トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ307号目次

中ノ岐川池ノ沢
金子 隆雄
山行日 2001年7月20日~22日
メンバー (L)金子、飯塚、高木(敦)、野口、小林(と)、斉藤(誠)、高橋(俊)、中沢(佳)、天内

 19日夜に東所沢駅に集合。皆さん忙しいようなので集合時刻を23時30分としたが、それでも出発できたのは0時頃だった。中沢嬢は仕事で遅くなり集合できないとのことなので、俊介君が一緒に車で後から追いかけて来て大和PAで合流することになった。メンバーは全員で9名、特別な山行でもないのにこれ程人が集るとは驚きだ。昨年までの三峰の状況を考えると信じられないくらいだ。

 7月20日 晴れ
 朝、無事に合流して目的地に向かう。雨池橋のたもとに駐車し出発準備をしていると、何処からともなくバアさんが現れて何か言っているが良く解らない。適当に返答しているとそのうち何処かへ行ってしまった。何だったんだろう。
 中ノ岐林道はゲートがあり一般車は入れないので、ここから長い林道歩きが始まる。今日はとても暑い日で、途中の沢で水浴びしながら延々と林道を歩く。車が入れないため釣師達は自転車を利用するようで、あちこちに自転車がデポしてある。
 猛暑にバテバテになりながらも池ノ沢出合い付近に到着したが、中ノ岐川へ降りる場所がないので少し戻り、枝沢に架る橋から枝沢を少し下降して本流へ降り立つ。あまりに暑かったので思いっきり水に浸かろうと思っていたが、水は思いの他冷たくその気は一気に失せた。本流を10分程上流に溯ると池ノ沢の出合いに着く、意外と貧弱な感じだ。出合い付近に良い幕場はないので更に上流へ少し行ってみる。テントが張れそうなくらいに平らな大岩がある場所の右岸にスペースがあったのでテントを設営しベースとする。
 今日の予定はここまでなので夕方までそれぞれ思い思いの時間を過ごす。昼寝をする者、釣りをする人等々。私は少し上流へ釣りに行ってみるが、あまりの暑さのためか魚も姿を見せない。骨酒用に何とか岩魚を一匹だけゲットして戻る。野口さんに釣りはやらないのと聞くと、餌として持ってきたミミズがあまりの暑さに茹で上がってしまって全滅だと言う。とんでもなく暑い一日だった。
 焚火を囲んでの夕食が終った頃雨が降り出したが程なく止んで、また星空となった。今日は早めに就寝。

 7月21日 晴れ 夜に雨
 今日は日帰り装備で池ノ沢を溯行して登山道を降りてここに戻る予定で出発する。本流を少し下降し池ノ沢に入る。倒木滝を幾つか越えると短いながら両岸が立ったゴルジュになり、朝日がゴルジュ内に差し込んで眩しい。4段15m滝を左岸より捲くと水量比2対3で左より枝沢が入る。順調に来れたのはここまでで、この先から苦難の一日が始まる。目の前に現われたのは沢を埋める雪渓、どうやって突破するか思案するが上を通過するのは危険そうだったので右岸を捲くことにする。右岸の泥壁にザイルを伸ばしたが、途中に今にも滑り落ちそうな太い倒木があり冷や冷やする。トラバース後懸垂で降りた所は右から枝沢が入り本流は大きく左へ曲る所だった。
 連続する小滝を越えて行くと水量比1対2の二俣になる。本流の右俣にはスノーブリッジが架かっておりその先は崩れた雪渓が沢を埋めている。スノーブリッジは出口が見えているので一人ずつ駆け抜け、その先の雪塊を乗り越えて行くと曲り滝10mの手前で雪渓はなくなる。曲り滝から先は息つく暇もないくらいの滝の連続となり登れない滝も多くなる。溯行図では省略されていると思える滝がかなり多く予想外だった。
 人数が多くて高捲きに時間をくってしまい、急がないと抜け切らないうちに暗くなってしまいそうだったのでなるべく捲かずにシャワーを浴びながら次々に現われる滝を越えて行く。が、やはり時間切れとなる。このまま行動を続けてとんでもない所で日没を迎えるよりは安全な場所で早めにビバーク態勢に入る方が良いと判断し18時少し前に今日の行動を終了する。もちろん日帰り予定だったのでビバークの備えなどない。流木が沢山あったので盛大な焚火でもして一晩過ごせばいいやと軽く考えていたが、そう甘くはなかった。
 ようやく焚火が燃え上がってきたと思ったら雨が降ってきた。何処にも逃げ込む場所がない我らは、ただうなだれてじっと雨に打たれているしか術がない。雨は20分程で一旦止んでホッとしたのも束の間、更に激しく長い時間降り続いた(と思ったのは気のせいで実際はそれ程長い時間じゃなかったも知れない)。幸いに焚火はショボショボではあるが消えずに燃えている。水音が大きくなってきたような気がして沢の方を見ると随分と増水している。かなり高い場所にいたので影響はなかったが残してきたテントが流されていないか気がかりだった。真夏とは言え寒さは結構厳しく、眠るなど到底できそうもない。

