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易老沢
福間 孝子

山行日 2000年10月7日~9日
メンバー (L)鈴木(章)、藤井、野口、小堀、飯塚、福間

 前日車2台で新宿を出発し、飯田の天竜川の近くにテントを張ったのが朝4時。横を通る車の音に目を覚ますと、我々は道路にテントを張っていた。くわばらくわばら。
 そこから遠山川の易老沢まではちょっと複雑でとても説明できないが、行きつ戻りつしながら2時間ほどかけてようやく到着。光橋の先の駐車スペースにはすでに5~6台の車があった。連休ということもあって予想外に多い。
 ほとんど寝不足状態で出発。空はさえ渡って快調。吊橋を渡って取水口の上で入渓。遡行案内書に依れば、左俣をのぼり光岳へ行き右俣を下るルートは日帰りも可能と書かれているし、ルート図もシンプルきわまりない。ここを3日かけるのだからルンルンものである。この時点では確かにそうであった。しかし悪夢が我々を待っていた。
 入渓より1時間程で二俣に到着。左の河床の低い方へと進む。ここから次々と滝が出てきてゴルジュ帯にはいる。ずいぶん歩いたつもりでも一向に距離がかせげない。地図を見るとまだこんな所か、という具合である。
 最初にであう40mの滝は空から一直線に落下しまことに圧巻であった。さすがアルプスである。ここを左岸から高捲く、ひたすら高捲く。あまり人が入らないとみえて踏み跡らしきものがない。土は足元から崩れるし、このままズリッといけば下までいくなと思いつつ、へっぴり腰で斜面をトラバースする。とにかくすべての高捲きがこんな調子なのだ。さすがアルプスの3級はあなどれない。
 今日は行動予定が2時までだったが、なかなかゴルジュ帯を抜けきれない。小滝の連続のため遡行図では現在地が確認できない。やっぱりこんな時は高度計が役に立つ。買ったから言うわけじゃないけれど。
 三段40mのくの字とおぼしき滝を右岸より高捲く、ひたすら高捲く。ハリブキをつかむ。どうしてちょうどつかみやすい所にいつもあるんだろう。今度は10mの滝を左岸より高捲く。というより尾根を登る。時間はもう4時になろうとしている。沢に戻り1600地点でようやくテントを張る場所をみつけ今夜の幕場とする。予想外にハードな一日だった。
 対岸に焚き火を燃やし、お食事処をもうけ、てんぷらと途中でゲットしたクリタケ入りのご飯とムキタケ入りのスープでお腹を満たし、にせキャンディーズの歌と踊りで楽しく酔い、満天の星の下、至福の一時だった。いつも「又沢にこれて良かった」としみじみと思う。沢の夜は楽しくてそしてちょっとセンチになれる。
偽キャンディーズ  翌日もいい天気で、出発して30分程で上の二俣に着いた。ここからまたもや滝の連続でこんなに高捲いちゃっていいのかしらぐらい高捲く。
 沢が細くなり最後の二俣にでると、そこには真っ青な空を切って白い山肌がリンと横たわっている。周りは紅く色づいた葉が光を通して緑の中に浮き立っている。そのままそっくり切りとってしまいたいような美しさだ。
 右の沢に入ると水線もとぎれ苔の中のケモノ道をいく。10時に登山道に出る。これで全てが終わったような気分で、このまま登山道を下ってもいいかななんて思っても見たが、せっかくの光岳、今度いつ来れるかもわからない。やっぱり行こうということで、アッコリーダーのここ登ったらすぐ、の声にだまされつつ光をめざす。最後尾の藤井さんは、渋い色の手ぬぐいをほおかぶりし、山の妖怪のようにするするとついて来る。何か違う生き物になっていた。
 光の小屋は建てかえられて木の匂いも新しい立派な小屋になっていた。できることならここで一泊したいと、みんな後ろ髪ある人もない人も引かれながら光の山頂を目指した。最初の予定では今日は下の二俣まで下り、明日はのんびりと車まで戻れるはずであった。
 山頂から泥とガレのルンゼをしばらく下ると滝が出てきた。登るのは出来るのだろうがとても下れないのでザイルをだす。6人なので全員下りきるのに時間をとられる。何度もザイルをだしながら時間だけが過ぎて行く。あたりは暗くなってくるがまだ上部のゴルジュ帯の中だ。足元の岩も見えずらくなってくる五時半ごろ打ち切りとして、せまい斜面の棚にどうにかテントを張る。下は岩がゴツゴツだし足元の岩は沢にゴロリと落ちて行くわの最悪の場所で、それでも疲れていたのかすっぽり岩の間に体を押しこんだ状態で眠りについた。
 翌朝、雨が降る寒い中お茶だけで朝食をすませ6時にそそくさと出発。午前中になんとか目途がつかないとしんどいなあ、とちょっと悲観的になりながらゴルジュ帯を抜けると、いくつか滝はでてきたが思いのほか早いぺースで下の二俣に着いてしまった。二俣からは右岸の踏み跡をどんどん下り、予定通りに駐車場に10時に到着。みんな押さえるところは押さえるな~。天気は良くなるし、終わり良ければすべてよし。みんなでガシッと握手をかわし、なんだか大仕事を仕上げたプロジェクトXのような爽快感だった。
 この山行で負傷者続出。ころんで膝を打ち付けた者、大岩が足の上を転がっていった者、山行中は無傷なのになぜか夜膝を打った者、それも半端じゃないのだ。よくまあみんな顔にも出さず下まで下りてこられたものだと、その精神力に感服してしまった。
 帰りは風呂へもよらず一目散で帰ったが、途中飯田で立ち寄った店では、みんな腰の曲がったロボコップのような歩き方で、周りの客がサーッとひいていくのがおかしかった。
 最後に、ここにはヒルがいます。ヒルの嫌いな方はお気をつけて。

易老沢その2


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