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平成11年正月合宿 八ヶ岳・仙ノ倉山
その2 八ヶ岳
服部 寛之

山行日 1998年12月31日~1999年1月1日
メンバー (L)小林(健)、服部、小幡(合流)

 空木岳の計画を急遽断念することになって、電話で小幡氏とどうするか相談する。
 もみぢの小林さんは、年末年始には合宿パーティーに参加したり或いは単独できびしいルートを登って合流したりするのを常としている。しかし今年は腰を痛めているとかで、軽く赤岳を登ってくるつもりと聞いていたので、この線も考慮に入れて考えた末、ぼくは小林さんと一緒に赤岳鉱泉に入り、休暇の長い小幡氏は29日より入山、蓼科山から縦走して赤岳鉱泉で合流、翌日一緒に赤岳に登り、その後は別行動で小幡氏は小淵沢方面へ、ぼくらは美濃戸へ下山して帰京、という段取りで落ち着いた。

12月31日(木) 曇り/雪
 12月30日深夜零時過ぎ、八王子駅で小林さんと会い、久しぶりの急行アルプスで茅野に向かう。乗った時はすでに満席で、通路にザックを置いて腰かけ3時間ほど揺られて行く。この電車は茅野到着がバスの乗り継ぎには中途半端な時間で、睡眠不足の山行初日を強いられるのでうれしくない。
 美濃戸行き6時始発のバスは山ヤで満席。うとうとしていると、「美濃戸口に着きました」という車掌の声に起こされる。バスから薄暗くなりかけた外へ出ると、ナンと雪がまったくない。美濃戸あたりはチェーンが必要だろうとの予想をみごと裏切られ、拍子抜けしてしまう。山荘脇の道端に珍しく警察が登山届けのテーブルを出していたが、一瞥しただけで背中の荷物を降ろすこともなく、そのまますぐに埃っぽい赤茶けたままの道を歩き始める。雪は美濃戸山荘を過ぎて100m行った地点で初めて出てきた。だがそれも路上だけで、周囲の森は乾燥したまま。雪の訪れをじっと待つ初冬の森といったところか。途切れとぎれの路上の雪がまとまって周囲に広がりだしたのは、堰堤広場を過ぎて北沢を何度か渡り返すあたりからだ。
 赤岳鉱泉にはすでに20数張のテントがあった。幕営跡に設営し、一休みしてから硫黄岳へ向かう。樹林帯の道は風もなく雪がチラつく程度だが、稜線に出ると結構風があった。1時間45分でガスに包まれた山頂に達し、すぐ引き返す。途中で小幡氏に会うかと思ったが、最後まで会わなかった。
 帰幕してうだうだしていると、3時半頃小幡氏がやってきた。すぐ隣を整地して幕を張る。いつの間にやら幕の数は50張近くに増えていた。テントの中で3人で盛り上がる。

美濃戸口(7:00) → 赤岳鉱泉(9:30~11:35) → 硫黄岳(13:18~20) → 赤岳鉱泉(14:10)

1月1日(金) 快晴
 6時半、地蔵尾根経由で赤岳に向かう。先頭の小林さんはめっぽう速い。二番手の小幡氏はぴったりついて行くが、ぼくはどんどん離される。フルマラソン用エンジンとの出来の違いを実感する。
 久しぶりに会う地蔵尾根の頭のお地蔵さんは首が戻っていた。稜線上はすっきり晴れているが西からの強風が冷たい。傾きながら進んで行くと、赤岳の上りでブロッケンがでた。左手やや上方に昇った太陽の光が稜線右手にかかった雲のスクリーンにぼくらの姿を映しだす。影の周りの虹のリングは出始めは一つだったが、上るにつれ数を増し三重になった。三重の虹の輪に取り囲まれた己れの影は、何だか新しい年の幸運を暗示しているよう。うれしい元日のプレゼントであった。
 頂上小屋の玄関前に風を避けて少し休んだのち頂上へ移動。風は強いが絶景である。南、中央、北とアルプスの峰々がずらり並んでいる。小林さんは祠にすっぽんの甲羅を何枚かお祀りして手を合わせる。こうしないとすっぽんが夢に現われると真顔で言う。すっぽんは江戸時代痔疾に効くと云われよく食べられたと聞くが、すっぽんが化けて出るという話は昔からあったらしい。名古屋のすっぽん好きが買いに行った先のすっぽん屋のおやじの顔がすっぽんそっくりでそのうえ足がばかに長く、そいつは帰宅して3日間こたつに当たりながらガタガタ震えがとまらず、その後すっぽんを食わなくなったという話がある。そ、そういえば、こ、小林さんの顔、ちょっとばかし・・・・・・。
 赤岳から阿弥陀岳に向かう。中岳ノコルに下りそのまま休まず阿弥陀に取りつく。その登りで小幡氏が珍しく燃料切れをおこして遅れた。頂上のすぐ下で一本立てて行動食を摂ったのち頂上へ。さっきと同じような景色だがここからは赤岳が見える(当たり前田のクラッカー!)。じきに下山にかかり、コルからは沢筋の道を行者小屋へ下りそのまま直に赤岳鉱泉に戻る。小幡氏は当初小淵沢へ下りるつもりでいたが、しかしもう山は充分ということで一緒に帰ることになった。
 美濃戸口へ出ると、次のバスまではまだしばらく時間があったが、丁度タクシーが一台停まっていて、ぼくらの先を歩いていた単独行の2人と相乗りで茅野駅に向かうことができた。そのお陰で時間に余裕ができ、ゆっくりと鈍行で帰ることができた。
 今年の正月合宿は、合宿とは名ばかりの小ぶりのお手軽山行であったが、気分の良い山の空気を楽しめた。小林さん、小幡さん、ありがとうございました。

赤岳鉱泉(6:30) → 赤岳山頂(8:35~40) → 中岳(9:00) → 阿弥陀岳山頂(9:50~55) → 赤岳鉱泉(10:45~11:30) → 美濃戸口(13:45)


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