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谷川岳中央カンテ
高橋 俊介

山行日 2001年9月29日~30日
メンバー (L)小幡、四方田、山本(信)、山口、高橋(俊)

 「酒」とは何だろうか?
 見学のつもりでルームに足を運んでみると、
「今、入会するとタダで酒が飲めるよ!」
というまるで「今この商品を買ってくれた方全員にもうひとつプレゼント!」なんていう深夜の通信販売の司会者みたいなことを言ってくる、この金子氏のキャッチセールスにまんまと引っかかり、その夜酒で洗脳されて入会してしまった私にとって、この問題は重大である。かつてこの問題をこれほど深く考えた山行はないだろう。後にこの問題は意外な展開から解決するのだが・・・。
 ともかく、一路谷川岳を目指すべく新宿に集合する。ネオンきらめく新宿の街に車を着けメンバーを見渡すと、私は恐れを感じずにはいられなかった。
 濃い・・・。
なんという濃さだろう。
かつてこれほどの濃いメンバーで行ったことがあるだろうか。そしてまたメンバー全員アナログである。どう考えてもアナログである。誰一人としてデジタル派はいないのである。周りの空気さえ染め始めている。このままじゃ新宿の街も危ないと察知しすぐさま出発。一の倉沢の駐車場に到着しビール一本で仮眠する。
 翌朝、日の出と共に起床し、すぐさま朝食を済ませ出発。一気にテールリッジを登り切り7時半に取り付き点に到着する。先行パーティーの女性2人組がまさに今取り付こうとしているところだった。南稜はすでに人で溢れかえっていたが中央カンテはこの2人だけのようだ。急いで準備し、小幡氏、四方田氏、山口氏と山本(信)氏、高橋(俊)の2パーティーに分け、小幡氏のパーティーが先行で上っていく。相変わらず足をプルップルさせながら「こんなの無理だよっ」なんて言いつつ登って行ってしまう様は下から見ていて実に気持ちがいい。ピッチ数が上がるに連れ、本チャン初体験の私にとってそこから見渡す景色はなんとも言いがたい。また高度感にビビリつつそんなビビっている自分がなんともカワイイ。
 特に困難なところも無く2パーティーとも快調に登っていくが1時を回ってきたあたりから皆に疲れが見え始め、4時近くになるとどう考えてもこれはビバークになりそうだと直感した。5時にはどうにかやっとカンテを抜けることは出来たが、すでに日は傾き始めておりビバーク地を探すことに。かろうじて5人が横になれそうなテラスにセルフビレイをとりつつ横になる。なんとビバーク初体験の小幡氏はなんだか楽しそうである。私はなんだか今回の山行はいやな予感がしたためシュラフまで用意していたら、ゲンさんを抜かして皆持ってきていた。皆準備がいいなぁと思っていたら、な、なんと、誰一人として酒を・・・、酒を持ってきていなかったのである。いままで夜といったら酒におぼれていた。朝まであと12時間。何をすべきだろう。
 とりあえず5人で一杯のココアを飲んでみた。なんとも不思議な光景である。大の大人5人でココア一杯ををキャピキャピ言いながら飲んでいる様はとても見ていられない。一歩間違えば逮捕されてしまいかねない。ところが、あれっ、おいしい・・・。あれあれっ、ココアってこんなにうまかったっけ?なんだかシアワセな気分に包まれてしまったら寝てしまっていた。ちなみに四方田氏は背中に岩が当たるらしく一晩中えびゾリ状態で、少しでも態勢を立て直そうとしてこれまた動く動く!
 翌朝、コーヒーを一杯飲んだらすぐに出発。10時前に稜線に出て下山を開始した。マチガ沢出合に一足早く小幡氏は下りていたのだが、私が小幡氏より10分遅れで到着すると何を血迷ったか小幡氏は筋トレをしていた。一抱えもある岩をぐいぐい上げており、それに飽きると今度は腕立てを開始し始めた。あっけに取られていると、ちょうどそこへ四方田氏も下りてきた。しかし四方田氏は全く動じずタバコをぷかぷかやり始めたではないか!筋トレとタバコにはさまれた私はしばしの間、そこに立ち尽くしていた・・・。
 今回の山行で学んだことは非常に大きい。要するに酒であろうがココアであろうがシアワセに包まれればそれでOKなのである。アリかナシかで言ったらアリなのである。ALL OR NOTHINGなのである。
 しかし、帰りに水上駅前の中華料理屋でビールを頼むと、悟ったことはすべて忘れていた。あー、やっぱりビールだ。酒だ。
 そんな私を車中「山崎まさよし」が慰めてくれ、山口氏と絶叫しながら帰路についた。

以上

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