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遭難救助講習会(浦和浪漫主催)に参加して
小堀 憲夫

日時 1999年3月16日(火曜)7:00PM~
参加者 金子、高木(敦)、小堀

 沢・山スキーのML(Mailing List)に入ったのは、それほど前のことではない。山の世界にも当然のことながら情報技術の進歩の波はおしよせている。手紙と電話の良いとこ取りの電子メールの特徴の一つ「複数同時交信性」とでも言えそうな特徴を、さらに伸ばしたものがMLだ。管理者にお願いしてMLに加入すると、一度のメール発信でそこに加入する同好の士全員と交信できる。
 今回の浦和浪漫主催の「遭難救助講習会」も、代表の高桑さんがMLの中で参加募集したものだ。三峰からは、去年の第1回にも参加した金子さん、金子さんが三峰のホームページで流した連絡を見て応募した高木(敦)さんと、小堀の3人が参加した。
 北浦和の駅に6時40分に集合、揃って会場に向かうはずだった。が、待てど暮らせど高木さんは現れない。諦らめて2人で会場に向かった。(実は彼女はこの時南浦和駅で遭難していた。遭難救助講習会で遭難か。もう、しょうがないな~。)会場の埼玉労働会館の会場には手作りの会の気負いのない熱気が感じられた。これも代表の高桑さんの人柄の現れなのだろうか。集まりは思っていたより小規模で、三峰の大集会程度だった。講師は都岳連遭難救助隊長、わらじの仲間会員の渡辺輝男さんだった。他に駅で見掛けた「あれっ、あれはひょっとして・・・。」の同人「栗とリス」の吉川さんも来ていた。全身黒尽くめのスタイルで、「おっ、やばい。ヤクザがまぎれこんでるぜ。」とだれもが一瞬驚く。この人の本を読んで、自分自身のマザーツリーを探すために沢にのめり込んだ人も多いことだろう。一方、高桑さんはなんとなく元気がない様子。あとで分かったことだが、この時彼は、盟友の池田知沙子さんを心不全で亡くしたばかりだった。彼の書いたものを読めば分かるが、知沙子さんを亡くした彼の悲しみは、察するにあまりある。その他会場に集った山屋達の顔を眺めてみた。 「皆それぞれに様々な人間模様があり、守らなければならない仲間の、そして自分自身の命がある。もちろんオレにも。で、こうしてここに集ってきているんだよなぁ~。」
 やがて講義は始まり、話は沢の遭難事故の具体的事例を中心に遭難の実際、救助の実態に迫った。以下は講義の要約及び感想になる。
 沢の事故の一番の原因はノーザイル、つまり『油断』につきる。「こんなところザイルなんかいらないだろう。」とノーザイルで突破し、たまたま事故にあったというケースがほとんど。だれでも良くやることで、ほとんどの場合問題にならない。しかしたまたま、そうたまたま運悪く事故にあってしまう。それが沢での遭難のほとんどのケースだそうだ。だから事故にあわなかった今までが幸運だったのだと自覚し、遭難事故が起こる可能性に常に備えているかどうかが生死の分かれ目になるということだ。
 では、『備え』とは実際どういうことかというと、「仲間や自分自身が事故にあった場合に実際自分は何ができるのか」という発想で常に沢に臨んでいるかどうかということになる。当然メンバーの力量の判断もリーダーの重要な努めとなるし、様々な事故の場合の救助方法の実際を身につけている必要があるのは勿論のことだ。
 95年8月に起きた宝川・ナルミズ沢で起きた遭難では、そうした要素が裏目に出てしまった。つまり、疲れた経験少ない女性メンバーに、増水後の沢をノーザイルで徒渉させ、水流に巻き込まれたメンバーを下流に流して助けることをせず、やっと引き上げたあとも低体温症の応急処置を施せなかったということらしい。メンバーの様子を見てザイルを出していればこの事故は起こらなかったし、起きた後も上に引き上げずに下に流してやればあるいは。引き上げた後低体温症の治療が適切にできていればあるいはと思われるのだ。
 当時テレビでも取り上げられ話題になった事故で、何回も引き合いに出して遺族の方には大変申し訳なく思う。が、実際人事ではないのだ。この遭難事故の例には彼らが備えを怠ったからだと責められない要素が幾つもある。事実このようなケースになりかけたことは私にもあったし、そうした場面に遭遇した時の人の精神状態がどのようなものになるかということも多少は経験がある。パニックになると知識はほとんど役に立たない。本当はだから、知識以上に経験と精神的タフネスが必要なのかもしれない。最悪の事態を前にして冷静になれるタフネス。あきらめない心。そして、この要素は実は日常生活の中でもやりようによっては鍛えられる。要は日頃の心がけとトレーニングだ。
 その他、具体的な情報が種々解説された。いざ事故があった場合を想定して緊急対策用のメモを用意し、シーバー、携帯電話連絡用の情報を携帯すること。ヘリによる救助の実際。警察、防災航空隊(119番)は無料だが、民間は大体1分間1万円と見たほうが良いこと。ただし、地域によって民間と警察で救助能力に差があるので、山岳保険にきちんと加入し、山行前に現地の救助態勢の実績を調査し、万が一事故が起きた場合にどこに救助を求めたらいいかを確認しておくこと。ヘリのホバリングには最低20m2の広さが必要で、ヘリの救助を待つ時は、目立つカラーの衣服、たき火、カメラのフラッシュなどを利用し、ヘリを確認したら、衣類等を頭上で大きく振り、近づいてきたら体側で上下に振る動作がルール化されていること。ヘリに近づく時は必ず前方左右45度方向から接近すること等等。すべて実践的で非常に有益だった。
 講習会終了後、近くの居酒屋で懇親会が開かれた。きらいでない3人は勿論参加した(遭難した高木嬢も自力脱出して何時の間にか会場に現れていた)が、色々な山屋と話ができ有意義な宴であった。とくにあこがれの吉川さんと話ができたのはラッキーだった。おどけて皆を笑わす黒ずくめのヤクザはちょっとした見物だった(ごめんなさい吉川さん、実は尊敬してます)。 高桑さんは早めに帰った。元気のない様子が気になったが、先にも書いたように止む負えない事情があったのだ。こうして彼らの会が講習会を企画してくれたおかげで勉強ができたし、他の会の人とも話しができた。感謝。我々三峰山岳会も、会以外にも付き合いの幅を広げる必要を痛感した。
 まとめの感想。とにかくまだまだ勉強不足。幾つになっても山で遊ぶ予定の身としては、仲間を死なせない為にも、自分が無駄死にしない為にも、もっともっと勉強しなくては。


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