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高川山と秋山の二十六夜山
服部 寛之

山行日 2002年1月13日(日) 曇り時々晴れ
メンバー (L)服部、紺野、藤本、伊藤(め)、[野口(啓)]

 本来ならば13日~14日で「信州峠から飯盛山」の縦走と「二十六夜山」のハイキングの二つに行くつもりだったが、正月合宿で少々痛めてしまった私の足の調子が戻らないので、参加を希望していた人には申し訳ないが、日帰りで二十六夜山にだけ行くことにした。しかし、それではあまりに軽過ぎるので、おまけとして初狩の高川山も付けた次第である。メンバーには年末年始のルームにみえた野口氏もお試し山行で加わった。
 高川山は初狩駅から1時間半もあれば登れてしまう至極簡短な好展望の山だ。クルマを運転する人なら、中央道大月JCTから河口湖方面に向かい花咲トンネルを抜けてすぐくぐるリニア実験線が右手方向にトンネルを貫いている山だと言った方がわかり易いかも知れない。その頂上からの好展望ぶりはすばらしい。富士山を筆頭に、三ツ峠、本社ヶ丸などの御坂の山々、御正体、今倉などの道志の山々、中央道を挟んで向かい合う九鬼山の背後には秋山の山々、その左におなじみの扇山や百蔵山や岩殿山、さらに左の北側には雁ガ腹摺山や黒岳、ハマイバ丸、滝子山といった小金沢連嶺南側の山々、そして西側初狩の町並みの向こうには笹子雁ガ腹摺山や遠く鳳凰や間ノ岳まで見えるといった具合である。僅か976メートルのピークにすぎないが、実に絶妙な位置に立っているのだ。昔、明氏に連れられて初めて登ったときの驚きの印象が今でもあざやかに残っており、初心者でも手軽に展望を楽しめる山なので、ウォーミングアップを兼ねて今回のメンバーを案内したというわけである。朝7時半にJR八王子駅に集合し、クルマで1時間ほどで登山口に着いたが、驚いたことに初狩の駅から高川山へ向かう細い道には、ハイカーの列がぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろ続いていた。それも中高年の高の部の人々ばかり。いやはや、いくら中高年のハイキング・ブームとはいえ、こうも示し合わせたように一山に集中することはないんじゃないの!と思ったが、しかし考えてみればうちらも自覚は薄いが中高年に分類される身の上であり、しかもクルマで登山口まで乗り入れる横着ぶりなのであった。たはっ。
 頂上までは1時間ほどで着いたが、狭いピークは周りの樹木が刈り払われたのか、以前よりいくらか広くなったような印象だった。幸い展望がきいて周囲の山々がよく眺められたが、後からつぎつぎに押し寄せてくる人波を思うとそうゆっくりする気にもなれず、これから行く秋山の二十六夜山を確認し、富士をバックに記念写真を撮って15分ほどで辞去した。  次に秋山の二十六夜山へ向かう。「秋山の」というのは、同名の山が道志にもあるからだ(どちらも高川山から見ることができる)。大月で国道20号から139号に右折し5キロ先で県道35号へ左折すると交通量はぐっと減り、間もなく前後の視界から車影が消えた。山間の快適な舗装路をしばらく迅ばすこと12、3キロで登山口のある浜沢集落に到着。取り付きへ続く林道の入口脇にクルマを置き、出発。日陰の中の道のぬかるみはかちかちに凍っていた。急斜面に建つ数軒の別荘を過ぎると、コンクリの舗装が切れて急登の山道となった。荒い息で落ち葉を踏みしめながら、今でもここの集落の人達は「月待ち」などという風流を楽しんでいるのだろうかと思う。二十六夜山の名はその月待ち信仰に由来するが、ガイドブックには、ここ秋山では旧暦の1月と7月の26日に山で月の出を待った、とある。山好きには興味そそられる風習である。もし今でも行われているなら、どんなものだか一寸覗いてみたいものだ。道は途中で赤鞍岳への分岐を見送り、細い尾根を通って1時間ほどで上部の広い尾根道に出た。さらに行くと小さな道標があり右へピークへの道を分けていた。直進すればまっすぐ尾崎の集落へ下りる道である。2万5千図「大室山」に描かれた浜沢からの破線は尾根が違っており、この登路は実際にはその西側の777メートルから946メートルの記載のある尾根を通っている。
 山頂(971.1メートル)の標柱は静かな冬枯れの木立の中に立っていた。その先の地面に銀マットを広げ、おでんと酒で小宴を張る。時折日差しが射しこむと、まばらな木立を透かして谷向こうの山並が黄金色の輝きを増す。頭上の狭い空を雲がゆっくり横切って行く。透明な冷えた大気の底に、立ち昇るおでんの湯気と、遠くかすかに冬鳥のさえずり。コッヘルに揺れる酒の光と、バーナーの音。ツンとくる和がらしの刺激。仲間のあれこれや、仕事のグチ、山の話。笑い声と、そして最後に鍋に残った遠慮のかたまりに箸が伸びる。山の静かさをひとり占めした幸せな山頂の小宴は1時間半ほど続いた。
 下山は尾崎へ下りた。こちらの方が浜沢側の道よりゆるやかで歩き易く、コンディションも良かった。(2万5千図にはないが、ガイドブックには山頂から西の雛鶴峠へも尾根道が続いているとある。)山頂から僅か下ったところには平地があり、その片隅に置かれた古い小さな二十六夜碑が、かつてそこで行われたであろう月待ちの雰囲気を伝えていて印象的だった。素朴だが自然への畏敬を秘めた和やかな夜の宴を想像するのは、都会人のロマンに過ぎぬか?
 尾崎からは県道をたらたら歩いて浜沢に置いたクルマまで戻った。そして上野原に出、中央道で八王子駅に戻って解散した。皆さん、お疲れさまでした。

高川山にて

〈コースタイム〉
浜沢・登山口林道入口(11:35) → 二十六夜山(12:55~14:30) → 尾崎集落の林道(15:05) → 浜沢・登山口林道入口(15:40)


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