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錦秋の妙義・星穴新道を行く
土肥 雅美

山行日 2001年11月17日~18日
メンバー (L)紺野、小林(と)、佐藤(明)、小堀、金子、土肥

 妙義山は何て不思議な風貌をしているのだろう。かつて、上信越自動車道を運転していて、左手に見えるその奇怪な姿に気をとられ、ハンドルをとられそうになったこともいちどならずの私です。
 今回は、妙義山塊の中でも、「失われた道」星穴新道を行くコース。私にはムリそうな気がして、小林とみさんに電話して相談すると、ダンナさまが出てきて、今行かなければ一生行けないよ・・・、との一言。で、行くことにした。一期一会だもんね。
 16日金曜日の夜、水道橋駅前に集合、佐藤明さんの車で行く。国民宿舎「裏妙義」手前の広場に駐車して、幕営。湯豆腐、明さん手製のコンニャク、とみさんのポテトサラダ、ビールにワインに日本酒にその他諸々で、気がつくとやっぱり今日も3時・・・。
 翌17日は、6時起床、7時過ぎに出発。遭難碑のある星穴沢橋から沢沿いの道を行く。踏跡がしっかりついており、赤テープも過剰気味。尾根に出ると、裏妙義が紅葉真っ盛りで感激。これだけでも来て良かったなぁ。落ち葉を踏んで、ガサゴソ進む。
 さて、P1岩峰の基部。ここは右側を巻く。まず、鎖を使ってトラバース気味に斜上するが、錆びていて怖い。足下は垂直に落ちている。灌木があって下まで見通せない分、救われる。一ヶ所ロープで確保、その後ぼろぼろの切れた鎖を利用して登る。
 薮と岩の尾根を進むと、いよいよ核心部のP2岩峰の基部です。スリバチ状のルンゼを渡って対岸の支尾根に行かなければならないらしい。ワーッ、どうするんだろう? しかし、私以外のメンバーは戦歴豊かな錚々たる顔ぶれである。こんな死にそうな所でも大船に乗った気分だ。紺野さんがロープをつけてぼろぼろの、底の見えないルンゼをリードしてトラバースする。かつては繋がっていたはずの鎖が朽ち果て、切れている。最初はその鎖のアンカーボルトでランニングビレイをとっていたが、途中、灌木も何もビレイポイントが見つからず、紺野さん、後続のために何とか探そうとしている。果敢ですねぇ。足を滑らせてもニコニコしている姿に、
「キャー、紺野さんかっこいい!」とみさんの嬌声がとぶ。
 そして金子会長の重い一言、「まだ、しゃべってるからだいじょうぶだろ。」(・・・そうか、紺野さん、しゃべっているうちは余裕なんだ。)
 続いて、他のメンバーがフィックスロープで次々と横断。でも、私はこわかった! 足場は、草付き・泥付きのあるかなしか程度のバンド。紺野さんがそばまで下りて来てくれ、励ましてくれて何とか通過。全員通過するのに1時間半かかった。
 身軽な小林とみさん(女忍者のようである)を先頭にさらに進み、急登の斜面を這い上がるとP3のシルクハット状岩峰基部のテラス。ここで、ほっと一息。ここからは西~北~東側の展望がすばらしい。浅間山から浅間隠山、その右に大きな根張りの榛名山とさらに赤城山まで見渡せる。妙義と併せて上毛三山だ!そして前景には、色づいた裏妙義全山と相馬岳北稜がギザギザの岩峰をそばだたせている。
 ここから懸垂下降し、P3基部を鎖伝いにトラバースする。この鎖ももちろんぼろぼろ。岩角に当たっている鎖の輪の今にも切れそうなこと! 今宵の、皆の宴席のために、自らの危険も顧みず(?)に、すごく重そうなザックを背負って合計100キロぐらいありそうな小堀さんが持ち堪えたんだから、と私も意を決して行く。でも、こわいわぁ! ほんとに。
 稜線上の踏跡を辿り、1時少し前に星穴のコルに到着。ここから懸垂下降して星穴観光ツアーに出かける。この下降は途中から宙ぶらりんになるらしく、空中懸垂をやったことがない私は、思わず「空中懸垂ってどうやるんですか?」と聞いてしまった。そしたら、また金子会長の重い一言、「同じだよ。」(・・・ふーん、同じなのか。)やってみたら、同じでした。ほっとする。星穴を背景に全員で記念写真を撮る。その後、コルまで戻るのが結構大変で、ボロボロの壁を登るのに苦労した。私は、紺野さんにほとんど引っ張り上げてもらう。ホントにご苦労様です。ごめんなさい。ダイエットしてるつもりだったけど。狭い星穴岳のピークを踏んでコルに戻り、相変わらず続く薮の岩壁を絡んで3時前に岩小屋着。ここに泊まる。
