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釜川左俣(倉俣沢)
金子 隆雄

山行日 2000年8月12日~14日
メンバー (L)金子(隆)、藤井、高木(敦)

 今年の夏はまるまる一週間山へ行けることになっていたので、何処か東北方面の沢へでもと計画を練っていたが、諸事情によりボツになってしまった。代りに、日程はうんと縮まってしまったが清津川の大支流である釜川へ沢登りに行ってきた。田代の七ッ釜で知られる釜川だが、取水口の先で大きく二俣になり、右俣は千倉沢といい、左俣は倉俣沢といって釜川の本流になる。
 以前、右俣を溯行したことがあり、三ッ釜付近の景観の美しさは今でも鮮明に記憶に残っている。あれから14年の歳月を経て再びこの釜川へやって来た。今回の溯行対象は左俣である。景観の美しさにおいては右俣に軍配が上がるが、難易度ははるかに左俣の方が高い。それ故にか他に溯行者もなく静かで充実した溯行を味わうことができた。

 8月12日 晴れたり曇ったり
 前夜、東武東上線の若葉駅に集合。こんな所に集合したのは多分初めてだと思う。そうこの駅は私の家から一番近い駅なのです。鶴ヶ島ICから関越道に入る。渋滞はしていないが交通量はかなり多い。塩沢ICで降りて、国道353号へ入り大場の部落を目指す。所平から大場の周辺の道はまるで迷路のようで道路地図だけでは辿り着けず、2万5千の地形図を見ながら散々迷ってようやく目的地に着くことができた。
 大場から更に林道を奥へと進み、釜川の取水口へと続く道が分かれている所に車を停める。車が1台停まっておりテントが1張りあった。我々はテントを持って来ていないので車の中で寝ることにする。
 窮屈であまり良く眠れなかったが、起きて出発準備をする。先着していた人達は我々と同じ男性2名、女性1名のパーティー構成で、準備を終えると車で林道を更に奥へと行ってしまった。我々は車をここへ置いて、ここから続いている道を辿って取水口まで行くことにする。天気は台風9号の接近でどうなるか心配だったが、何とか大丈夫そうな雰囲気であった。
 舗装された道はすぐになくなりその先は踏跡程度となる。ヤブをかき分け大汗流しながら踏跡を辿って行くと不意に立派な道に飛び出した。何と林道のもっと奥に取水口までのちゃんとした道があったのだ。もちろん地図には載っていない。取水口では先ほどの3人パーティーがおり、我々が着いて程なく先行して行った。我々も準備を整えここより溯行を開始する。
 二俣までは巨岩が折り重なった河原を行く。途中の20mの瀞は左岸より捲くが立派な捲き道ができている。先行していた3人パーティーに追いついて先に行かせてもらう。二俣で休んでいると追いついて来て右俣へと進んで行った。パーティーの中の女性はどうも沢登りの初心者らしく動きがぎこちない。
 さて我々は左俣へと入る。すぐに左岸から出合う中ノ沢を過ぎるといよいよゴルジュの始まりだ。第1ゴルジュの入口は小さな2mの滝で始まる。しかし釜が深く捲くのも大変そうなので早速の泳ぎとなる。水量はそれほど多くはなく、水も冷たくないのが幸いだ。続く滝は右岸を捲いて懸垂で下降する。5mの滝を登り、その上の滝を右から捲くと第1ゴルジュが終わり、すぐに第2ゴルジュが続く。最初の滝はへつって越えるが続く8m滝に阻まれ左岸の草付きスラブを捲く。一旦沢床に戻るが次の12m滝も登れず再び左岸の高捲きとなる。ここの高捲きは草付きのスラブで灌木もあまり生えていなくて最悪だった。途中懸垂して更にトラバースして沢床に戻った時には正直言ってホッとした。
 第2ゴルジュが終ると次の第3ゴルジュまではかなり長い河原が続く。皆かなり疲れてきたようで足元が不安定になってきている。私も同様だ。昨夜あまり寝ていないので無理もない。早めに行動終了することにする。第3ゴルジュが始まる手前の右岸にタープを張り今夜の宿とする。予定では奥の二俣まで行くつもりだったがだいぶ手前での泊りとなった。大体最近は初日に予定通り行動できたためしがない。早めの行動終了で時間があったので竿を出してみるが釣果はさっぱり。あとは焚火の周りに腰を据えて飲むしかない。

