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南会津 黒谷川・東実沢
金子 隆雄

山行日 1998年6月6日~8日
メンバー (L)金子、小山

 今年の沢始めとして南会津の黒谷川へ行ってきた。例年6月の第一週は梅雨入り前で結構狙い目だったのだが、今年は梅雨入りが早く今回は既に梅雨入り宣言が出された後だった。
 メンバーは沢へ行くつもりで沢へ行くのは今回が初めて(そのつもりでなくて沢を溯行したことは1回あるらしい)の小山さんと私の2人だけ。ちょっと寂しい。

6月5日 雨
 集合場所の東所沢駅に着いた時には既に雨がかなり激しく降っていた。天気予報によればキーワードは「北と西」、即ち北か西へ行けば天気は何とか保つかもしれないということだった。これを唯一の拠り所としてとにかく所沢インターから関越道に乗り、小出を目指して車を走らせる。
 関東の中心部から遠ざかる程に天気は回復傾向を見せ、関越トンネルを抜けたら道路が濡れていない、こりゃぁ天気予報通りじゃないかしめたぞとこの時は思ったのでした。小出インターで高速を降りて国道252号線を田子倉方面へと向かう。途中、新潟と福島の県境辺りの峠は濃い霧で何も見えず恐怖だった。
 道の右側に何か建物があったので車を降りて見てみると田子倉駅だった。ちょうど今夜の寝ぐらを何処にするか迷っていたのでこの駅の中で寝ることにする。雨もまた降り出してきているので濡れずに寝られるのでありがたい。
 そういえば、10年程前の4月頃に鬼ヶ面山の岩壁群を見たくて一人で夕方この駅に降り立ち、誰もいないこの駅のベンチで寝たことがあったな、と思い出した。あの岩壁を登るんだと息巻いていたけど未だに果たしていない。あの頃の情熱は何処へいってしまったのだろうか。
 ビールを1本だけ飲んですぐに寝た。

6月6日 曇り後雨
 朝外に出ると雨は降っていないがどんよりとした曇り空でいつ降ってもおかしくない天気だった。テントやらシュラフやらをとりあえず車に突っ込んですぐに出発する。只見で252号線と別れて黒谷に向け289号線に入る。そのまま真っ直ぐ走っていくと自然と黒谷林道へと導かれていく。会津朝日岳の登山口を過ぎて少し行くと舗装はなくなるが林道はまだまだ奥まで続いている。林道が右岸から左岸に移り少し行くとダムがあり、その先に車止めのゲートがある。ゲートは鍵がかかっていなくて手で開けられるが、鍵をかけられたら出られなくなってしまうので車はここまでとする。
 朝飯を腹に詰め込んで、さあ出発だ。テントはどうしようかな? じゃまだから置いていこう、シュラフはどうしようかな? ザックに入らないから置いていこう。というように軽量化に努めたのでした。
 小手沢出合いで林道は二手に分かれ、右の本流沿いの林道に進む。稲子沢出合いが林道終点で、ここは小広い原っぱになっていて幕場にいいなと思う。ゲートからここまでかなりの車が入り込んでいるが、たぶん釣師のだろうと思われる。
 稲子沢出合いから黒谷川右岸沿いのよく踏まれた道を辿る。草や笹に覆われてはいるがこれ程よく踏まれているのはよほど多くの釣師が入っているのだろうと思われる。道がいいのでただ黙々と歩くのみである。林道終点から約2時間で岩幽に着く。巨大な岩が一つ横たわり岩小舎状になっていてテント2~3張りは張れそうな広さがある。しかし、周辺はゴミ捨場と化している。これも釣師の成せる仕業か、気分が悪いのですぐにこの場を後にする。岩幽の手前にあるはずの崩ノ滝は確認できなかった。
 踏み跡はこの先もしばらく続き、不明瞭で判別できなくなったころ河原に降りる。流れは緩やかで徒渉も楽だ。右岸より梯子沢、スギゾネ沢が相次いで出合ってくる。釣師にもまた相次いで出会う。親しげに話しかけてくるが眼は笑っていない。自分達の釣り場が荒らされるのではないかという疑心暗鬼の表情が見て取れる。我々は釣が目的で来たのではないので構わずジャブジャブと先に進む。
 やがて今日の幕営予定地の東実沢と西実沢の出合いに着いた。左岸のブナ林の段丘に恰好の幕場があったのでタープを張って2日間の宿とする。雨は降っているが早速たき火をする。案外簡単に火は着いた。だが、薪にする太い木がほとんど落ちていないので困った。時間があったら釣でもやってみようと思っていたが、こんなに釣師が入れ替わり立ち代わり入っているんじゃ我々のような素人の出る幕じゃないなと思いつつも竿を出してみるが、やはりダメ。早々に切り上げて、たき火の周りに腰を据えて一杯やる。ブナの林とたき火と瀬音、酒の肴はこれで充分だ。
 心配した通り夜はやはり寒く、1時間おきくらいに目が覚めて熟睡できなかった。私はシュラフカバーだけ、小山さんは出発前に買ってきたという夏用シュラフを使用。小山さんも寒くて眠れなかったと言っていたが、それにしてはよくイビキが聞こえてたんですが。

