トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ308号目次

墜落荷重体験@鷹取山
服部 寛之

山行日 2001年11月11日
メンバー (L)服部、(講師)山本(信)、小山、斉藤(誠)、天内

 「墜落荷重」という言葉があるかどうかわかりませんが、ここでは岩登りにおいて行動者が墜落したときに確保者が受ける衝撃という意味で使っています。最近三峰では岩登りをやる人が増えてきたので、実際に人が落ちればどの程度の衝撃を確保者は受けるものなのか岩を登る人間は身をもって知っておいた方が良いとの判断から、山本のゲンさんが委員会の席で提案して例会に組みました。例会山行計画表に記すにあたっては「墜落衝撃体験」としようかと思いましたが、そうすると「試しに墜落してみましょう」と受け取られて敬遠されかねないので「墜落荷重体験」としたわけです。しかしそれでも参加者は3人!というさみしさは、問題はネーミングではなかったということなのでしょう。いったい岩登り愛好者の間ではこういう練習は不必要であると思われているのでしょうか? 私は岩登りの世界には疎いのでよくわかりませんが、実際皆がどう考えているのか、疑問に思いました。それとも、実際に墜落してみる講習にした方が希望者は多いのでしょうか? 何メートルか墜落してみて、骨折に至らなくとも打撲、裂傷などを経験しておけば、本当に落ちたときの心の動揺も幾分小さく抑えられるでしょうし、確保技術もおのずと向上して行くのでしょうが・・・。ゲンさんも自らのそういう体験から後進のためにこの講習を発案したのだと思います。
 「墜落荷重体験」を行なった場所は、鷹取山公園の公衆トイレがある正面入口から入って右手奥の、上部に展望台のある15メートルの垂直の壁です。壁沿いには、公園を訪れる市民の安全確保のためでしょうか、3~4メートル離れて1.3メートル程の高さの鉄柵が一面に設けられています。この壁の基部にそれ用の重りが大小2つ置いてあります。大は30kg超はありそうな重さで、小はその半分くらいの重さです。どちらも鉄枠にコンクリートを詰めて固めたものです。今回はその大の方を使わせてもらいました。壁の前は平坦な大きな広場になっていて、眼下には家並の向こうに追浜の日産工場や八景島が望めます。この日は暖かな陽射しの下、青い海にたくさんのヨットの白い帆影が行き交って、忙しそうな港の風景をさらに掻きまわしていました。
 練習は、崖の上に張り出した太い木を支点とし、滑車に通した重り引き上げ用のロープ1本と、制動用のロープ2本(ダブル)を上下段違いにセットし、重りを引き上げたロープを広場の反対側の鉄柵にシュリンゲを介して結わえておき、確保者の準備ができたところでシュリンゲを引き解いて重りを落下させるという要領で行ないました。
 確保は、岩の代りに鉄柵からビレーをとる場合とボディビレーの場合との二通りで交代にやりましたが、ボディビレーの場合はやはりかなりの衝撃で、服部は実際身体が前方に飛ばされました。同じような体重の講師が手本にやってみせてもそう強い衝撃には見えないのは、まさに確保技術の巧拙の差なのでしょう。文字通りブッ飛ぶような体験に、他にも1メートルくらい引きずられた人もありました。狭いテラス上なら確実に落ちていると思われ、確保技術の難しさと危うさを実感しました。人より軽い重りでそうなのですから、50~70kgの人間の場合の衝撃たるや、想像に難くありません。もうひとつの重りも付け足してやってみるべきだったかも知れませんが、しかしこの小人数ではこの重り1個だけでも頻繁に引き上げるのはやっとでした。実際、人間の重さとはどの程度のものなのか、試しにゲンさんを吊り上げてみましたが、滑車を介しても一人では全く動かせず、3人がかりでようやくどうにか持ち上がるといった程度でした。
 この練習では、半分冗談で、各自重りを(誰とは言いませんが)落としたい人に見立てて行ないましたが、これは失敗でした。というのは、地面まで落としてしまうことがあったからです。ちょっとした手違いとはいえ、無意識の為せるワザには恐ろしいものがあります。こういう場合には絶対に落ちて欲しくない人に見立てなくてはいけないと、つよく思いました。
 小人数なので9時頃から始めた練習は12時過ぎには一通り終わってしまい、お昼の休憩後、懸垂下降の練習を少しして引き揚げました。午後の鷹取山公園はまだ多くのハイキングの家族連れやらボルダリングのパーティーで賑わっていました。お疲れさまでした。


トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ308号目次