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集中山行 万太郎山
その2 仙ノ倉谷毛渡沢東俣
金子 隆雄

山行日 1999年8月28日~29日
メンバー (L)金子、高木(敦)、湯谷(良)

8月28日 曇り時々晴れ
 東所沢駅に7時集合予定。私は少し早目に着いてしまい待つこと30分、高木さんが10分遅れで到着。でもこれはまだいいほうで7時半になっても車をだしてくれることになっている湯谷が現れない。奥さんに携帯電話の番号を教えてもらおうと思い自宅に電話したらなんと当人が電話口にでた。それから更に待つこと1時間半、ようやくメンバー全員が揃い2時間遅れで出発となった。
 湯谷は昨夜接待で朝帰りだったそうだ。ほとんど寝ていない人に運転させるのは危ないので運転は私がすることにした。関越道の湯沢で降りて土樽駅に着いたのは正午近くになっていた。
 車を土樽駅に置いて出発する。仙ノ倉谷沿いの林道をバッキガ平まで行く。途中にゲートがあり車はバッキガ平までは入れなくなっている。釣橋を渡ってすぐに平標新道と分かれて左の踏み跡に入る。この踏み跡はかなりしっかりしているが、デトイノマチ沢を過ぎてしばらくするとヤブが被さるようになってくる。今日は曇っているが湿度が高いので全身水をかぶったように汗びっしょりになる。踏み跡が急下降するとすぐに枝沢に出てこれを少し下降すると毛渡沢の本流に出る。ここからは河原を行くようになるが、河原といっても大石がゴロゴロで結構疲れる。
 毛渡沢は釣人が結構入るようなのでゴミが散乱し汚いのではと懸念していたが、そうではなく水も綺麗で全体的に美しい溪相と言える。最近の釣人はマナーが良くなったのか、それとも思った程人が入っていないのかは判らない。
 左岸よりシッケイ沢が流入してくるとちらほらとイワナの泳ぎ去る姿が目につくようになる。シッケイ沢出合いから30分程で東俣と西俣との出合いの二俣に着く。水量は西俣の方が多い。当初の計画ではこのまま東俣を進み、核心部のゴルジュ帯を抜けてから泊るつもりでいたが、出発が遅れたためこのまま進めばゴルジュ帯を抜けきらないうちに暗くなってしまう恐れがあるので今日は二俣に泊ることにする。ゴルジュの突破は明日の朝一番の楽しみに取っておくことにする。
 東俣に少し入った左岸の一段高くなった所にタープを張り寝ぐらを確保。ここは増水しても大丈夫で安心して眠れそうだ。もっともこの沢は増水した痕跡がないのでかなり降っても増水しないのかもしれない。夕食も終った8時ころよりポツポツと雨が降り始める。釣はやらないが食べるのが大好きな高木さんが一所懸命焚き火でイワナを焼いている。今日は結構疲れたので酒も程々にして早く寝ることにする。