6月7日 曇り時々晴れ、のち雨
 待ち焦がれた朝がやってきた。寒くて眠れない時の朝の待ち遠しさが解りますか。4時起床、雨は降っていない、青空が所々に覗いている。この天気に気をよくし、予定通り出発することにする。
 今日の予定は、東実沢を溯行し高幽山へ登り、西実沢を下降してここに戻ってくるというもの。
 5時45分出発、東実沢に入っても滝もなければゴルジュもない、淵もなければ瀞もない要するに何もないのである。約2時間で左岸から支流が出合う。ここまで滝と呼べるようなものは二つだけ、それも簡単に越えられる。
 高幽山に詰め上げるためにこの支流に入る。この支流は短く一気に高幽山へ駆け上がっているため傾斜はかなり強い。やがて二俣になり左俣に進む。わずかだが雪渓が残っている所がある。また二俣になり今度は右の沢に進む。左沢は上部に雪渓が残っている。右沢に入るとほどなく水が消え、水が消えて少しで沢は急なガレの中に消えている。
 急なガレを少し登り薮に突入する。急傾斜の薮で腕力フル動員の薮こぎとなる。さすがに会津の薮は手強い、親指ほどの太さの根曲がり竹が雪に倒され下向きになって行く手を阻む。時々蔓も絡む。
 薮こぎに悪戦苦闘しながらもしっかりと根曲がりのタケノコを採る。太くて柔らかそうで上物だ。何度か方向を修正しながら約1時間で東実沢と西実沢とを分ける尾根上に出た。高幽山までは道があれば5分くらいで行けそうな近さだ。だがこの薮である、それに西実沢への下降も相当薮をこがなければならないと思われ、どれくらい時間がかかるか想像さえつかなかったので高幽山はパスすることにした。
 一本取った後、西実沢へ向けて北東に薮をこぎながら下降開始した。北東の方角へ下るつもりでもコンパスを振る度に方角が違っているため、その度に方向修正する。そのうちはっきりとした沢形が現れた。方角から察するにこの沢は西実沢ではなく東実沢へ続いていると思われた。そこで予定を変更してこの沢を下降して東実沢へ出ることにした。急な涸れ沢を下って行くとやがて水が流れるようになり二俣に着いた。ここは東実沢の支流に入って最初に出合った二俣だった。登りでは左俣へ進んだのだが右俣を下降してきたのだった。更に下って東実沢の本流に出る。予定よりかなり早く下降できたので大休止とする。雨がポツポツと降り始める。
 本流を下って二つの滝を過ぎた辺りで、時間の余裕もあるのでちょっと釣りでもやってみようと竿を出すが、すぐに雨が本降りとなってきたため早々に竿をたたんで幕場へ急ぐことにする。
 後ろを歩いている小山さんとの距離があき、姿が見えなかったが、この先はただの河原で何もないので心配することもないと思いどんどん先へ下って行った。1時間もあれば楽に幕場に着く筈であったが行けども行けども幕場の西実沢との出合に着かない。見覚えのある場所が次々出てくるので、あぁこのちょっと先だなと思い下って行っても着かないのである。実は私はこの時、昨日の記憶と今朝の記憶とがごっちゃになってしまっていたのでした。見覚えがあると思った場所は昨日幕場まで行く途中に見たものだったのだ。
 やがて右岸に巨大な岩が現れた。なんか見たことあるなと記憶を手繰り寄せてみる、岩幽だ! ここでやっと下り過ぎたことに気が付いた。まことにお粗末である。小山さんが心配しているかもしれないので急いで引き返す。しばらく行くと小山さんがズボンをずり上げながら現れた。彼もまた西実沢との出合を見過ごして下ってきたのだった。どちらか一方がまともに幕場に着いていたら、ちょっと厄介な事になっていたかもしれない、反省。
 約2時間の予定外の時間を費やして何とか暗くなる前に幕場に着いた。疲れてしばらくは何もする気が起きなかった。雨が降っているのでたき火をする気にもなれなかったが、小山さんが挑戦するといって始めたがてこずっている。見るとキャンプファイヤーのように木をいげたに組んで火を点けようと苦戦している。「そんなんじゃ火は着かないよ、小山さん」と崩して正統な沢流のたき火のやり方でほどなく燃え出した。人間火を見ると俄然元気が出てくるようで不思議なものだ。雨も止んだようなので、いつものようにたき火の周りに陣取り一杯やり始める。早く寝るとまた寒さで目が覚めてしまうので、なるべく遅く寝ようと酒がなくなるまで起きていた。

6月8日 晴れ
 身体が寒さに慣れてきたためかあまり寒さを感じないで眠ることができた。昨日は10時には目が覚め、それ以後あまり眠れなかったが、今日は最初に目が覚めたのは3時だったのでかなりよく眠れたことになる。
 皮肉な事に今日は快晴、なにも下山日にこんなに晴れなくてもいいのに、すっごく癪に障る。今日は月曜日、釣師も皆昨日の内に帰ったようで誰もいなくなった沢をのんびり降りる。岩幽手前で右岸の薮の中を捜すと踏み跡が見つかったのでこれを辿る。
 車に着くと中はサウナのようだった。温泉にでも入ってから帰りたかったが遅くなると関越道が渋滞すると思い、寄り道せずに帰ったが、後からよく考えてみたらこの日は月曜だったので渋滞などいらぬ心配だったのだ。

〈コースタイム〉
6日 車止め(10:15) → 稲子沢出合い(10:50) → 幕場(東・西実沢出合い)(13:30)
7日 幕場(5:45) → 東実沢右俣出合い(7:45) → 尾根(10:35) → 東実沢右俣出合い(12:40) → 幕場(16:50)
8日 幕場(8:40)→車止め(11:30)

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