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北の又川・白沢
小堀 憲夫

山行日 1999年10月9日~11日
メンバー (L)小堀、金子、藤井、細川、高木(敦)

 北の又川の入門・日帰りコースを、のんびりと一泊で紅葉を愛で、夜は焚き火を囲んで語り合いましょうや。ちょっとでいいから、きのこなんかあってもいいね、というのが今回のテーマだった。ところがどっこい、どうしてどうして、この白沢「あたしをなめんじゃないよ。」とばかりに、結構手強い女、いや沢だった。
 東所沢の駅にて待ち合わせ。細川号で奥只見湖めざしてGO! 途中、現地のスーパーで予備日用の買出しも済ませ、準備万端だ。銀山平の石抱橋からさらに枝折峠方面へ少し進むと、じきにゲートが掛かった林道入り口が軽い登り坂の左側に見えた。ここに違いないと、ゲート先の路肩に車を止めて用意をしていると、オンボロバンが1台ゲート前に止まった。中から出てきたコナキジジイみたいな、どうやら地元の林業関係の人らしいジイサマは、こちらをニヤニヤ振りかえりながら、ゲートの鍵を開けて車を林道に乗り入れていった。あのニヤニヤはどういう意味だったのかなぁ~? こちとら入渓点まで1時間程の林道歩きだが、初日の予定は魚止滝前の適当な河原まで入いり、焚き火幕営するだけだから余裕しゃくしゃく。荷物の重さも気にならず、タッタカタッタカ歩き出した。
 回りの山々やヤブに秋の気配を楽しみながらしばらく行くと、「オオッ、デカイ!」と藤井パパの大きな声。「どうした、どうした。なんだ、なんだ」と集まると、なるほど大ぶりの見事なアケビが鈴なりに生っていた。それから先の林道もアケビは大漁で、しまいには大きなのを大量に見つけても、「もういいや」と横目で見て素通りするくらいだった。
大きなアケビ  やがて、北の又川本流の太い流れを左奥に見送り林道も途切れると、白沢の入渓点だ。しばらく平らな河原を歩くと、右側からの小さな流れの入り口に、岩魚の産卵用の小沢であることを示す札が掛かっていた。「なるほど、流石に北の又川。禁漁にしてしっかり環境を守っていてくれているのだな」と関心した。それにしては先程からほとんど魚影がない。足にぶつかるくらい岩魚がいるのだろうと楽しみにしてきたのだが、拍子抜けした思いだった。さらに左右に小さな流れをやり過ごすと、沢幅も細まり淵が現れ始めた。ゴルジュの始まりらしい小滝を越えようと、手前の小淵に入りかけたその時だった。目の前を、まるで宇宙戦艦ヤマトのような巨大な岩魚が、うねるように雄大にゆっくりと横切っていった。
 その日はその小滝の手前のヤブを切り開いて幕営。快適とはいかないまでも、十分なスペースと十分過ぎるお神酒で、焚き火宴会の夜は更けていった。ただ、小堀の用意したノコがちゃちだったのと、ゴルジュの入り口だったせいもあり、乾いた薪が十分でなかったのが残念だった。明日は、約5時間で稜線のゴルジュ突破が待っている。
 翌朝は、出だしから15m3段の魚止滝が待っていた。左岸のルンゼから右上のヤブへホールドを求めてトラバース気味に移って高巻いたが、これがけっこういやらしかった。上にはしっかり巻き道が付いていたので、もっと手前のヤブから巻き始めてもいいのかもしれない。その後は二俣を過ぎたあともしばらく平凡な流れが続いた。が、がである。問題はその後のゴルジュの連続にあった。コピーしていったルート図のコースタイムは、明らかに日帰り用の軽装でベテラン2人が遡行したらの条件付きタイムだった。ザイルを何回も出し、少ないハーケンを使い回し、トップを交代してリードし、これでもかこれでもかと現れる滝の連続に、夢中でとっついていった。流石に「もうくたびれたなぁ。稜線はまだかよ」と右岸の大高巻きを終えて沢床に降り立った時には、もう既に辺りは暗くなり始めていた。 うまい具合に、ちょうどその場所にどうにかテントが2張り張れそうな草付きテラスがあったので、ビバーク決定。幸い皆多めの行動食と、お神酒まで持っていたので、悲壮感は全然なし。さらに、まるでここであなた達を待っていましたとばかりに、乾いた大量の流木が岩かどにつまっていたので、ほとんど運ぶこと無しにその場で大焚き火。夕焼けがきれいだったなぁ。 
 翌朝ほとんど藪漕ぎはないといっても、結構急な枯れ沢を詰め、最後は濃い笹ヤブをごそごそやって、漸く百草の池少し上の稜線に出た。ちょうど早発ちのハイカー達が息を切らせて登ってきたところで、「うわわわっ、熊だっ!」と腰を抜かして驚いていた。
 後は下りあるのみ。好天に恵まれて汗をたっぷりかきながら走り降りた。枝折峠まで下る予定だったが、途中明神峠を少し過ぎた辺りで、小尾根上を入山に使った林道に下る道があったので利用してみることにした。途中の稜線で携帯のアンテナが立ったので、委員長に経過報告。「モウトウ、モウトウ。昨日のビバークは楽しかったです」訳の分からない報告だ。
 利用した道は、危険な個所はなにもなく、お陰で1時間以上短縮でき、昼前には車に到着していた。クーラーボックスで冷えていたビールで軽く乾杯。流石に皆腹がペコペコで、慌しく銀山平に降り、中荒沢の川縁の空き地にちょうど良い具合に岩のダイニングセットを見つけ、用意していた材料であっちゃんお手製の夏野菜カレーを貪り食ったのであった。
 やっぱり越後の沢は手強いぜ。なめたらいかんね。でも正直なところ、滝登りがたくさんできて、大満足! また行こうっと。


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