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日光・半月山から社山
内山 弥生

山行日 2001年6月9日
メンバー (L)飯塚、鈴木(章)、山沢、藤本、(伊藤)、内山

 スタートから、暗雲たちこめる山だった。
 テキは、日光サル軍団。まず茶ノ木平をめざして元気に中禅寺湖の登山口から登りだしたところで、登山道にでん、と、大きなオス猿一匹。道をブロックされて、私たち6人、しばし立ち往生。されば、と、章子さんが交渉に乗り出す。私はザックからそっとストックをはずした。
「眼をあわせちゃ、だめよ」、と、あっこさんは落ち着いたものだ。眼があうと、襲ってくるそうだ。ゆっくり猿に近づくと、斜めにかまえ、やや下を見ながら、腰に両手をあててなにやら言っている。「あんた、どいてよね」というようなことらしい。と、猿がのっそり動き始め、2、3歩近づいてくる。どうしよう。ストックを握り締める。けれどヤツは登山道からはずれて、ゆっくり林の中に入っていった。あっこさん、強い!
 長居は無用、と、また登り始めたら、またすぐに、でん、と登山道に大きな猿。もう一度、交渉にでていったあっこさんによると、今度はメスだったそうだ。こちらは鋭くガンを飛ばし、動く気配もない。「こっちが女ばかりだから、見くびっている」のだそうだ。そのうちに、その後ろにもさらに2、3匹でてきた。どうしよう。
 日光市では全国に先がけて、「サル餌付け禁止条例」を制定している。施行後1年以上たった今も、サルの方は「どうやら条例をまだ理解していない」ようで、あいかわらずいろは坂で車を止めて食べ物をねだり、湖畔で観光客を襲っているという。報道によれば、サルにかまれて病院で手当てを受ける被害も年間3、40件。日光のサルはこの10年で2倍に増え、これには餌付けの影響も大きいそうだ。
 リーダーの陽子さんの判断で、引き返してロープウェイで茶ノ木平まであがることにする。ロープウェイ駅までもどる間も、大きな猿が横に一匹ついてきた。ちょっと足が震えた。

