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仙人ガ岳・鶏岳・富士山
水田 洋

メンバー (L)水田、今村、小山

序章・・・『ヤブ低山派』旗揚げ

 前号の雲取山の原稿において、私は『ヤブ低山派』の旗印を掲げたわけだが、この例会はまさにその嚆矢である。
 同行者は『ヤブ低山派』の先駆者であり、かつ最たる実践者でもある今村氏と現在の三峰における『燃える闘魂』とも言うべき小山氏である。
 目的の山は、いずれも65m山行の対象となる標高であり、私がすでに憧れに近い感情を抱きつつあった『栃木県の低山』を2山ピックアップした。2山というのは、3山めの富士山は標高僅か365m、獲得標高差80mしかないため、一つの山として数えるのがはばかられるからであるが、それでも三角点峰である。「山、高きをもって尊しとせず」である。
 何はともあれ3月6日(金)午後10時、国立駅前から今村車は、まず、仙人ガ岳の登山口へと走り出したのである。

第1章・・・仙人ガ岳には仙人が住む洞窟がある?

65山行 仙人ガ岳 662.9m
山行日 98年3月7日

 仙人ガ岳は足利市の最高峰であり、登山道は沢コースと尾根コースが周遊するように付けられており、よく整備されている。しかも、自然林が良く残っており、地元のハイカーには相当人気があるようだ。我々のように、わざわざ前夜東京から来て、登山口に幕を張るヤツはいないが、下山してくると駐車場には10台程、車があり、しかも「群馬」「栃木」「熊谷」ナンバーばかりである。
 我々は、楽な沢コースを登りにとり、アップダウンの激しい尾根は帰りの楽しみにとっておくこととした。雑木の落葉をカサコソと踏みながら歩くのは気持ちがいい。しかし、同じ雑木の山でも、奥多摩とは全く風情が違う。西上州に近い気もするが、やはり少し違う。何が違うのかと聞かれても説明できないのだが、低山にあっても、その山域が発するオーラが違うということを、全身全霊で感ずるだけだ。
 細い流れに沿う道の所々に、暗い洞窟状のマンガン採掘跡が現れる。服部氏であれば、「これは、井戸の底でメタンガスを食べて生きている『井戸仙人』の住家である。」とケッパリ言うだろう。「この山名の由来は、そこにあるのだ。」と。
 1時間半弱の登りで、尾根上に出る。そこは「熊の分岐」と名付けられ尾根コースとの合流点になっている。西高東低の冬型気圧配置のため、晴天に恵まれてはいるが、尾根上は冷たい風が強く吹き付けており頂上へと急ぐ。仙人ガ岳のピークは雑木があってスッキリとした展望ではないが、帰路の尾根コースでは時折眺望が開け、これまでに経験したことのない山岳風景を見る。とくに北東方面は足尾や鹿沼、安蘇の山並みが幾重にも重なり、栃木県もまた山の県であることを実感する。
 尾根コースは健脚向きというだけあって、下りなのに登りより時間もかかり、疲れる。途中に鎖場もあってなかなかのものだ。それでも、予想していた午後1時位には登山口に戻ることができ、今回のシリーズの1日目は満足のゆく結果であった。

7日 岩切登山口(8:05) → 生不動尊(8:45) → 熊の分岐(9:25) → 仙人ガ岳(9:50~10:30) → 犬返し(11:25) → 猪子峠(12:25) → 岩切登山口(13:10)

第2章・・・鶏岳の頂上にてゆで玉子を食らう

65山行 鶏岳 667.8m
山行日 98年3月8日

 鶏岳は、前日の仙人ガ岳と同じ栃木県とはいえ、地理的にはかなり離れている。我々は仙人ガ岳を下山後、わたらせ渓谷鉄道の水沼駅に併設の温泉にて汗を流し、日足トンネルを潜って、その日のうちに、鶏岳の登山口に近い発電所脇の広場に幕をはった。
 仙人ガ岳では登り下りともに整備された登山道を辿ったが、今日の鶏岳は、登りにはピークから西北西に派生するヤブ尾根を使い、正規のルートは下山に使うことに決めた。
 この日は大陸の高気圧が移動性となって張り出し、絶好の登山日和となった。登りに使った尾根も、山仕事用なのか、途中までかすかに踏み跡がある。しかし、頂上直下になるとそれもなくなり、奥多摩の沢登りのツメのような、柔らかい土と浮石と樹林がミックスした急斜面となり、結構なアルバイトである。
 それでも行動1時間強で頂上に着く。頂上にはうっすらと雪が残り、小さな祠が祭ってある。この山は、低山とはいえ独立峰であるため、すこぶる展望が良い。特に日光方面のパノラマは素晴らしく、女峰山や男体山が圧倒的な存在感で迫り、塩原方面の高原山も近い。さらに、前日光、鹿沼の連綿とした山並みも魅力的である。
 ゆっくりと時間を過ごし、今村さんから貰ったゆで玉子も頬張る。鶏岳の頂上だからといって、特別な味はしなかったが、素直に旨い。 下山道は最初は石がゴロゴロしていてルートも定かでなく、歩きにくいが尾根がはっきりしてくると快適で、鼻歌交じりで下れる。一旦、林道に出てからまた山道となり、小川を渡ると大岩の影に観音堂をみて直ぐに登山口となる。ここで初めて他の登山者と会う。これから登り支度をしている中年夫婦であった。今村さんが言うには、「ここは、仙人ガ岳より相当マイナーだからねえ。」とのこと。車道を北へ向かい、小さな発電所を見送ると直ぐに、車をおいた広場にでた。

終章・・・登り15分の富士山

65山行 富士山 364.9m
山行日 98年3月8日

 鶏岳のある2万5千分の1の図幅『玉生』(「たまにゅう」と読む。栃木の田舎にタマニューとはこれ如何、というところだが、今回はそんなこと全く関係ない。)の最下部に『富士山』がある。しかも、標高365mで三角点もある。
 計画当初より、「2日目はどう考えたって鶏岳から10時すぎには下山してこれるから、ついでに登ったれ。」ということで登ってみたら、これがなかなか「いい山(丘)」で、西面が崖となってスッパリと切れ落ちているため展望がよい。たった80m登るだけで、こうも風景が変わるものかと感心した。日光連山はもとより、今さっき登った鶏岳は、まさしく鶏の頭のような鋭角の頂上を見せつけ、眼下左手には鬼怒川がゆったりと流れてのどかな田園風景を作り出している。ついでに最終目的の舟生温泉の建物もしっかり確認した。 下山後は温泉につかってから、食事も併設の食堂でとり、まだ昼過ぎなので空いている東北道を一目散に帰京したのである。

8日 駐車広場(7:05) → 530mピーク(7:40) → 鶏岳(8:10~50) → 林道(9:10) → 登山口(9:35) → 駐車広場(9:45) → 東南東尾根直下の民家(10:10) → 富士山(10:25~45) → 東南東尾根直下の民家(10:55)

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