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集中山行 万太郎山
その3 赤谷川本谷
荻原 健一

山行日 1999年8月28日~29日
メンバー (L)荻原、太田、小林(と)

 8月27日(金)午後10時半上野駅9番線ホームに集合する。前日小堀さんと山沢さんが各々の事情で参加出来なくなったとの連絡があり、5人の予定が3人となってしまい一抹の不安も感じたが、まさか翌日にあんな夜を迎えることになろうとは・・・。午前1時高崎に到着し駅で仮眠する。
 翌28日5時に起床し、7時12分後閑に着き、ここより予約していたタクシーに乗り7時40分川古温泉に到着。ここから林道、山道を北上し、10時20分赤谷川出合到着。沢装備の準備、食事等で10時50分に出合を出発。すぐにマノットセン下の滝に出合い、左側より高巻く。踏跡は当初はっきりしているが、降り口付近は不明瞭である。12時にマノットセンに出合いこれも左側より高巻く。20分程で滝上に出られる。ここからすぐに巨岩帯となるが、前日の雨の為水量が多かったこともあり、うまく岩の間を抜けられず、大高巻きを強いられ大幅に時間を食ってしまう。巨岩帯を抜けたのが15時で3時間以上かかってしまった。このルートどりが後で考えると致命傷になってしまった。15時半裏越ノセンに着く。ここは腰上までつかり右岸に渡り、左側のルンゼを詰める。上部はかなり急でありシュリンゲなどを多用しながら慎重に進み、16時40分に日向窪に出合う。本来時間的にはここでサイトすべきところだが、ここで止まれば翌日の11時の万太郎はおろか、翌日の下山もぎりぎりになってしまうことからドウドウセンの高巻きに入る。後で考えれば日向窪にサイトして撤退する選択もあったが、この時点で撤退するような選択肢は私の頭になかった。また、この日植村隊とだけは交信することになっていたが、前日心配していた通りやはり周波数があわず12時、14時の2回共交信が出来ていないことも、何とか予定どおりかそれに近い状態で進まなければという焦りにつながっていたように思う。ドウドウセンの高巻きについては、数年前の遭難さわぎの話も聞いていたし、時間的に余裕が無いので慎重に確認しながら進む。幸いわりと踏まれた踏跡をすぐ発見でき順調に進む。独標1507m南方の尾根に乗りあげ、この尾根伝いに北方に進む。17時40分独標1507m直下に到着し、ここから岩場を右へトラバースすると、ドウドウセン滝上のとっても平和そうな川原を目にすることができた。後はここを下るだけだとほっとするのもつかの間、この下りがけっこう急であり、降り口を探すのにウロウロしてしまい、30分近くロスしてしまう。結局最初に目にした気持ちだけ尾根っぽくなっているところから尾根伝いに(多少進行方向から見て尾根より左側に)降りて行くことにするが、時は既に18時30分で暗くなり始めている。高巻きの最中に暗くなるという最悪の状況で(日向窪を出た時点で予想はしていたが・・・)やっぱりとてもあせってしまった。絶対してはいけない沢の懐電歩行を、早く川原に降りてビールを飲んでカレーを食べて横になって眠りたいなぁという欲望に流され決断してしまった。既に辺りは暗く足元がよくわからないので懸垂下降で降りていく。草付きで支点が取りづらいが太田さんの技術に全面的に助けて頂き、支点をとった責任だからとトップ迄やって頂く。尾根よりやや左側に落ちて行きたかったのに、ずるずる右側に流されていくのが暗いながらも何となく分かっていたが、既に修正する気力も体力もなく、何と夜の時近く迄ひたすらずりずりと懸垂で落ちていくのだった。いつからか月が出て来て周りの地形がはっきりしてきた。進むべきはずの尾根が大分左側上方に見える。かなり右側にはずしているのに気付くが、上から川原を見た時は多少右にはずしてもぎりぎり滝上に出れそうな風に見えたので、更に希望だけを求めて下ろうとする。が、ついに下っている途中の太田さんから「だめだー」という声を聞き現実に返る。「あー、ドウドウセンの滝に向かって落ちているんだな・・・」とりあえず太田さんを引っ張りあげねばと思うが、何と太田さん、プルージックで登り返してくる。しかもザイルをきっちりたたみながら。この状況下での冷静な行動に恐れ入るとともに勇気づけられました。戻ってきた太田さんから「ドウドウセンの滝を見てしまった。我々はもう遭難している」との言葉を聞き改めて呆然としていたが、とりあえずもう動いてもしょうがないのでその場でのビバークを決め、ビールを回し飲みし、小林さん特製のカマンベールチーズ入りクラッカーを食べると結構気分が落ち着いた。ビバーク場所も狭い斜面だが、潅木からビレーをとってカッパやシュラフ等も出すことができた。「ドウドウセンを見た体験は貴重だな」とか「ヘリに乗るのもいい経験だ」などの話も出てそれほど悲壮感はなかった。天気に恵まれたのが大きかったのだと思う。お天道様に感謝。
 8月29日(日)、5時過ぎに起床。周囲は既に明るい。下ってきたところを登り返せなければ正真正銘の遭難だが、斜面もそれ程きつくなく、潅木も多少ついておりどうやら登り返せそうだ。山靴に履き替え気合を入れ直し登り返す。5時40分出発、20分足らずで尾根に戻り、尾根を乗越し6時20分ついにドウドウセン上の川原に到着。感動の握手大会となる。その後はルートを順調に進む。8m滝は左側より踏跡を高巻く。小滝群を抜け、9時40分に本流が大きく東に向きを変える二俣に出合う。10時40分独標1628m南方標高1520mの二俣に到着。順調にコースを消化していくが、相変わらず無線が通じず、11時の万太郎山などは100%無理なので多少気が重いが、無事に稜線に出ることだけを考えるようにする。独標1628m北北西方標高1600m付近の付近の二俣はルートをたどらずそのまま北方に突き上げオジカ沢の頭より標高で250m程低い西方の鞍部に出て山道に出合う。稜線出合いは12時30分。大幅に予定時刻を過ぎており最短ルートで帰ることになり、谷川岳―天神尾根―ロープウェイ―土合のルートを選択する。オジカ沢の頭から携帯電話にて原口さんと連絡をとり無事を伝える。ロープウェイ駅に着いたのは16時30分だった。再度下山連絡をした後タクシーで上毛高原に出て新幹線を使って夜の8時に東京駅に着き、そこで解散となった。
 今回の山行は反省すればきりがないが、まず第一が暗い中での行動である。今回その恐れをまざまざ見せつけられた。次に予定時刻に集中できまいが、下山が月曜になろうが、無事に帰ることを最優先に行動すべきだったということだろう。日向窪から撤退する方法もあったし、高巻きの途中でビバークする方法もあったのだから。そして文中では触れなかったが、在京本部を間違えてしまったことも大きな失敗であった。特に集中では大事なことであり、再確認すべきだった。
 最後にパーティーでご一緒させていただいた、太田さん、小林さん、大変ご迷惑をおかけしましたが大いに助けて頂き、本当に有難うございました。


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