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編集後記

 服部さんが委員長に選ばれた委員会の帰り、いつもの居酒屋「海津」に向かう路で同氏から企画をやってくれと誘われた。大変な役を引き受けた人の誘いだからむげに断れず、条件付きで「なんとかなるさ。」と引き受けた。「それほど山の種類を知らないし、新人向けのポピュラーなところ中心で企画しますよ。それでいいですか。」
 ところが、数日たって新委員長から「今夜空いているか。」と会社に電話を貰った。新委員会の相談だろうとは思ったが、個人的に呼び出された訳だから、「なにか皆の前で言えないような話かな?」とチラッと心配になった。聞くと小堀の個人的なことでもあると言う。「やばい、オレなんかまずいことでもしでかしたのかなぁ?」と、少し警戒しながら待ち合わせ場所の東京駅八重洲中央口に向かった。
 やがて現れたなにやら足取りの重たい新委員長を、近所の行きつけの居酒屋に案内した。そして、神妙な面持ちの委員長の口から出た言葉は、なんと「編集をやってくれ。」だった。一瞬、「ええっ!」しかしすぐに「そういうことか。」と妙に納得。企画を引き受けたばかりだったので少し戸惑ったが、氏のまじめな話を聴いている間にだんだん引き受ける気になってきた。企画や編集という重要な役を自分にふってくれるのは、それなりに信頼していてくれるからだろうと正直嬉しかった。会社の仕事はますます忙しくなってきているが、何かを始めた以上、欲張って関わったほうが楽しいのは経験で学んだこと。この場合、会に所属する限り、運営に参加するほうが面白いに決まっている。それにもとから活字は嫌いではないほうで、編集の仕事に興味もあった。それともう一つ、家での仕事が増えれば、酒を控えずにはおれなくなり、長年の課題の節酒が達成されるのではないか、とのはかない期待も実は心をよぎったのだ。
 「わかりました。引き受けます。」先ほどからもそもそ続いている説得話を遮って、そう返事した時の服部さんの表情は、実に印象的だった。心からほっとしたように、「良かったぁー、これで安心して眠れる。」と、パッと笑顔が輝いた。いい人なのである。やはり幼少のみぎりキリストの教えを学んだおかげなのか、心がピュアなのですね、きっと。これから密かにジーザス服部と呼ぼう。
 と言う次第で引き受けた編集だが、今回担当して初めての岩つばめ、煩わしい面も確かにあったが、正直期待以上に楽しかった。そして、もう一つ期待していた「節酒」だが、これがみごと少し効果ありなのですねー。こうして原稿を書いている今だって、普段だったら良い気分でごろごろ転がって、テレビを見るか駄本を読むかしているのが関の山だが、なんと素面で机に向かっている。酒や堕本もリラックスできていいが、活字に自分の考えや思いをまとめるのもなかなか興味深いことなのですね、これが。この際、それを読む人の迷惑は無視。リハビリに協力してもらいます。今回何本か自分自身も記録を書いてみて、他の人と比べて、自分が実に観念的な人間なんだなぁ、と改めて分かった次第。
 さて、第258号から42冊に渡り、そのたぐいまれなる忍耐力とユニークな文才を以って、この「岩つばめ」を育ててこられた服部さん。何回か山岳雑誌にも紹介されたことのあるこの「岩つばめ」。そう言えば、私がこの三峰山岳会に入るきっかけの一つが、「岳人」で表彰されたこの「岩つばめ」だった。同氏からそのすばらしい業績を引き継ぐことになったわけだが、色々とアドバイスをくれる前編集長の服部さん、快く編集委員を引き受けてくれた福間さん、心強くも表紙絵を描いてくれることになった元会員で絵本作家の中西さん、積極的に(?)原稿を書いてくれる会員の皆さん多数の協力を得て、これからも、今回同様あまり背伸びせずに、「岩つばめ」の編集を楽しませていただくつもりです。どうかよろしくご協力のほどお願いします。もうとう。

【小堀】

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