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八幡平山スキー 茶臼岳、大黒森~前森山
箭内 忠義

山行日 2002年1月12日~14日
メンバー (L)佐藤(明)、高木(敦)、四方田、箭内、山沢

11日(金) 日暮里(10:30) → 東北道・菅生SA(3:00)
12日(土) 菅生 → 松尾八幡平IC → 八幡平スキー場
13日(日) 八幡平スキー場 → 茶臼岳 → 八幡平スキー場 → 松川温泉
14日(月) 松川温泉 → 八幡平スキー場 → 大黒森 → 屋棟岳 → 西森山 → 安比高原スキー場

 11日(金)「箭内さん、家まで迎えに行ってあげますよ」と明さんが言ってくれた。有り難い、荷物を適当に準備して、ビールでも飲みながら待っていればいいのだと、至極のんびり、ゆったりした気持ちになった。出発の時はいつもこのような気分でなくてはいけません。荷物だ荷物だ、あれだこれだ、これだあれだとセカセカ、セカセカと焦って準備をし、よっこらせとリックを担ぎ、スキーをぶら下げて集合場所まで行ったが、何と靴を忘れてしまったなどということがよくある。出発前に焦ってしまうからである。それに比べ、今回は焦らない。ゆったりした気分である。忘れ物などあり得ない。(と思う)
 四方田さんが明さんの家まで自分の車で行ったので、明さんの家から私の家まで2人できてくれた。どこかの社長になったようなVIPな気分になれ、なかなかよろしい。おっほん。
 日暮里で高木さんを乗せ、4人でいざ出発である。山沢さんは1人、先に八幡平に行っているということだ。八戸の山岳会と一緒に行動しているらしい。
 東北道をひたすら走り、菅生SAでテントを張った。例によって宴会である。もちろん明さんがおでんという暖かいおつまみを用意してくれていた。

 12日(土)7時頃には出発したのだろうか。記録を取っていないので正確な時刻が分からない。朝食はサービスエリアでとろうという。吉野屋の牛丼が店を出しているSAがあるので、そこに行こうということになった。どこのSAだか忘れたが、ありましたありました吉野屋の牛丼が。派手な橙色の看板なのですぐに分かった。ドアを開けて入っていくと吉野屋とその他にそば・うどん・カレーなどを扱っているコーナーがあるのだが、なぜか吉野屋の牛丼の店にばかり人が集まっていた。この牛丼280円というのが客の心理をとらえているのかもしれない。養老乃瀧、松屋、吉野屋等の牛丼戦争が展開されていく中、吉野屋の社長は価格破壊をさらに進め、290円限界という意見が多数占める中、敢えて10円安い280円を断行したという。この10円に企業の生き残り戦略が込められているらしい。
 4人はそれぞれ朝食セットや牛丼を選択して食べた。安いが、味は良し、ご飯の量も適当、牛の味付け及び量も程良い感じでよし。紅生姜もすきなだけ食べられ、熱々のお茶のサービスもあった。
 アジアの食文化の基本的なありようを大雑把にいうと、中国は炒め、東アジアは蒸す、朝鮮半島はかき混ぜる、日本はのせる、というように大別されるということを聞いたことがあるが、日本の丼戦争はまだまだ続いていくのであろう。
 さて、車は東北道をぐんぐんと北上していった。西側に岩手山が見えてきた。雪がついている。心が弾む思いである。松尾八幡平ICで東北道を降りて一般道を走っていった。目的地である八幡平スキー場に着いたのは12時頃であった。
 今日はこのスキー場で足慣らしである。八幡平スキー場にはリフトは3つしかない。一番下の第一リフトは今時何とひとり乗りである。第二、第三は二人乗り。第三リフトを降りるとそこが1446メートルの大黒森である。
 八幡平スキー場の良いところはコースをはずれて滑っても文句を言われないところだ。高木嬢は、新雪の木々の間を雪を舞い上げながら華麗に滑っていく。美しい。
「私より華麗に滑ったら一緒にお風呂に入ってあげる。」
 と言われたので、我ら男性3人も果敢に挑戦するが、高木嬢のようには全然滑れない。第一、木々の間を曲がることを考えるとスピードが出せない。新雪を滑るのは気分がよいがなぜか突然ドテッと倒れてしまう。頼みの明氏は、新しく購入したカービングのテレマークということでいまいち持てる力を出し切れていない。
 しかし、広さはないが、山屋にとっては十分楽しめるかなりよいスキー場であった。たっぷり楽しみ、満足してスキー場を後にした。
 今夜の宿は大きなログハウスだ。それも温泉付きである。そのログハウスは八幡平温泉郷の中にあった。山沢さんが一緒に参加している八戸の山岳会の関係で泊まることが出来たところである。宿に行くと山沢さんたちはもう着いていて、生ビールなど飲んでいた。嬉しいことに着いたらすぐに生ビールをごちそうになった。そして温泉にゆっくり浸かることが出来た。大満足である。その宿には結局、30人ぐらいが泊まったのではないだろうか。宴会、自己紹介、歌などが夜を徹して続いていった。東北の山の人たちは白神等にやたらに詳しくなかなかいける人たちであった。知り合えてとても良かったなあとしみじみ感じた夜であった。