 8月13日 晴れたり曇ったり
 朝起きると一面に青空が広がっていた。何だかとても嬉しくなってしまう一時だ。今日は長丁場の割にはのんびりした出発だった。出発してすぐ右岸に赤土の大きなザレを見送り、沢が右に大きく曲るとその先が第3ゴルジュの始まりだった。
 最初の3m滝は簡単に右側をへつって越える。続く太い流木が掛かる4m滝は水際を登り難なく越える。ゴルジュ出口の2段10mの滝が最難関だった。左壁にルートが見出せそうだったので途中まで登ってみるが、最近めっきり意気地がない私はそれ以上進めず、頼りになる男・藤井さんに後を託す。傾斜の強い草付きスラブを直上し、バンドを水平にトラバースして落ち口に立つ。このトラバースが最悪で残置のピトンが数本あったが岩がツルツルでかなり厳しかった。
 第3ゴルジュが終ると第4ゴルジュが続いている。入口の12m滝は取付けそうもなく右岸より高捲く。続く二つの小滝はへつって何とか越えることができた。これでゴルジュは全て終ったなとホッとして上を見上げると橋が掛かっている。林道があることは知っていたが何だか興醒めしてしまう。釣人と思われる二人が橋から下を覗いている。
 奥の二俣までは単調な河原が延々と続く。二俣からは左ノ沢(左倉沢)へ入るとじきに2段15mの滝が現われる。ルートは水流左の凹角に取れそうなので、藤井さんがその身軽さを発揮してサッサと行ってしまう。残った二人は取付きの1m程の段差に苦労し、藤井さんに引っ張り上げてもらう。凹角を少し登ると行き詰まるので右手のスラブに移って直上するが、スラブはホールドが殆んどなく恐怖だった。続く6m滝は右側を快適に越える。3m、4mと続く滝をへつって越え、7m滝を越えると3段8m滝となる。右岸より捲いて沢床に戻ると滝場はほぼ終わり、後は小滝がいくつか出てくる程度。
 最後の二俣を右の沢へと入る。両岸にはオオシラビソが目立つようになる。水はかなり上まで流れており、標高1910m付近でようやく水が涸れる。尚も明瞭な沢形を忠実に詰めて行き、最後はほんの数10m笹ヤブをかき分けて行くと、霧ノ塔と雁ヶ峰とのコルの少し霧ノ塔寄りの登山道に飛び出した。ヤブ漕ぎがほとんどなくてラッキーだった。
 登山道に出たのが既に16時近かったので今日中の下山は諦めて今日は小松原湿原にある避難小屋泊りとすることにした。避難小屋まではかなり長く感じられた。いくつかのピークを越えてヨレヨレで小屋に着いたのが17時30分で今日は残業になってしまった。
 二階建ての小屋は小奇麗で近くに小さな沢も流れていて水の確保もできるので快適だ。二階に場所を確保し、食事の後は酒もそこそこに早めに就寝。

 8月14日 晴れ
 昨夜泊った他の登山者が皆出払った後、のんびりと出発する。今日の天気はまずまずで、小松原湿原に点在する池塘に青空が映えて清々しい気分だ。滑る木道に気を使いながら1時間強で林道に出た。ここからが結構長く、ただ黙々と歩くだけでは飽きてしまうので、地図を片手に今ここを曲がった、後どのくらいだなどと気を紛らわせながら歩く。メチャクチャ暑いという程でもない天気だったのが幸いだった。
 入渓地点の取水口へと続く道が現われるとそこから30分程で車を置いてある場所に到着。
 三日間天気に恵まれ、久々に満足のいく溯行を楽しむことができた。

〈コースタイム〉
8月12日 出発(6:50) → 取水口(7:35) → 二俣(8:40) → 幕場(第3ゴルジュ手前)(14:30)
8月13日 出発(7:45) → 第3ゴルジュ終了(8:45) → 奥の二俣(10:30) → 稜線(15:40) → 小松原避難小屋(17:30)
8月14日 出発(7:55) → 林道(9:05) →車(11:00)

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