 6月9日、土曜日。日光の天気予報は曇り。夕方から山沿いで、雷雨。10時に中禅寺湖につき、バスをおりた時にはすでに、灰色の雲が低くたれこめていた。ロープウェイの茶パツ、丸顔、の人のよさそうなおにいさんが、「こういうときでも、上にあがると晴天ということもあるんですよ」、と、にこにこ。よし、やった!と思ったら、「でも、きょうはだめでしょうね」、と、また、にこにこ。
 上にはサルはいないけれど、きのうは湖畔のホテルの庭に熊がでて、従業員さんが逃げるときにころんでケガをしたそうだ。熊さんも逃げたそうだけど、人を襲ったら、きっと撃たれてしまうんだろうな。サルにしても、はじめにえさを与えた人間が悪いのだけど、有害駆除の指定区域は来年栃木全県に広げられるという。
 茶ノ木平までロープウェイで5分。10時50分着。陽子さんによれば、「あのまま登っていれば、もう、着いているころだったのに」。木々が霧の中に浮かんで、なかなかいい雰囲気。のぼり下りのあまりない、歩きやすい道を快調に行く。気温も低く、適度な湿気で呼吸もラク。こういう天気も時にはいい。
 きょうの行程は8時間。茶ノ木平までの登りがカットされてもおよそ7時間の、ハイキングとしては少々ロングコース。車道を2度ほど横切るのが興ざめだけれど、それを除けばとてもいい道だ。
 展望が自慢のコースで、霧のために遠くの山並みどころかすぐ眼の前の中禅寺湖さえ見えないのは残念だが、そのかわりに若い緑と、シロヤシオやサラサドウダンなどの花を楽しんだ。新しい花が出てくるたびに、藤本さんはメモをとる。それが英単語カードってところが、最近まで学生さん。若くっていいな。
 シロヤシオの花は満開。下から光を透して、柔らかい緑の中の白い花を見上げるのも、眼の高さの花を間近にみて、つい、食べてみたくなるのも、遠くにほわっと白くかたまって咲く花をながめるのも、いずれも、いと、よろし。コメツガの新芽の黄緑も、また、よろし。ブナの大木も、貫禄でよろし。
 幻想的な霧の中を歩きながら、ホトトギスの声をきいて、「トッキョキョカキョク?」「テッペンカケタカよ」「え、テッペンハゲタカじゃなかったの・・・?」。サラサドウダンを見て、「ドウダンです」(そうなんです。寒い?)なんて、にぎやかに言っているうちにたぬきやま(狸山)、と書いて、むじなやま。ここで小休憩。静寂の山が好きなひと、ごめんなさい。でも、半月山まではだれにも会わなかったので、ま、いいか。
 半月山の山頂に食事中の人が二人。その少し先の展望台にもひとグループ。ここでも、何も見えない。この前後から雨が落ちてきて、雨具を上着だけ、着る。ここからは半月峠、阿世潟峠、と、どんどん高度を下げる。
 阿世潟峠ではオレンジのヤマツツジが、みごと。ここから社山(しゃざん・1826メートル)へは一気に高度差400メートルの登り。ここまでのペースは私がひとりで歩く時の2、3割は早い。登りが続けばすぐについていけなくなることはわかっていたので、後ろにさがって山沢さんの後を歩く。一番後ろに行こうとしたら、「いつのまにかいなくなってるといけない」、とのことで、あっこさんが後ろについてくださった。
 藤本さんも、あっこさんのお友だちの伊藤さんも、身軽に陽子さんについて行く。ふたりとも若いし、強いし、バランスがいいな、あんなふうに登れたらいいな、と、思いながら登る。このあたりは鹿が多いようで、白い毛やふんがあちこちに落ちている。丹沢の大日あたりのように、鹿のにおいがキツイ。急登だが、道は悪くない。山沢さんとの間が開いてきたところで、陽子さんが小休憩をとってくださった。コースタイム1時間20分のところを、この休憩を入れても45分ほどで、頂上。
 頂上でこの日何回かめの食事。山沢さんのザックからでてきた梅ッシュを皆でいただく。陽子さん以外のひとのザックはみな小さいのに、いろいろ出てきて、どらえもんのポケット状態。ここでは山の用語の身振り手振りつき解説、山の歩き方、道具の使い方、着る物の選び方、三峰の方々の得意な分野、など、中身の濃いお話の数々。皆さん、藤本さんの「三峰ジャージデビュー」も、もうすぐですよ!伊藤さんの入会も、間近ですよ!お楽しみに。
 この時期の社山はシャクナゲが見ごろのはずだったが、登っている時に見た木には花はまったくついていない。でも、黒檜岳への縦走路に入ったところに、少し咲き残っていた。ひとりずつ順番に(お花つみをかねて)石楠花を鑑賞しに行く。
 下りは快調に阿世潟峠から中禅寺湖畔に降りる。降りたら雲の中から抜けた。湖畔の道を1時間40分で、出発地点にもどり、バス停ちかくの、その名も「観光食堂」で、湯葉と舞茸天ぷらそばをサカナに、ビールで乾杯!店の名に似合わず、いずれも、とてもおいしい。とくに湯葉の煮物はおすすめ。大満足でバスに乗り、ぐっすり眠って英気を養い(?)、がらがらの電車の中では、また、山の話に花をさかせた。
 リーダーの陽子さんはじめ、参加者の皆様、ありがとうございました。東武日光駅の前で水筒につめてきた「日本一の水」でつくった、シーバスリーガルの水割りなんか飲みながら、この山行報告を書きました。原稿なら、いくらでも書きますから、鈍足に眼をつぶって、また、参加させてくださいね!

〈コースタイム〉
猿と遭遇(10:15頃) → 茶ノ木平(10:50) → 狸山(11:35) → 半月山(12:35) → 社山(14:45) → 中禅寺温泉バス停(17:40)


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