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五月合宿 浅草岳・守門岳周辺
その6 五味沢定着田原号組
小堀 憲夫

山行日 1999年5月1日~4日
メンバー (L)小堀、田原、井上

 三峰に入って合宿に出られるのは初めてだ。子供に手がかからなくなって余裕ができた、というよりも相手にされなくなったから、というのが理由の一つ。もう一つは、嫁さんが私の行動に対して大分寛容になったからだ。まあ、要するに愛犬のメイを除いて家で相手にしてくれる人がいなくなった、ということだ。結構、結構。これでよし。
 服部委員長に五味沢組のリーダーを任ぜられて本当はもっと早く入るつもりだったが、仕事の関係で無理になり、土曜の昼過ぎ出発の田原号に便乗させてもらうことにした。間際になって参加できることになった井上さんと荻窪の田原さんの仕事場で待ち合わせた。田原さんとごいっしょさせてもらうのは初めてだし、井上さんとはだいぶ前の黄蓮谷以来だ。それと途中まで同乗することになった田原さんの奥さん。初めてお会いした。一目で良い人だと分かり、好きになった。なにかと話題を提供してくれる田原さんだが、その奥さんのことは、会った人だれに聞いても良い人だと言う。どう、良い人なんだろうなぁ? あれこれ勝手に思い描いていた「肝っ魂母さん」のイメージとはちがっていて、どちらかというと大人しく少しシャイな、若い(比較の問題です)自分が言うのもヘンだが、かわいい感じのする人だった。
 走り始めた車の中、音がうるさくて前の2人とは話しが通りにくかったが、となりの井上さんとは話しができて、運転している田原さんには少し申し訳ない気がしつつ、チビチビやりだしたウイスキーも手伝って、バックシートにはいつの間にか親密な空間が出来上がってきていた。そこで井上さんが私に淡々と話されたその半生は、淡々としていただけに余計にドラマティックであった。満州での大富豪の生活、日本に帰ってこられてからのお父さんとの苦労された生活、大東亜戦争とは何だったのか・戦争論、マスコミ批判、貿易のお仕事の話、献身的な奥さんと優秀なお子さん達の話。若い(また比較の問題です)私にとっては、まるで司馬遼太郎の時代小説を読むような感激を誘うものであった。話しが一段落し、「いやー、人の人生は重たいものだなぁ。」と感慨にふけりながら横の井上さんはと見ると、もう既にすやすやと居眠りをしていた。
 予想された猛渋滞を抜け、田原号が奥さんの田舎、野沢温泉の少し先、木島平にある馬曲温泉に着いた時はあたりは既に暗く、それから五味沢に向かうには遅い時間となっていた。それもあるが、あきらかに車ならぬ運転手のガソリン切れだった。で、その夜は奥さんのお姉さんの実家に泊めていただくことになった。どうも最初からその作戦だったらしい。まあ、それはともかく、馬曲温泉自体は食事もできるりっぱな温泉施設で、また訪れてみたいと思うところだった。露天風呂にゆっくりつかって夜空の向こうを眺めると、小山の上の雲間に満月が現れた。井上さんは何を思っているのか目を閉じて静かにお湯につかっていた。一方田原さんは「オレは温泉では絶対洗わないんだ。」と宣言して(別にだれも止めません)、前もかくさず横を通る人にかまわずデーンと大の字になって寝そべっていた。それを見たからか、月はやがて雲間に隠れた。
 奥さんのお姉さんの家では、たくさんの猫が出迎えてくれた上にとても暖かいおもてなしをうけた。感謝。ここでの田原さん夫婦の様子がまたも印象的だった。ダンナはデンと座ったきり動かない。奥さんにお澗を頼むだけ。そう、ここが微妙なところだが、命ずるのではなくて「お願いしますよっ。」ってな感じで頼むのだ。リクエストに答えて徳利だおつまみだとまめまめしく動き回る奥さんとお姉さん。我が家では信じられない光景に少し居心地の悪さを感じながらも、「ふう~ん、こういうのもあるんだな。」とすぐに慣れてしまった。というのも、動いている奥さん達が少しも迷惑な顔を見せなかったからか。やがて井上さんが布団に入り、奥さん達も席についた。それからの楽しいおしゃべりを聞いていて実感した。「田原さんが奥さんにこれだけ甘えても大目に見てもらえるのは、本当に奥さんを大事に思っているからなんだなぁ。」 具体的に何を話したかは忘れたが、心地よくおしゃべりを楽しむことができた。人の心の温かさとおつまみの山菜が嬉しい一夜だった。
 翌朝起き抜けで早々に出発。しかし、五味沢についた時は皆出かけた後で、仕方なく我々もムジナ沢橋の横にテントを張り、一息。うだうだしていてもつまらないので、板とランチをもって近所に散歩に出かけた。しかし、雪は予想に反して少なく、また、ルートを外れてひどい薮こぎをするはめになってしまった。でも、ランチに飲んだチリの赤ワインには、いつも白しか飲まないという井上さんも満足の様子だった。一汗かいてテントに戻ると、やがてみんなもぼちぼち戻ってきて、山菜のテンプラで乾杯。その後は服部隊と行動を共にしたが、結局2日間合計してもスキーができたのは10分程度。まあ、今回の合宿のつまみたいなパーティーだったが、会が盛り上がっているのを見るのは自分の幸せでもある。
 後から振り返ってみて結局今回の山行は、山そのものよりも、田原さん、田原さんの奥さん、井上さん、この3人の人柄の印象が心地よく残る山行となった。これもまた良し。


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