 7月22日 晴れ
 長かった夜が白々と明けてきて今日も暑くなりそうな予感。だが、身体は強ばってすぐには動き出せそうもない。わずかな行動食を口にして6時過ぎにビバーク地を後にする。
 幾つか滝を越えて行くと8mチョックストン滝となる。右壁を登れるようだが簡単な右岸を捲いて越える。倒木帯を過ぎて小滝を幾つか越えると源頭の様相だ。笹の被さる沢を忠実に詰めて行くとほとんど藪こぎなしで湿原に飛び出した。感動のフィナーレだった。感激屋のとみさんは涙を浮かべて嬉しがっている。それも無理はない、地獄から天国に這い上がってきたようなものだから。ここまでかかった時間は2時間半、やはり昨日はあの場所でビバークして正解だった。
 暖かい陽の光が降り注ぐ木道の上で沢装備を解き、しばらくのんびりする。このまま木道の上で一眠りしたい誘惑に駈られるが、下山してテントを撤収し、またあの長い林道を歩かなければならないのでかなわぬ望みだ。1時間程の休憩の後下山を開始する。
 湿原の中を玉子石方面へ進み、途中から分かれる登山道を下降する。道は思ったほど悪くはなかったが、なんせ風がなく暑くて林道に降り着く頃には全身汗まみれだった。
 沢で身体を冷やして林道に上るとなんとバスが3台ほど駐車している。このバスは銀山平の旅館や民宿のものらしく、泊り客をこの登山口まで送迎しているようだ。なんだか複雑な心境。バスを横目に林道をてくてく歩く。幕場に着くとテントは無事だったが、外に出しておいたビリーカン、食器、冷やしておいた酒やビールなどがきれいサッパリ流されてなくなっている。テントに戻ったらラーメンでも作って食おうと話しながら降りてきたのに、ラーメンあるけど鍋がない、なんてこったい。
 撤収後すきっ腹を抱えて、またあの長い林道をてくてくと歩く。来る時ほど暑くないのが幸いだ。午後になると太陽の位置関係で陽が当たらないようだ。ヨレヨレで雨池橋に着いたのが17時。まだ風呂が間に合うかもしれないと急いでユピオに向かったが残念、既に閉館していた。ならば後は飯だ。みんな腹減らしているので小出ICへの途中で腹いっぱい飯食って今回の山行の終りとした。
 今回予定外のビバークとなってしまったが、予定通り帰っていたらどうだっただろう。増水の恐怖でやはり眠れぬ夜を過ごしたのではないだろうか。果たしてどっちが良かったことやら。

〈コースタイム〉
20日 雨池橋(8:00) → 池ノ沢出合(12:00)
21日 池ノ沢出合(6:55) → 二俣(10:00) → B.P(18:00)
22日 B.P(6:25) → 池ノ岳(8:55~10:00) → 幕場(12:30~13:00) → 雨池橋(17:00)
池ノ沢ルート略図

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ307号目次