トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ307号目次

谷川・芝倉沢出合集中山行
その5 馬蹄形縦走隊
内山 弥生

山行日 2001年10月6日~8日
メンバー (L)服部、藤本、伊藤(め)、内山

朝日岳山頂にて

 一本道だ、と、確かにいわれたのだった。土合から集中の芝倉沢まで、新道は一本道だからわかるよ、と。なのに、河原で迷った。真っ暗になっていた。
 山行2日目、夕方。新人ばかり三人、ヘッドランプで地図を見ながら、ここは川を渡っていいのよね、とか、こっちは破線の道だから、右の方、とか、言いつつ、なんとか分かれ道をクリアして、半分ほど来たのだけれど。一ノ倉沢の流れが湯檜曽川とであうあたりだとすると、去年の夏、サッカー少年団が鉄砲水にあったのは、この少し下流だろうか。
 ここで迷うと、まずいね。少しもどってみようか、などと、心細くうろうろしているうちに、うしろからヘッドランプ。車を土合橋の駐車場に入れ、荷物を入れ替えてから来たリーダーに、はやくも追いつかれてしまった。なに、わからなかったの?こっちでいいんだよ、と、大きなザックの救いの神は、平然としたものだ。一本道だ、と、言ったご本人には、この枝道の多いコースが、やっぱり一本道にみえるらしい。ようやく河原から上がる道を見つけたあとは、こんどはほんとの一本道を芝倉沢へと、急いだ。
 集会の例会報告で、藤本さん曰く:「山屋さんのいう一本道とはシティーギャルの理解を超えています」。

