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春山合宿 後立山周辺・上高地周辺
その3 鹿島槍東尾根~五竜岳~八方尾根
金子 隆雄

山行日 2002年4月30日~5月5日
メンバー (L)金子、越前屋

4月30日 雨
 ガラガラに空いていた急行アルプスを信濃大町駅で降りる。他に降りた登山者はおらず我々だけだった。遭対協の人に計画書を書くように求められ、用意してあった計画書を渡してタクシーで大谷原に向かう。他に登山者もいないため相乗りもできず二人だけだったので結構タクシー代が高くついてしまった。
 一時止んでいた雨が大谷原に着くと再び降り始めてきた。雨の中を登るのはあまり気乗りしないが、登る前から停滞という訳にもいかずトイレの庇の下で雨を避けて準備をする。ここ大谷原に来たのは随分と久しぶりだが、トイレが建てられていたり、ベンチがあったりで昔と様子が変わったなという印象を受けた。
 しばらく様子を見ていたが雨は一向に止む様子もなく、あきらめて出発することにする、それにしても荷物が重い。今日はできれば二ノ沢の頭までの腹積もりだ。橋を渡り西俣出合へと続く大冷沢沿いの林道を約20分で東尾根の取り付きに至る。目印の赤テープがあり踏み跡が続いているのですぐにそれと判る。沢に堰堤がある場所だ。
 いきなりの急登に息もたえだえになるが、要所には赤テープがあり迷うようなことはない。時折見られるカタクリの清楚な花がせめてもの慰めだ。尾根上にでると少し傾斜がゆるくなり、雪も現れてくるが、やはり今年は雪が少なくかなりヤブが出ている。既に全身ずぶ濡れ状態だ。忠実に尾根を辿るとヤブコギが多くなるので斜面の雪を拾ってトラバース気味に登って行くが、これも結構疲れる。金子は荷物の重さからか全然ペースが上がらず、途中で越前屋さんにザイルを持ってもらう。50mザイルは重過ぎるぞ。
 一ノ沢の頭の少し手前で下山してくる二人のパーティーに会う。彼らは一ノ沢の頭の少し先まで行ったが雪の状態が悪く、またルート不案内のためあきらめて下山すると言う。日程に余裕がないのだろう。
 一ノ沢の頭は広くて格好の幕営地だ。二ノ沢の頭はすぐ近くのように見えるが、雪の状態も悪いし、なによりもこれ以上雨の中登りたくないというのが本音で今日は一ノ沢の頭で泊りとする。早速テントを張って中に潜り込むが、全ての物が濡れ濡れで、中で火をたいてもちっとも乾かない。今日は濡れたシュラフで寝るのかと思うと気が重くなる。

5月1日 雨のち晴れ
 朝、目覚めるとまだ雨が降っているので今日は停滞と決めてまた寝る。昼近くになり雨も止み陽も射してきたので濡れたものを全部広げて乾かす。太陽の力は偉大だ、どんどん乾いてくる。これで今晩は気持ちよく眠れそうだ。マットを外に持ち出しのんびりとする。昨日は何も見えなかったが、東尾根の全貌が今日はばっちりと見渡せる。が、鹿島槍はここからは見えない。時々雪崩の音が谷の中から湧いてくるように聞こえる。
 何もしなくても腹は減るものでそろそろ夕飯の時間だ。今回、越前屋さんが見つけてきたその名も『不思議なこめ袋』というものを持ってきた。どんなものかと言うと、米をとがずにそのままこの袋に入れて煮ると(炊くのではない)ご飯が出来上がるというものだ。もちろん持ってくる前に家で試してみて結構いけそうだったので持ってくることにしたのだ。だが実際に山で使ってみると気圧の差なのだろうか、ベチャベチャした飯ではっきり言って美味しくない。下山まで毎日この飯を食べるのかと思うと食欲がなくなる。

5月2日 無風快晴
 今日は晴天が予報されていたので3時に起床し、5時少し前に出発する。予報通りの快晴で、アイゼンが小気味よく雪に食い込む。雪稜を快適に登って行くと約2時間で二ノ沢の頭に着く。広くて快適な幕場になりそうな所だが、辺り一面キジだらけなのはいただけない。二ノ沢の頭までは近そうに見えたのに意外と時間がかかった。ここから少し下降し第一岩峰へと続く急な雪壁を登り更にトラベースして行く。この頃になると気温も上がってきて雪も結構腐り始め、急斜面のトラバースはかなり緊張する。
 第一岩峰には全く雪が付いていない。アンザイレンして金子トップで登るが、出だしの数メートルが、ホールドが少なく苦労する。ガイドブックによればここは2級程度で易しいはずなのに何でこんなに難しいのだろう。難しいのは最初の数メートルだけであとはどうということもなく、2ピッチで抜ける。普通は出だしの所は雪で埋まっていて、もっと上の易しい所から登り始めるのだろうという勝手な結論を出して先に進む。
 なおも雪稜を進むと核心の第二岩峰の下に着く、ここも雪が付いていない。ビレーポイントがないためハーケンを打ってアンカーを作り金子トップで登る。細い岩稜から左に廻り込み核心部のチムニー下でピッチを切る。ザイルの長さは足りていたので1ピッチで上まで抜けられたのだが、何となくここで切ってしまった。ここでトップを越前屋さんと交代する。抜け口がハング気味のチムニーには残置ピトンが沢山あり、残置のシュリンゲもすだれのように垂れている。一見難しそうには見えないのだが皆さん苦労しているんですねここで。登ってみるとやはり難しい、残置のシュリンゲをつかんでの強引な腕力クライミングだ。誰も見てないから格好悪くてもまあいいか。
 核心部を越えると後は雪の斜面をひたすら高度を上げていくだけだ。正午過ぎにアラ沢の頭に到着。ああ疲れたということで一休み、一休みのつもりがすっかり根が生えてしまって今日はここまでということになってしまった。丸一日行動する体力はオジサン達にはないようです。
 登ってきた東尾根を見下ろすと二ノ沢の頭にテントが一張見える。

