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鋸岳敗退行
野口 芳裕

山行日 2000年2月11日~13日
メンバー (L)野口、小堀

 プロローグ。昨年11月末の例会山行で編笠山を下り、小春日和の中、小淵沢駅に向かって、小幡氏とこれからどんな山を登ろうかなぁてなことを話しながらポクポクと歩いている時です。正面に、逆光の中、甲斐駒から続く鋸岳の稜線が、あのギザギザのスカイラインを映し出していたのでありました。その時、うーむ、鋸も格好いいなぁ、以前行った時は夏で、くそ暑くてなんとなく藪っぽかったけど、積雪期ならば、藪もかくれてすっきりしてんじゃないかなぁ、なんて思ったのでした。

 さて、話はいきなり、2月11日朝の戸台に飛ぶのであります。昨晩は車で横浜を発ったのですが、高遠に着いてから道に迷い1時間ほどリングワンデリング?して、小黒川の林道の道端にテンパッたったのが丑三つ時、前祝いと称して酒盛りを始めて寝たのが4時頃(ムムムムム)。てなわけで、全く懲りない叔父さん二人連れは、戸台の河原を寝不足の頭でフラフラと歩き始めたのであります。雪も殆ど無く、天気も良ければ風も無い、こりゃなんだ、これが厳冬期か、まるで晩秋か初冬の様ではないか、ラッセルが大変そうだなんだかんだと騒いでいたのは何だったんだ、持参したワカンやビーコンセットの立場はどうなるんだ、エッ、などとほざきながら楽勝ムードに浸り始めたのが敗因の第一歩なのでした。連休初日で沢山いる登山者も丹渓山荘から赤河原に向かうと、さすがにぐっと減り、トレースもおぼつかなくなり、七丈ヶ滝沢出合に着いた時には少々疲れ気味。当初の予定では、初日に七丈ヶ滝尾根を出来るだけ上まで登る予定だったけど、寝不足で調子悪いし、こんなに雪が無いと尾根上でテンパル場所が無いんじゃないの、ラッセルも大した事はなさそうだから明日早く出てガンバロウてなことで、七丈ヶ滝沢出合に幕を張る事にしたのであります。小堀氏持参のロンリコ(度数70%だが結構うまい、軽量化にはお勧めのお酒であります)をチビリチビリとやりながら、明日は一丁勝負したろうじゃないの、などと怪気炎を上げつつ早めに就寝したのでした。

 翌12日(この日に関しては緊迫感を高める為、語調もかわるのだ)。七丈ヶ滝沢出合から約100メートル本谷を登り、七丈ヶ滝尾根に取り付く。トレース全く無く、赤布を拾いながら登り始める。取り付いてから30分程は道が判らず急斜面にアイゼンを効かせて強引に登る。ふうふう言いながら道に出たが、その先も悪い。軽い雪がふわっと10~20センチ積っており、アイゼンも効かず、岩の上の雪を手で払い除けながら進む。七丈ヶ滝尾根はかったるいよ、と言う金子会長の貴重なアドバイスはあったものの、ガイドブックにも載ってるんだから、普通の縦走路みたいにバンバン登れるだろうと言う甘い予想は見事に外れ、昨日の楽勝ムードは脆くも吹き飛ぶ。本当に一般登山者が入るコースなのだろうかと疑問に思いつつも、針金や残置ロープを伝ったり、痩せた露岩を馬乗りで越えたりして行くが、ピッチは上がらず、時間ばかり経っていく。稜線まで半分来たかどうかの地点で作戦会議。これまで真面目に4ピッチ約4時間登ったが、この調子だと、少し疲れて来ているし、今日中に稜線に出るのが精一杯と判断を下す。当初の予定では、今日は鋸を縦走し角兵衛沢を戸台の河原まで一気に降ってしまうというものであったが、今日中に稜線に辿り着いても、明日は下山予定日、もはや、予定コースの完遂は全く実現不可能となった。これから先どうしようと言う事になったが、選択肢は三つであった。(1)今日稜線まで登り、明日、鋸に向かい熊穴沢を下降して下山。(2)同様に稜線まで登り、明日、甲斐駒を超えて北沢峠を経て下山。(3)恥ずかしながら、軟弱にも、このまま往路を引き返す。以上を考えた結果、(1)は、この雪の状態だと熊穴沢下降は時間もかかりそうだし、危険かも。(2)は、チョット長いけど安全なコース。但し、提出した計画と全然違うルートになるので、何か起こると大問題。と言う事で、安全第一の大英断というか、敗退を何とも思わないという悪い癖が出て、そのまま尾根を下ることにする。降りは、アイゼンに、緩み始めた雪が団子になるのに悩ませられながら、安全を期して3回ほど懸垂しながら下降する。七丈ヶ滝沢出合に着き幕を張る。その晩は、自棄酒気味に残りの酒を飲んだのであります。

 13日。今日は、河原を降るだけであります。一昨日に比べすっかり立派になったトレースを辿り、氷を登っているパーティーを見物したりしながら丹渓山荘へ。丹渓山荘を出てすぐに、学生のパーティーに追いついたのでありました。先頭の女の子が、けな気にも、チョコチョコと走っているのであります。よしよし、うい奴じゃなどと、その後ろを歩いていたのですが、なんとなく競争モードにシフトレバーが入ってしまい、戸台の駐車場まで一気に、突っ走しったのでありました。ちなみにレースは、叔父さん組が圧勝したのでした。
 正面に見える中央アルプスに妙に雰囲気がピッタリ合う、ビバルディの四季を聴いたりしながらドライブをして家路に就いたのでありました。

(雑感) ― 独り言 ―
 敗因は、杜撰な計画であった事が一番です。七丈ヶ滝尾根だけで丸一日必要でした。雪の付き方が悪かったといえ、もし、ラッセルがあったとしたら、体力的にも手強いルートになってたでしょう。好い加減な計画にも拘わらず、いやな顔一つせずにお付き合い頂いた小堀さん、ありがとうございました。そしてゴメンナサイ。反省してます。
 それから、トレースも無い厳冬期のルートをやるにはもっと体力をつける必要を痛感しました。体力の不足を感じて気持ちが萎えたのも事実です。最後に、もう一つ。今回は軽量化に努めましたがまだ不充分です。もっとシビアに軽量化に努めましょう。若干の快適性は犠牲にしないとダメです。

〈コースタイム〉
2月11日(晴れ) 戸台(8:20) → 角兵衛沢出合(10:30) → 丹渓山荘(11:15) → 七丈ヶ滝沢出合(12:45)泊
2月12日(晴れ) 七丈ヶ滝沢出合(7:00) → 200m付近(8:45) → 2245m付近(10:45~12:00) → 七丈ヶ滝沢出合(14:45)泊
2月13日(晴れ) 七丈ヶ滝沢出合(8:00) → 丹渓山荘(8:30) → 戸台(10:00)

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