 谷川岳・芝倉沢集中尾根コースは、1日目に天神平から谷川岳、一ノ倉岳、茂倉岳、武能岳、蓬峠を越えて清水峠泊、2日目は朝日岳、笠ヶ岳から白毛門をまわって土合に降りるロングコース。通称、馬蹄形縦走。土合から芝倉沢に行くまでに真っ暗になり、集中に2時間も遅れたのは、ひとえに私の超スローペースのせいです。ごめんなさい。ロングコース大好き!なのだけど、とにかく登りも下りも遅いので、皆の足を引っ張り続けてしまった。荷物が重いのだから、時間が長くなればそれだけ大変なはずなのに、間が離れると、写真をとったりしながら、笑顔で待っていてくださった皆さまに感謝。
 初日に清水峠まで行くために、尾根パーティーは前夜、リーダーの服部さんの車で出発。 翌日から単独行のあっこさんもいっしょに、その夜は土合駅で、あこがれのステーションビバーク。照明の明るさも、蛾の多さも無視して、12時ごろシュラフにもぐりこむ。3時ごろどやどやと駅に入ってきたマナーを知らない三人組のにぎやかさにすっかり眼がさめてしまったが、いつのまにか駅構内の反対側に張ってあった別のグループのテントに気がつかなかったところを見ると、いくらか眠ったらしい。あとは5時ごろまで、ウトウト。
 朝になると駅のあちこちからたくさんの人が湧いて来た。ステーションビバークというと昔は学生さんや若者たちが多かったらしいが、夜着く各駅停車がなくなった今は、車でやってくる中高年。みな、いそいそと、楽しそう。遅れて知った、人生の楽しみ。
 ロープウェイで天神平。山肌の紅葉は、娘っこなら、16、7の、ポッと頬を染めたような、という初々しさ、あざやかさ。先週の日光白根の紅葉は、酸性雨のせいか、熟女になる前に枯れてしまったような、存在感の薄い色気だったけれど。
 天神平発が7時。きのうあっこさんが、「1日で清水峠まで?行けるの?」と言っていらしたのが、ちょっと気になる。リーダーは、「3時すぎには、着くでしょ」、と悠然。私の希望的予想は、「5時前」のいくらか明るさがのこるうちには、なんとか。
 登山者はとても多い。熊穴沢の避難小屋までは、ところどころで渋滞。避難小屋をすぎて急な登りが始まると早々に私が遅れだす。風が強くなって、雨具の上着を着る。トマノ耳につくころには、すっかりガスがかかって展望なし。ここまで2時間10分。3年前の夏、ひとりで登ったときより1時間ほど早い。山頂の混雑を避けて、すぐにオキノ耳(1,977メートル)へ。
 ここから一ノ倉岳までの道は緊張の連続。 濡れた丸い岩がすべる。前を行く藤本のぶちゃんと、伊藤めぐちゃんが、「そこの石、すべります!」とか、「この石、根性悪い!」とか、声をかけてくれるので、慎重に行く。「誰かが一生懸命磨いて、すべるようにしてんじゃないの?」という、声も。一ノ倉沢の反対側のきれ落ちた岩場をトラバースするときは、足場があまりに小さいのにあ然。距離は短いけど、これって、足が滑ったら、終わりだよね。でも、ここだって、三峰の皆さんには、なんでもない「道」なんでしょうね。どこが「岩場」なんじゃい!っていわれそう。
 その後ももう一ヶ所、岩場を降りるところでひと苦労。新人三人とも足場とすべきところにどうしても足がかからず、先行したリーダーに靴をおさえてもらってやっと降りた。 手取り足取り指導する、って言葉はあるけれど、実際に足を取ってもらったわけで、申しわけなかったです。
 一ノ倉岳の避難小屋の陰で、風を避けて昼食。その先は茂倉岳、武能岳への快適な縦走路、のはずだったのだが、雨も落ちて来て、視界なし。刈り払いされた笹の葉の下に隠れた石がすべるので、下りは気が抜けない。
 荷物が大きいので、すれ違う人たちに、「テント泊ですか?」とか、「20キロ以上あるでしょ_」とか、声をかけられる。(ホントは、14キロくらい。)一度は「大学生ですか?」と聞かれて、ニンマリ。根が正直なので、実年齢(48です)を言ってしまってから、あ、そうか、私のことじゃなくて、のぶちゃんとめぐちゃん見て、そう聞いてるんだ、って気がつく。それでも、あとでみんなと喜んだ。
 時々ガスが切れると、あざやかな紅葉が広がる。遠くの沢で黄色の雨具の人が動いているのが見えた。三峰の沢パーティーは、今ごろどこかな。蓬ヒュッテの向うの大源太山、見たかったな。
 蓬峠を2時すぎに通過。ここからが、長かった。七ツ小屋山までの緩やかな登りが、結構つらい。清水峠着は4時25分。避難小屋はもう満員。遅かったからですよね。ごめんなさい。近くのJR送電線監視小屋の前にテントを張る。 このテントは三人がやっとなので、リーダーは小屋の軒下にツェルトを張って寝た。(Knightですね!)
 水場は土合側に200メートルほど行ったところの小さな沢。夕食はのぶちゃんの焼きビーフンと卵スープ。40リットルのザックなのに、野菜もたっぷり、お菓子もいっぱい、ハンバーグや生卵や、オイスターソースまで入れてきちゃう実力派。おいしかった。ごちそうさま。あしたの夕食は、私の担当。またまた、うーんと軽量化しちゃったので、期待しないでね。夕食後のデザートは、リーダーの杏仁ドウフ。山の冷気を利用する、頭脳派。テントの外に出しておけば、天然冷蔵庫で冷えて固まるのだ。フライシートをあげてお鍋を外にだすと、ひんやりした闇に、満天の星空。遠くに天神平の光。1本のカンチュウハイで乾杯して、夜もふける。
 9時前に就寝。意外に暖かくてよく眠った。真夜中にテントの横を、ラジオの音とともに誰かが軽やかに通り過ぎて行く。カモシカ山行の人かな。妖怪大好きリーダーがいるからって、アンビリーバボーのお化けじゃ、ないよね。足音したもの。したっけ? ん?

