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ガラメキ温泉入湯記
さとう あきら

山行日 2000年7月

「ガラメキ」。この韻の心地よさに魅せられて久しい。10年以上前、自称温泉マニアとして秘湯(ひとう)を漁っていた際に、「秘湯中の秘湯」とか「今となってはその痕跡も皆無で探し当てる事さえ難しい」などと紹介されていた温泉である。その後忘却の彼方に葬られていたが、とある施設の壁に貼られていた周囲の拡大図の中でその名前を偶然発見したのだった。この時の心境といったら、まるで買った古本の中に千円札を発見したような驚き、うれしさだったとでも例えようか。(まだ無いけどね)
 ガラメキ温泉は上州伊香保温泉の南、約5キロのところに位置する。開湯の年代は定かではないが、明治、大正とかけ繁盛し、富士見館、阿蘇山館、扇屋等数件の温泉宿があったらしい。当時は「がら女き」や「我楽目喜」と字を当てていたそうである。しかし敗戦後、周囲一帯が米軍に摂取されやむなく廃業。その後返還されたものの往時の湯温、湯量が復活せず、荒れるに任せ現在に至っているもようだ。
 早速施設の管理人に、温泉の現状と行き方を訊ねてみた。しかし、知っているのは名前ばかりで、自分の知人を含め行ったことのある者はないとの事。ここから尾根を越えた、わずか2キロ程の距離にもかかわらず、である。私は騒ぎ始めた血を抑えることは出来なかった。壁の地図を急いで書き写し、2時間後には戻る旨を伝え車に飛び乗った。
 伊香保から榛名湖へ向かう道の途中、南に折れ、松之沢峠を越える。そして岩登りゲレンデで有名な黒岩の下で、東に向かう林道をたどるのだが、入り口のゲートに阻まれやむなくここから徒歩となる。まず鷹ノ巣山の西側で榛名白川の左股の源流部を渡渉。ここにはクレソンが群生しており、お土産には最適だ。さらに鷹ノ巣山東側で、再び榛名白沢の右股の源流部を渡渉。間もなく左に上る林道を見送り10分程進むと道が十字となり、さあ困った。まずは正面の道を進むが、次第に草に覆われ、踏み跡が不鮮明となり撤退。十字路に戻り、今度は下の道を進む。しかし一向にそれらしきものは現れず、時間切れの敗退と相成る。
 それから2年後、再びチャンスが訪れた。江村氏を強引に説得し、その十字路へ。今回は迷わず左の急登の道を選択する。標高差約30mを駆け登った先は広場となっており、左側は石垣、そしてなんと苔むした石畳が続いているのだ。そこを下り進むと、ひっそりと鉄の丸ぶたが置かれている。直径1mくらいか。ヨイショと持ち上げると、なみなみと湯をたたえた浴槽が現れた。ついに念願のガラメキ温泉発見だ。
 早速入ってみると、ふ、ふかい。湯船は土管を縦に埋めたような構造となっており、あごが沈むあたりでやっと足が底の踏み石に届く。湯温は28度C位で、ぬるいというより冷たいが正しく、盛夏以外はとても入れないという感じである。泉質は若干の炭酸混じりの単純泉で、湯量は毎分5リットルという程度か。展望もなく、リラックス出来るような湯船でもなかったが、野趣あふれるお宝の湯は今も澄み、秘湯マニアのためにもずっとこのままであって欲しいと願わずにはいられなかった。
「ホタル舞う秘湯の空の静けさや、友に教えも行かぬを願い」


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