トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ303号目次

平成12年度五月合宿 剱岳・八甲田山
その2 剱岳・小窓尾根
金子 隆雄

山行日 2000年4月30日~5月5日
メンバー (L)金子(隆)、小幡、野口

 久し振りの合宿参加、久し振りの剱であったが、やはり剱はいい山だ、何度行っても飽きないし新鮮だ、それに厳しい。

 4月30日 晴れ後曇り
 前夜、ガラガラに空いている急行能登で上野を出発。魚津で下車し、富山地方鉄道の新魚津駅まで少し歩く。ここで飯塚さんに貰った株主優待の回数券をありがたく使わせてもらいました。上市で下車したのは我々だけで駅は閑散としている。
 タクシーで馬場島へ向かう。見渡す限りの山々は豊富な残雪を身にまとって真っ白だ。馬場島にもかなりの雪が残っている。入山届けのため派出所に立ち寄ると会友の朝岡君に会った。彼らは二人で赤谷尾根へ行くと言う。
 重いザックを背負い7時40分に出発する。車道を少し行くと立山川への道と分かれ白萩川沿いの道(道はもちろん雪の下)へと入る。橋を渡ったところでブナグラ谷方面への道と分かれて白萩川の右岸を進んで行く。取水口手前で左岸に渡り、取水口を右から越えてその後また右岸を進む。
 事前情報では今年は雪が多く白萩川は全面雪で埋まっているとのことだったので、渡渉はしなくて済むかなと期待していたが、果たしてその通りで一度も渡渉することなく雷岩まで辿り着いた。『タカノスワリ』と呼ばれる白萩川のゴルジュにはデブリが多数見られた。3人組のパーティーが後続していたが、そのパーティーは池ノ谷へと入って行った。剱尾根でも登るのだろうか。
 雷岩より小窓尾根へ取り付く。浅いルンゼ状の急雪壁を登る。昨日のものと思われる先行者のトレールはあるが、いきなりの急登で息が上がる。一気に300m程高度を上げるとやっと尾根に乗ることができた。尾根上に出れば少しは緩傾斜になるかと思えばなかなかそうはいかず、緩急の登りを繰り返すとやがて1614mピークに着く。
 いつもそうだが元気がいいのは午前中だけで、午後になると途端にヨレヨレになってしまう、特に入山初日はその傾向が顕著に現れる。1900m付近で一本入れる。今日の幕営地に予定している1990mピークまではほんの僅かだが、もう勘弁して、90mくらいどうでもいいじゃないかという気になって本日の行動をここで終えることにした。
 午後になり池ノ谷では雷鳴のような轟音を響かせ、ひっきりなしに雪崩が発生していた。

 5月1日 雨
 昨日早く寝過ぎたために夜中に目が覚め、その後なかなか寝つかれずに困った。夜半からの雨は朝になっても降り続いている。今日は雨でも視界さえ良ければ行動しようと思っていたが、生憎視界も悪くすぐには行動できそうもないので再びシュラフに潜り込みまどろみ始める。
 昼頃になって少し天候が回復してきたので少しでも前進しておいた方が得策との判断からテントを撤収し出発する。30分程登ると初日の幕場に予定していた1990mピークへ着く。29日に入山したパーティーのものと思われる幕営跡があった。そこから更に30分ほどで2121mのピークだ。この先しばらく幕場がないので今日はここまでとする。テントを張り終えると再び雨が降り出してきた。ここは晴れていれば展望の良さそうな所だ。ガスの中にニードルが見え隠れしている。
 昨日も今日も行動終了時間が早かったので酒が足りるか心配になってくる。この日、やたらに重そうな小幡のザックの正体が判った。どう見たって軽いとは思えないような酒のつまみがゴロゴロ出てくるのだ。あれほど軽量化しろと言ったのに(言ってないか?)。それに引き換え野口さんは徹底的に軽量化したようで、靴まで軽量化して軽登山靴である。でもこれはちょっとやり過ぎでは、と思えるのだが。

 5月2日 晴れ後雪
 天気予報によれば午後から天気が崩れるようなので、午前中勝負だなということで3時に起きて出発準備をする。いくらなんでも今日は三ノ窓までは行けるだろうと踏んでいたがそんなに甘くはなかったのである。
 2121mのピークからは細い雪稜を少し行き、コルへと急下降し更に急雪壁を登ると平坦になる。ニードルとその後に控えるドームが目前に迫ってくる。この先両側が切れているのでザイルを使う。ニードルはフィックスを利用して池ノ谷側をトラバースしてドームとのコルへと降り立つ。後から5人組のパーティーがザイルも使わずスタスタとやって来る。さぞかし活きのいい若者達のパーティーかと思えば、結構なおじさん・おばさん達だった。近頃の中高年は侮れないのである。
 ドームの登りはブッシュ混じりの雪壁に2ピッチザイルを延ばす。途中で先ほどの5人パーティーに追い越される。ドームから急下降してコルに降りて、岩峰下の4~5mの岩場を登る。池ノ谷側の雪壁を捲き気味に登っていくと岩峰の上に出る。この先は雪の付いていない両側が切れたナイフリッジとなっており、5人組パーティーが取付いているが苦労しているようでかなり時間がかかっている。しばらく岩峰上で待つことにする。先行パーティーのラストが視界から消えてからアンザイレンして2ピッチでこのナイフリッジを抜ける。白萩川側の雪壁をトラバースし、ルンゼ状の急雪壁にザイルを延ばす。ビレイしていると凍ったブッシュが融けだし、滴り落ちるしずくでびしょびしょになってしまうが、不安定な場所でビレイしているため避けることができない。スラブの上に薄く雪が付いたような所をしばらく登ると小さなコルに出て、そこを左に辿るとじきにマッチ箱のピークに着いた。
 午前中良かった天気もこの頃になるとすっかり崩れて雪が舞い始めている。疲れもピークに達しようとしていたため今日中に三ノ窓に着くことは無理と判断し、このマッチ箱のピークに幕営することにした。ここで野口さんのアイゼンバンドが切れていることに気が付いた。ここで切れたのか、だいぶ前に切れていたのかは判らない。
 吹き溜まりを削ってテントを張ろうとしたが風が強くてテントの設営がなかなかできない。雪洞を掘ろうかとも思ったが、雪洞は寒いのでやめにして、雪面を深く掘って回りにブロックを積んで対処する。

