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鷹ノ巣谷・20世紀最後の沢登り
小堀 憲夫

山行日 2000年11月25日~26日
メンバー (L)小堀、金子(隆)

 ちょっと寒いけれど、今年の沢納めにどうかなっ、と思って計画を出したら、とんでもないことになっていた。なんと、今世紀最後の沢登りだというのだ。こっちは別に大したことはやった覚えはないのに、偉大な記録とはこうして作られるのかと、改めて感慨を覚えた次第だ。(誤解を恐れて断わっておきますが、これは冗談ですよ)
 実を言うと、日毎に寒さを増す晩秋の深まりを観て、できればこの例会をナシにしたいな、と思っていたところ、会長が手を上げた。
「もう、会長ったら、好きなんだから~。冷たそうだけど、終わったら鍋でも食いますか」と、しかたなく出かけることにした。
 土曜の早朝、奥多摩駅に集合。日原行きのバスは本数が少ないから要注意だ。その代わり、土日は臨時便が出たりする。先にバスに乗って待っていると、
「よっ」といつもの調子で金子さんが現れた。今回は避難小屋泊まりで荷物も軽い。
 終点の東日原駅で降り、中日原駅まで10分も歩くと、少し先の河原への降り口に、「鷹ノ巣山方面」の標識が見つかる。そのまま河原まで下って行くと、吊り橋が現れる。巳ノ戸橋だ。これを渡ってから稲村岩尾根に取りつかずにすぐ河原に下りると、右から小さな流れ込みがある。これが鷹ノ巣谷。
「おい小堀~、冷たそうだぜ~。別にオレは登山道行っても良いんだよ~」
「だめ、行くの! 大丈夫、歩いてるうちに暖かくなるからっ」と言いつつも、心はその提案を歓迎していた。でも、ここは男の意地なのだ。
 沢支度を済ませ、ゆっくり朝飯を食べ、長~いタバコを吸い終えて、ようやく歩き始めた。水の中を2歩3歩・・・、
「あれれっ、冷たくないぞ。全然平気じゃん」そう、そういうことならこっちのものだと、いつものペース。ただし滑ってボッチャンだけはさすがに気をつけた。
「今の季節には手頃な沢だね。結構良い渓相じゃん」と、さっきまでの歯切れの悪さはどこへやら。大滝下までコースタイムより大分早く着いてしまった。大滝も一応ザイルを出して簡単に直登した。
 ところが、ところがである。この先に核心部が待っていたのですねー、この沢の場合。行けども行けども果てることのない笹薮。
「まだかよ~」
「話が違うじゃんかー」出るのは愚痴ばかり。甘くみて水を汲んでこなかったので喉も乾いてきた。一応踏跡らしきものはあるが、今一つはっきりしない。所々に赤テープを見つけてはホッとし、また頑張ることの連続。遡行図には、上部で水根山側の左の方に向ったほうが藪を漕ぎやすいとあるが、どの程度の差だろう。予定の2時間に大幅に遅れて3時間かけ、ようやく水根山と鷹ノ巣山の間の稜線に飛び出した時には、向こうの山に夕日が沈むところだった。1本あったビールで乾杯したが、もう寒くて味わう余裕もなかった。急いで沢支度を脱ぎ、鷹ノ巣山頂上経由で避難小屋に駆け下りた。頂上には3人の若者が一人一張りずつテントを張っているところだった。
「へー、最近の若いのはテントも個室じゃないとダメなのかね」と呆れる金子さん。
 小屋は天井の無闇に高いログハウス風の立派な造りだ。小屋の前には広いテン場もある。水場は5分くらい下った所。小堀は何回か寄ったことがあるが、泊まるのは初めてだ。期待して中に入ると、既に4人も先客がいた。しかも、食事も終えて寝る準備をしてる。
「こちとらこれからど宴会やるつもりなのにどーすんだよー」心の叫び。まあ、しかたがないと、二人静かに、しかししっかりチンジャオロースーの良い匂いを小屋中にただよわせ、宴会開始。
「ボソボソ、フフフッ、オオッ、ブフフォッ、クチャクチャ、グビッ」と声がダメなら擬音で勝負だっ! という訳でもないのだが、必然的にそうなった。その内、単独のスキンヘッドのおじさんが加わり、ここじゃ騒げん、と小屋前の広場で焚火を囲み飲み始めた。空には満天の星。ふっと回りの森を見ると、木々の間にも星が・・・。不思議に思って近寄ってみると、鹿の群れと目が合った。彼らの目が反射していたのだった。近くによってもなかなか逃げない。よっぽど物珍しかったか、おこぼれを狙っていたかだ。そうこうする内に、昼間の疲れが出たのか、いつの間にか暖かい焚火の前で目がくっつき始めた。金子さんも船を漕ぎ始めた。で、お開き。寝る前には当然ながら水を念入りにかけて焚火を消した。
 翌朝はゆっくり起き、石尾根を行くスキンヘッドと鷹ノ巣山の頂上で別れ、我々はやけに急な稲村岩尾根を下った。
 『20世紀最後の沢登り』にしてはちょっとショボかったなぁ。まあ、こんなもんか。

鷹ノ巣山避難小屋

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