これが星穴だぁ  外傾したテラスは落ち着かない。ロープを4本も持参していたので、テラス末端に2本固定、さらに2本をビレイ用に垂らし、焚き火をして楽しい宴会となる。岩小屋の上のハング部分から時々大きな落石があって、その後アタマ数を数えたらちゃんと6つあったので(落ちたのはやっぱり石だったのね!)安心してまた飲んだ。
 皆のザックからいろいろ出てくる。夕飯メニューのカレーのほかに、ワインにビールに缶チューハイ、日本酒にブランデー、鰯の丸干しに焼餅、ソーセージにチーズに・・・ホントにみんなエライ!
 下界では考えられないような不思議な時間がゆらゆらと流れて行く。ようやく飲み尽くしたので、岩小屋に4人、外に2人寝る。(テントを張れるような平らな場所はない。)岩小屋の中は暖かかったが、気を抜くとズルズル落ちそう。その割には、私は良く寝たらしい?
 翌18日は、6時起床、7時過ぎに出発。その直前に佐藤明さんのテントを谷底に落としてしまうというトラブル発生。テラス左側の尾根のコルまで下り、そこから小堀・佐藤氏両名が懸垂で50mほど下り、テントの回収に成功! 回収に行くということ自体、私には信じられなかった。三峰ってすごい会なのだ、ここでまた納得してしまった。
 その後も危なっかしい下降と鎖の連続。だが、全行程を通して赤テープが随所にあり、また西岳に向かうルート上にはトラロープがフィックスしてある所もあって、ルートファインディングの楽しさが半減と、とみさんをはじめ皆さんは思っているようだった。(実は、今回の山行は、星穴新道に対するとみさんの深い思い入れもあってのこと・・・。リーダーの紺野さんは、「とみさんの傀儡政権だ」と笑って言っていました。)
 西岳~中ノ岳~東岳と縦走し、「鷹戻し」の恐ろしく長い垂直の鎖の下りを経て、女坂分岐に着く。中ノ岳から後は一般道で整備されており、打って変わって鎖が新品のピカピカだ。星穴新道では他のパーティには全く会わなかったが、ここまで来ると登山者がいっぱいだ。女坂を下る途中、星穴岳の全景が望める。昨日行った星穴と、隣にもうひとつ穴があり、ほんとに鬼の両眼のようにも見え、その右側には鬼の棍棒のようなP3が天空を指している。よかったなぁ!
 星穴沢橋に無事戻り、国民宿舎で入浴後、帰路につく。松井田妙義I.C.そばの蕎麦屋さんに寄り、関越道を経て鶴ヶ島駅前で解散した。
 この山行は、私にとって忘れられないものになりそうです。薮・岩山ってホントに楽しいですね。皆さん、ありがとうございました。(それにしても、ビレイをとって飲むオジサン、オバサンたちっていったい何なのでしょうか?)
 なお、この記録を書くにあたり、佐藤明さんのコースタイムその他のメモを使わせていただきました。ありがとうございました。

西岳にて
〈コースタイム〉
11月17日 出発(7:10) → 星穴沢橋(7:30~7:40) → P1基部(8:50~9:10) → P1上部(9:18) → P2岩峰ルンゼ取付地点(9:48) → トラバース終了(11:20) → P3岩峰基部(11:50) → 星穴のコル(12:55) → 星穴(13:15) → 星穴のコル(14:20) → 岩小屋(泊)(14:50)
11月18日 出発(7:00) → コル(テント回収)(8:00~8:45) → ジャンダルム下部(9:20) → 西岳(9:50~10:05) → 中ノ岳(10:35) → 東岳(11:00) → 女坂分岐(12:40) → 星穴橋(13:40) → 駐車地点(14:05) → 鶴ヶ島(19:00)

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