 5月3日 吹雪(朝のうちのみ晴れ間あり)
 2日で抜けられると思っていた小窓尾根も今日で4日目、大誤算だった。朝はほんの少しだが晴れ間ものぞき、視界もまあまあだった。小窓ノ王基部までは急な雪壁のアップダウンを繰り返す。遠くに5人組パーティーが雪壁を登っているのが見える。彼らも昨日は抜けられなかったようだ。途中からは彼らのステップがしっかり刻まれていたので助かった。
 小窓ノ王の基部に着いた頃にはガスって何も見えなくなってきていた。小窓ノ王の基部から三ノ窓へは懸垂下降2ピッチで、その後慎重にトラバースして9時半に三ノ窓へ到着、長かった。
 三ノ窓にはテントが2張りだけ、意外と人は少ない。当初は日数が余るのでチンネなども計画に入れていたのだが、まるで冬壁状態で一目見るなり諦めた。今日は真砂沢出合辺りまで下っておきたかったが、天気が悪く視界がほとんどないので仮設営したテントの中で天候回復を待った。この時またまた野口さんのアイゼンにトラブル発生。ジョイント部分のボルトが外れて無くなっているのが判ったのだ。幸いに靴に装着している分には外れないことが判ったので下山には支障なさそうだ。
 正午まで天候回復を待ったが望み薄なので今日はここに泊ることにして、本格的にテントサイトの構築にかかる。時間はたっぷりあるのでブロックを高く積んで立派な幕場が完成した。
 ガスの切れ間に三ノ窓尾根を登って来るパーティーが見えた。

 5月4日 吹雪後晴れ
 高く積んだブロックが災いしたのか雪が吹き溜まってテントが埋まり、明け方には相当窮屈な状態になってきていた。たまりかねて除雪に出ようとしたが、入口が埋まってなかなか外に出られない。この時、野口さんはパニック状態で、ナイフでテントを切り裂こうかと思ったと、後で語っていた。(おいおい、そんなこと止めてちょうだいね!) 以後2時間おきに除雪しないとテントが歪んでしまう状態になる。
 夜が明ける、今日も吹雪いてて行動できそうもない。私は今日、2人より一足先に下山する予定だったが、これでは下山できそうもない。携帯電話が通じたので家族には下山が遅れることを伝えることができた。
 今日は悪天候にも拘わらず沢山のパーティーが小窓尾根からここ三ノ窓へ到着し、かなりの賑わいとなった。昼頃より天候が回復してきて青空が広がりだすが、風は相変らず強いままだ。そのうちヘリコプターが飛来し、急病と思われる人を収容していった。

 5月5日 快晴
 今日は快晴、今回の合宿で一番の好天となった。3人一緒に下山することにする。雪が締まっているうちにということで朝早く出発する。下山ルートは三ノ窓雪渓を下り、ハシゴ谷乗越を経て黒四ダムへ至るコースをとる。途中まではデブリもなく快調に飛ばして約1時間で二股に着く。二股にある近藤岩は頭2mぐらいを雪の上に出すだけであとは雪の下に隠れている。ここからは真砂沢出合まで剱沢を登る。剱沢も全て雪に埋もれている。スキーヤーが気持ち良さそうに滑り降りてくる。ハシゴ谷乗越までの苦しい登りをこなし、内蔵助平の広大な雪原を進む。内蔵助谷も全て雪に埋まり、丸山の基部辺りは例年は右岸を通過するが、危険なので左岸を通過する。黒部川と出合う辺りは流れが出ているがすぐに雪渓が覆うようになり雪渓上を歩く。最後は地獄のような黒四ダムへの急登をヘロヘロになりながら登りきって12時に到着し、ようやく合宿が終了した。

〈コースタイム〉
4月30日 馬場島(7:40) → 取水口(8:35) → 雷岩(9:40) → 1614mピーク(12:35) → 幕場(1900m)(13:30)
5月1日 幕場(12:05) → 1990mピーク(12:50) → 幕場(2121m)(13:00)
5月2日 幕場(4:55) → ニードル(7:40) → ドーム(9:00) → 幕場(マッチ箱ピーク)(14:50)
5月3日 幕場(6:30) → 小窓ノ頭(8:00) → 三ノ窓(9:30)
5月4日 三ノ窓にて停滞
5月5日 三ノ窓(5:00) → 二股(6:05) → ハシゴ谷乗越(8:30) → 内蔵助谷出合(10:20) → 黒四ダム(12:00)

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ303号目次