 翌日は5時に起床。まずはシュラフと格闘。とにかく三人ともまだシュラフをうまくしまえないのだ。 全体重をかけて袋に押し込む。朝食、テント撤収、パッキング、それから避難小屋のトイレへ。それからもう一度水場へ。などなどなど。出発は7時になってしまった。うーん、まず、このスピードアップが必要ですね。朝、蓬峠を出てきた人に、ここでもう、追い越される。
 夜の星空にもかかわらず、朝からガスで視界はない。昨日の夜の段階では、天気が悪かったら清水峠から直接芝倉沢へ下りようか、という、話もでていたのだが、結局予定通りに縦走を続けることになった。(1日目から一番足を引っ張っていた私が、一番縦走を続けたがって、それでやっぱり遅れてしまって、反省してます。)
 まず、ジャンクションピークへの登りが、長い。遅れても、絶対たちどまらないで、歩く。のぶちゃんも、めぐちゃんも、リーダーのあとを、スタスタ登って行く。めぐちゃんは、今年、山を歩きはじめたばかりなのに、足取りは確か。わたしは、ヨイショ、ヨッコラショ。この差は、トシの差と、体重差だけじゃ、ないんだよね。ちと、悲しいゾ。こちらは4年間、ほとんど毎週山を歩いているのにね。歩きはじめたころは、箱根の外輪山を外側から登れないくらいだったのだから、しかたないか。今はゆっくりなら、12時間でも、歩けるけど。なんて、ぐずぐず思いながら、一歩、一歩、登る。
 ようやくにしてジャンクションピークをすぎると、朝日ヶ原の木道。草紅葉に池塘がひろがる。すぐに朝日岳。いいところだなあ、うれしいなあ、と、山にいる幸せにひたる。
 はやくもお腹がすいて、パンをかじった。おいしい! 顔が汗でしょっぱい。このころからときどきガスが晴れる。紅葉がとても、とても、みごと。緑と草紅葉の黄色の中に、鮮やかな赤。うれしいな、ずっとこうしていたいなあ、と、思いながら、笠ヶ岳に続く小さなアップダウンを歩く。白毛門へ向かって下るあたりから、ますます多くの登山者に追い抜かれる。この分だと、どうも集中の4時に間に合いそうもない。白毛門ですでに1時。
 白毛門からは、聞きしにまさるきつい下り。ジジ岩、ババ岩の紅葉をめでる余裕も無し。鎖場もいくつかでてきて、さらにスローダウン。後から降りてくる人も、ほとんどいなくなった。途中で、集中に送れることを連絡しようとしたが、他パーティーはもう、沢に入っているらしく、携帯電話は誰にもつながらない。とうとうリーダーに、下に降りたら元気な若い二人に先行してもらって、トシの二人はあとからゆっくり行こう、と言われて、とっても落ち込む。(バテているわけではないので、平地ならスピードアップしてもだいじょうぶなんですけど。これだけ下りで遅いと、信じてもらえないかな。でも、そういえば、うちのコンピュータで「馬蹄形」縦走って打とうとしたら、最初、「バテ行け(い)」、ってでたもんなぁ)なんて、思いつつ、でも、ここであせってスリップして怪我でもしたら、もっと迷惑だから、とやっぱり慎重に行く。
 下りきって土合橋で4時。装備の入れ替え(テントを5人用に)に車によったついでに、駅のトイレに立ち寄る。(すみません、新人三人、まだ明るいうちは、外キジができないので。はい、そのうちには。)車においておいたビールやお酒、駅で買ったジュースのたぐいを、元気なのぶちゃんとめぐちゃんが持ち、リーダーが車をおきに行っている間に三人で先行する。このときはまだ幾分明るかったのだが、迷っている間にヘッドランプが必要に。降りてきた人たちに、「これからいったい、どこに行くの?」と不審がられる。
 河原から上がったあとは、芝倉沢まで、どんどん歩く。出合の近くまできたら、楽しそうな声がきこえてきた。リーダーがMOTO!コールをかけたら、モートー!がたくさん返ってきた。うれしかった。
 心配しているだろうな、おこられるかな、と思っていたけれど、「よく来たね!」「もう、下でテント張ってるかと思ったよ」「よく歩いたね!」と握手で迎えていただいて、うれしかった。なんだ、みんな、元気じゃん、でも、テント張ってあげるから、はやく食事しな、と、さささっと、手際よくテントを張り、ついでにうどんや炊き込みごはんや、現地調達のブナハリダケのソテーなどを差し入れてくださった。あったかくて、しみじみ、おいしかった。のぶちゃんが、翌日腕が筋肉痛になってしまうくらい重かった、というビールやお酒も、同じくらいみんなに歓迎された。
 翌朝、同じ道を土合まで、皆でキノコを探しながら行く。マイタケを収穫した小堀氏の後ろを歩いていたのぶちゃん談:「道が分かれているところにくると、首をのばして、ささっと周りを見回して、それですぐに行く方がわかるみたいなの。あれを見ていたら、やっぱりこの道は一本道なのかもしれない、って思い始めちゃった・・・」。のぶちゃん、シティーギャル卒業、近いんじゃない?

〈コースタイム〉
6日 ロープウェイ→天神平(7:00) → 谷川岳避難小屋通過(9:00) → 谷川岳オキの耳(9:30) → 一ノ倉岳(10:50~11:10) → 茂倉岳(11:30~40) → 武能岳(13:30~40) → 七ツ小屋山(15:25~35) → 清水峠(16:25)
7日 清水峠(7:00) → 朝日岳(9:50~10:05) → 笠ヶ岳(11:30~45) → 白毛門(12:45~13:00) → 土合橋駐車場(16:00) → 土合駅 → 土合橋(16:40) → 芝倉沢(18:10)

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ307号目次