5月3日 微風快晴
 昨日に続き今日も天気がいい。昨日は怠けてしまったので今日は頑張らねばと、気合を入れて出発。鹿島槍北峰にはすぐに着いた。南峰に向かって少し下降し、分岐している道をキレットへと向かう。稜線上はほとんど雪がなくアイゼンをつけたままだと非常に歩き難い。かと言って時々思い出しように雪の斜面が現れるのでつけたり外したりを繰り返すのは面倒だ。
 キレットへの下降点には不安定に雪が付いていてフィックスの針金を利用して降りる。中には雪がなく梯子が出ている。登りの梯子は雪に埋まっていて利用できず、壁と雪の隙間をずり上がって抜ける。ここはザイルを使用した。しばらく行くとキレット小屋に到着。ずいぶん立派な小屋で驚く。以前同じ季節に通過したことがあるが、その時はほとんど屋根しか出ていなかったのでこれ程大きな小屋とは思わなかった。新しそうだったので建て替えたのだろうか。
 岩稜の登り下りを嫌というほど繰り返し小さなピークに出るとそこは北尾根の頭だった。まだまだ先は長い。五竜岳直下のガラ場にジグザクにつけられた道をのろのろと登り、最後に雪壁を登り切るとようやく五竜岳に着いた。五竜も雪は少ない。日もだいぶ傾いてきているのでのんびりもしていられず急いで五竜山荘へと下る。
 今日は五竜山荘で終りにしようかとも考えたが、小日向のコルにいる紺野隊との合流をまだあきらめていなかったので、行ける所まで行こうということになり小屋でビールを買い込んで更に先に進む。
 白岳を越えて大黒岳とのコルにテントを張る。ここにはまだ雪が豊富に残っていて水の心配をしなくて済む。我々が着いてからしばらくしてやって来たパーティが少し離れた所にテントを張っていた。夜になり雨が降り始める。

5月4日 雨
 昨夜からの雨は朝になっても止まず、とうとう一日中降り続き停滞を余儀なくされてしまった。この停滞で紺野隊との合流の可能性はなくなり、明日は一日早い下山となるが八方尾根を下降して下山と決めた。紺野隊と連絡をとりたかったが、ここは電波が届かないらしく携帯は圏外で使えなかった。越前屋さんは今までメールで自分たちの行動の様子を送っていたが、携帯が使えなくてかなり焦っているようだった。

5月5日 曇り強風
 朝はまだ雨が残っていたのでしばらく様子を見ていた。8時近くになり止む気配が出てきたので小雨の中出発する。しかし今日は風が強い。風は登るにつれ強くなりしばしば耐風姿勢を強いられる。岩稜帯では風にあおられてバランスを崩しそうになるので緊張する。
 ようやくのことで唐松山荘に着き、携帯が通じるかと思ったがここでもだめだった。八方尾根の下降に入るとしばらくは風が避けられたが、下るに従い更に風当たりは強くなってくる。さすがにここまで来ると人が多くなる。登る人、下る人で大賑わいだ。途中で携帯の通じる場所を教えてもらいようやく連絡をとることができた。紺野隊も下山途中とのことだった。
 リフト乗り場が近づくと観光客がやたら多くなってくる。リフトに乗ろうと思ったが高いので止めて歩いて降りることにする。うさぎ平から先は雪がなくて歩いて降りるのは大変なのでゴンドラに乗ることにする。天気はすっかり回復して暑いくらいの陽気になっている。白馬駅までテクテク歩いて、途中の八方口の交差点のそばにある温泉に入る。更に駅に向かう途中にあったホテルの商売気のない食堂で遅い昼食にする。
 あれこれ時間を使ってしまい駅に着いたら直通電車がなく、とりあえず各駅で松本まで出る。じゃ晩飯でもということで越前屋さんの奢りで旨い馬刺しを食べさせてくれるという店に行く。旨いものをたらふく食べて、さあ帰るかとほろ酔い気分で駅に行くともう電車がない。まだ午後の8時なのにそれはないだろうと駅員に聞くと長野まで行って新幹線に乗れば帰れると言う。下山はもともと明日だったのだし、そこまでして帰る必要もないので駅前の公園でテント泊りして翌日に帰った。最後にとんだ落ちがついてしまいました、はい。

鹿島槍東尾根第一岩峰にて
〈コースタイム〉
30日 大谷原(6:20) → 東尾根取付(6:40) → 尾根(7:00) → 一ノ沢の頭(11:10)
1日 停滞
2日 一ノ沢の頭発(4:55) → 第一岩峰下(8:10) → 第二岩峰下(10:35) → アラ沢の頭(12:40)
3日 アラ沢の頭発(5:15) → 鹿島槍北峰(5:40) → キレット(7:35) → 北尾根の頭(11:40) → 五竜岳(15:45) → 幕場(白岳と大黒岳のコル)(17:30)
4日 停滞
5日 幕場発(8:00) → 唐松山荘(9:50) → うさぎ平(12:00)

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