 13日 今日が本番、茶臼岳だ。山沢さんは、東北の山岳会の人たちと松川温泉からとりつく源太ヶ岳に行くことになった。(同じこの日か次の日この源太ヶ岳で山スキーの人が遭難、亡くなったとニュースで流れていた。)山沢さんとは松川温泉の宿で落ち合うことにし、我ら4人は茶臼岳に向かった。
 茶臼岳には、昨日滑った八幡平スキー場から行くことになる。
 第三リフトを降りるとそこはもう標高1446メートルの大黒森だ。平らになった大黒森のモンスター帯を少し進んでいくと茶臼岳に向かう標識があった。西に向かうことになる。標識をたどり進んでいくとこのコースは茶臼岳までオオシラビソの立派な切り開きが続いていることが分かった。恵比須森のあたりから振り返るとオオシラビソの間に切り開かれた立派な道が出来ているのが分かる。それが茶臼岳まで続いているようだった。恵比須森からは南西の方角に進むことになる。シールはよく効いている。四方田、高木、明、箭内、皆快調だ。しかし、肝心の天気があまりよろしくない。完全に視界が遮られることはないが、雲がかかり、風はビュービューと吹き付けてきている。宮沢賢治の「雪の又三郎」のような世界だ。同じように茶臼岳に向かう人たちが3、4パーティーいた。それもあり、ラッセルという状況にはならなかった。というより、なだらかなアップアンドダウンなので楽に歩いていけるのだ。問題なのは雪混じりの強い風だ。体力もない、根性もさほど無い4人組だが何とかしのいでいった。
 程なく茶臼山荘に着いた。小屋の扉を開けると中には2、3パーティーが休んでいた。昼にはまだ時間があったが、次に滑ることを考え腹ごしらえをしておいた。
 さて、ここからは切り開かれたコースは無く、茶臼岳まで急登となる。岩っぽい斜面をガシガシと登っていくとあっという間に頂上に着いた。普通なら頂上に着いたらまずビールで乾杯となるところであるが、今回はそうはならないのである。何しろ風が強い。おまけにサブイのだ。周りの景色もさほどよく見えない。早々にシールを外し滑り降りることにした。
 茶臼岳1578メートルの頂上直下はかなり急である。しかし、我ら4人にとってはその程度のことは屁でもない。やはりゲレンデではない山の斜面を滑るのは気分がよい。右に左に華麗にシュプュールを残しながら滑っていった。四方田さんも黙々と滑っていく。
 しばらく滑り降りると平らなところに出た。予定では、1448メートルの前山からその東の尾根を滑り降りることになっていたが、先行パーティーがその平らな地点から東側の沢に向かって気持ちよさそうに滑り降りていった。明氏は、うむ?と思ったようであるが下までは行けそうなので、同じルートを滑り降りることにした。気持ちよく滑り降りていったが、途中で沢の両側から斜面が迫ってくるV字がたの滝に出てしまった。沢に沿っては滑れない。V字の斜面を滑ることになるのだが、すこぶる急である。かなりエッジを効かせないとそのまま下にずり落ちてしまいそうな斜面である。転倒したら途中で止まることなくひたすら奈落の底まで落ちていくことになるであろう。気合いを入れてスピードをつけて滑り抜けることにした。4人ともいざ滑ってみると簡単に通過できた。沢沿いの右岸の気持ちよい斜面を滑り降り、最後に恵比須沢に出る所の崖をやりすごし、八幡平のスキー場の車の置いてある駐車場まで滑り降りてきた。お疲れさまでした。
 今夜の宿の松川温泉に向かった。松川温泉は東北らしい温泉である。ちょっと白濁、硫黄泉。露天風呂にいったらアベックが入っていた。じゃまをして追い出す形になり悪いことをした。宿なので食事も出る。自分たちで作らなくてもいい。屋根もあって暖かい布団もある。最高に贅沢な山スキーである。東北の山スキーは、温泉宿に限る。山沢さんとも合流。

 14日 最終日である。遠いので、今日は何もせず東京に帰る予定であった。ところが、今までのぐずついていた天気が嘘のように、今日は晴れ渡っている。青空だ。目がチカチカするほど太陽がまぶしい。こうなったら時間など気にせず登り、滑るしかない。いざとなったら明氏が皆さんのお家まで送りましょうとまで言う。決行だ。
 八幡平スキー場から屋棟岳を通り西森山から安比高原スキー場に抜けるコースだ。パトロール隊の方が安比までのコースの標識の所まで案内してくれた。本当に天気がよい。山スキーにとってお天気は最高の贈り物だ。先頭を歩いていると野ウサギを何匹も見ることが出来た。ウサギの姿は嬉しさを倍加させてくれる。明氏の指示で西森山を登らずにトラバースして進んでいった。そしたら全くどんぴしゃりと安比高原スキー場の西森山と前森山の鞍部に出た。念願だった安比のスキー場を滑り、そこからタクシーで八幡平まで戻った。まさに充実した一日、そして3日間であった。1月でもたっぷり山スキーが楽しめることが分かった。明さん有難うございました。高木、四方田さんお世話になりました。


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