5m滝に泳いで取り付く 8月29日 雨
 5時起床。起きた時は濃いガスに包まれていたが、出発前には青空が覗き期待を持ったが出発してまもなく再び濃いガスに包まれとうとう降り出してきた。以後ずっと降ったり止んだりの繰り返しだった。
 二俣を出発して10分程で越路ノ沢が左岸より出合う。越路ノ沢を過ぎるとすぐに一ノ沢が左岸より出合う。毛渡沢東俣のエッセンスはこの一ノ沢と二ノ沢間のゴルジュに凝縮されている。沢幅は4m程に狭まり滝がほぼ等間隔で現れる。
 最初の2段15m滝は下段を簡単に越し、上段はザイルを出して右壁を登る。続く5m滝は、小さいが深い釜を持っている。捲くとしたら右岸だろうが垂直の泥壁ですごく悪そう。気が進まないが泳いで滝に取り付くことにする。泳ぐといってもほんの一掻きで案外簡単に越えることができた。捲いていたら何倍もの時間と労力を費やしたことだろう。次の20m滝は右の泥の詰まったルンゼから捲けそうだが濡れたついでとばかりにシャワークライムで直登する。湯谷がトップでザイルを延ばし、途中でハーケンを1本打ち込み中間支点を取り突破した。後続は割りと楽だった。頭から水を被るようなことはなく左半身を濡らす程度だった。ハーケン回収のためハンマーで叩いたら一撃で抜けてしまい、全然効いていなかったようだ。次の10m滝は階段状で、左側を落口下まで快適に登る。落口はハングしているため左に続くバンドを辿り右岸より捲いて沢に降りる。その次の5m滝は直登できそうに見えたので取り付いてみるが、スタンスが高い所にあり足が上がらずに一歩が踏み出せない。何度かトライするがだめで諦めて右岸を小さく、その上の15m滝と一緒に捲いた。核心部のゴルジュはこれで終りで二ノ沢が左岸より出合う。この間距離にしてわずか250m程、2万5千の地形図だと1cmだ。
20m滝をシャワークライムで突破  1回目、2回目の交信時間の時はゴルジュの真っ只中だったので交信できず、3回目の9時15分に始めての交信を行うが他のパーティーとの連絡はとれなかった。
 二ノ沢出合いから先に滝はなくゴーロが延々と続くだけだ。想像していたような河原は何処にもなく泊り場に適した所はなかったので結局二俣に泊って良かったということになる。こういうのをケガの功名と言うのだろうか。
 三ノ沢を過ぎると一旦伏流となる。再び水流が出てくるが極端に水量は少なくやがて水が涸れてしばらくするとヤブが被さるようになってくる。ヤブの被さる沢形を忠実に詰めていくと一旦ヤブから開放されてガレ場となる。ヤブから開放されて喜んだのも束の間前よりも濃いヤブとなる。
 ヤブの中でもがいているうちに集合時間の11時が過ぎてしまった。無線交信すると勝部さんの声が飛び込んできた。尾根を縦走してきた2パーティーは万太郎山に着いているが、赤谷川本谷パーティーとは音信不通とのこと。これから下山するということなので赤谷川パーティーのためにメモを残してもらい、1時間後にまた交信してもらうことにした。
 1時間後の交信時、我々はまだヤブを抜けていなかった。我々も勝部パーティーも赤谷川パーティーとは依然として連絡がとれていない。ちょっとやばいんじゃないかという気がしてきた。それから15分でヤブを抜けて登山道に出て、万太郎山へは数分で到着した。実に3時間以上ヤブをこいでいたことになる。このヤブこぎで体力を消耗しきってもうヨレヨレ状態だった。
 山頂はまともに風が吹きつけて寒いので、伍策新道の分岐付近まで下って風を避け赤谷川パーティーを待つことにする。1時間待ったが現れず、その間何度か無線で呼びかけてみるが反応なしだった。播磨さんに何か連絡が入っているかもしれないと思い携帯電話で電話してみたが何も連絡はないという。それどころか計画書が提出されていないという。7年前の集中山行を思い出してしまった。私はその時秋田に帰省していて参加していなかったが、同じく赤谷川本谷パーティーが行方不明になってしまった件だ。(当時のメンバーの方々、引き合いに出してスイマセン)
 もうこの時間になったら万太郎山へ来ることはないだろうと判断し、土樽駅で最終電車の時間まで待つことにして13時30分に下山を開始した。伍策新道は結構急で雨で濡れてズルズルで体力を消耗しきった身には辛い。バテバテなうえに沢の中でつま先を岩にぶつけて親指の爪が剥がれそうになっているのでなお更速く歩けなく、二人にだいぶ遅れてしまった。車道に出た所で待っていてくれたが40分も待たせてしまったようだ。
 土樽駅に着いて播磨さんへ電話してみると、赤谷川パーティーから原口さんに連絡が入って土合方面へ下山するとのことだった。これで安心して帰途につける。

 毛渡沢流域ではシッケイ沢がよく登られているようで記録も散見するが、他の沢の記録はほとんど目にしない。それだけに人臭さがなく静かで良いところだ。今回は入山から下山するまで誰にも会わなかった。ただ、今回の東俣はアプローチが長く詰めのヤブこぎも長い。そんなの目じゃないという人にはお勧めです。

〈コースタイム〉
28日 土樽駅(11:50) → バッキガ平(13:05) → シッカイ沢出合(15:05) → 二俣(15:35)
29日 二俣(6:40) → 二ノ沢出合(8:30) → 万太郎山(12:30~13:30) → 土樽駅(17:30)
毛渡沢東俣溯行図

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