、テントを組み立てようとしたが、ここで思いもよらぬミスをしてしまう。
 今回持参したテントは私個人のものでタイプも古く、重く、ポールの継目にゴム紐もなく、立てようとしている時抜けて1本なくなってしまったのだ。「さあ大変、どうする、どうする・・・・」 斜面を滑っていってしまったのか・・・。
 小林さん、「俺、下を捜してくる」と言い出す。「この斜面じゃやばいよ」と口ごもりながら周辺を捜す。と、なんと雪の中から出てきた。一同ホッとし、なんとか今日のねぐらにありつく。
 風は多少有るが、星も輝き、明日も天気は良さそうだ。

1月1日(木) 曇り
 出発6時45分、快晴になると思っていた天気がどんよりとした曇り空である。急な雪壁を登れば主稜線に出られる。ここを乗越せば今回の合宿も終わったものだと思いながら前を進むが、どうも井上さんの体調が悪いようで停止したまま動かなくなってしまった。どうも手指の感覚がなくなってしまったと言う。これから稜線は強風帯が続く。このまま槍ヶ岳まで行けるのか不安がよぎる。取りあえず岩陰でフライを被り休憩する。じっとしていると体温を奪われていく。早く行きたいところだが、どうする事もできない。重い物は小林さんのザックに移し、30分位休んで再び強風の中歩きだす。時々後を振り返り様子を見る。良くなってくれたか・・・。
 この時点で槍ヶ岳は断念しこのまま下山する旨小林さんに話す。中岳、大喰岳と、なんとか下山路まで到着するも再度体調悪そうで座り込んでしまった。2人で「もう少し頑張れば強風から逃れられるから行こう」と言っても全く聞こえていないようだ。このままでは凍死・・・。10分、20分待っても立とうとせず、小林さんと相談し下山は中止、山頂にテントを張る事に決める。強風の中のテント張りは思いもよらぬ時間がかかり3人でやっとの事で立てる。
 一晩中風は止まず、小林さん曰く「ここはいつもこんなもんだ」との事。それにしてもいやな風である。自分は中々寝付けず、それに風が雪を運んでテント脇に積り、どんどん押し潰されるのには閉口した。こんな天気の時はいつも思う「早く朝が来ないか・・・」と。

1月2日(金)
 長い1日がやっと終ったという感じ。しかし外は相変わらず風強し、撤収がめんどうだ。朝飯雑煮で簡単に済ませ、又シュラフに潜り込み外の様子をうかがう。7時頃になって日が射してきた。外は晴れているようだ。ぐずぐずしていると小林さんが「出発しよう」との事、いつまでもこんな所に居てもしょうがないので行動する。
 8時40分出発、槍の穂先が手に届くようだ。「又来るからね」と心に誓い大喰岳西尾根を一気に降りる。槍平に来てみれば昨日の強風がうそのように穏やかだ。ここまで来ればもう安心、ポカポカ陽気の中を新穂高温泉に向って歩を進める。
 最後に、今回の合宿リーダーをやらせていただき、あの強風の中の判断はどうであったか、特に井上さんには厳しい言葉を浴びせ怒っているのではないかと思われます。今度、飲み会の席でゆっくり話を聞かせて下さい。又、横尾尾根を行けたのも小林さんがいたからこそで、大変ありがとうございました。

 *合宿の概要については前号掲載「総括」を参照のこと


トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ297号目次