トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ309号目次

タカマタギ~日白山
天内 基樹

山行日 2002年3月2日~3日
メンバー (L)飯塚、鈴木(章)、小堀、荻原、天内

 帰りの列車内、向かいの席の飯塚さんの隣には中年登山者2人。1人は、上はK2のイラストの半ソデTシャツ1枚。2人で「よかいち」(しょうちゅう)を飲みながらおしゃべりしている。
 そのうち1人がゲンコーという言葉を口にする。とたん、今回の原稿はどうしよう、と飯塚さん。即、あっこさん親指をつき出し、アマナイさん! えっ、私は文章書くの苦手なんです。あっこさんこそ、とてもうまいじゃないですか。
 ダメ! 私はもう何度も書いているから、天内さん。そうだ、天内さんにお願いしよう、と飯塚さんまで。結局、2人に押し切られ、今回の原稿を書くはめになった。予期もしていない突然の決定に、行く手に暗雲たれこめ、急に頭が重くなってしまった。 天内さんにワカン貸しておいてよかった、とうれしそうに飯塚さんが言う。(教訓。その山行のリーダーから山の道具、借りない方がいいかも)
 「岩つばめ」を読むのはとても楽しいけれど、自分が書くとなると気が重くなる。みんな文章書くのうまいし。しかし、気をとり直し書くことにする。
 3月2日(土)
 今回は電車で行くことになり、できるだけ早い電車に乗ろうと、蕨駅に近い(歩いて10~15分位か)あっこさんの家に集まることになった。荻原さんは最終の?1時台の電車で来た。山への執念を感じる。
 あっこさんの部屋は大きな団地の奥の方の1棟の1F。本棚には、日本登山大系からアイスクライミングルート図集、そして郡山山岳会などの地方の山岳会の会報まで、山の本がたくさんあった。それと同じ位あったのが中国関係の本。中国に対する思い入れの深さを感じる。その前の机の上には、三峰の例会山行計画表がはってあった。
 各自、シュラフを出し仮眠。4時起床。コーヒーを飲み、小堀さんはカップラーメン(ソバだったかな?)を食べ、出発。
 浦和、高崎、水上と乗りつぎ、無人の土樽駅に下車、他におりた人は4、5人位か。どの列車もけっこう混んでいてバラバラにすわった。
 駅でスパッツをつけ、出る。
 橋を渡ってから、川ぞいに林の中に入る。何日か前のトレールがついている。途中、1本とり、ワカンをつける。私は持っていないので飯塚さんから借りる。大集会の時買ったというアルミ製のワカンを貸してもらう。飯塚さんは木製のワカンをつける。
 その後もしばらく木道を歩き、もうそろそろのはずと取付を探しながら歩いていると、樹に赤布がつけられていて、そこからトレールも上がっている。
 急な斜面を飯塚さん先頭に登る。尾根に出て、私が先頭で軽いラッセル(ルームで金子さんらにずい分おどかされたが、それ程深くもぐらない)をしていくと、雪面に人の手のような大きな足跡、えっ、後続の人達も気がつき、何だ、何だ。クマ? この後も何度か尾根を横切っている。並行して小さな足跡もある。ネズミやウサギなどを追いかけているクマの姿を連想してしまう。
 さらに進むと、直径数10cmの黒い抜け毛のかたまりがある。やはりクマにちがいない。小堀さん、遠慮がちにヨーデルをかなでる。
 左前方、遠くにピークが見える。あれがタカマタギかな、と思ったら、その手前の棒立山だった。
 地図(特に5万分の1の大きいハイキング地図)を眺めていると、ついスケールを小さくとらえがちになってしまう。現実の山は、例え小さなピークでもそれなりの高さと大きさをもっている。タカマタギまで行けるのかなあ、少し不安になる。
 ふり返ると足拍子岳と荒沢山がよく見える。昔、2人で縦走した事を思い出す。
 古いアルバムを見ると、80年2月3日、日曜日(つまり最初から日帰り装備で)、あの時は日帰りで縦走したので、周りの人々がびっくりしていた。その前の月に行った人達はラッセルがひどく、足拍子にさえ登れなかったのだから。雪の状態で大きく変わるものだ。その時の記録を探して見たら、「程よい堅さの雪」でワカンは使わなかったようだ。この時はトレールはあったが私たちだけだった。尾根取付が7:30。登りながらずい分写真を撮っている。足拍子の頂上では30分も休み、荒沢山からトレールのついているカドナミ尾根を下り、16:15には土樽の駅に着いている。私達が早かったわけではなく、その時の雪の状態だろう。
 さて、去年行った池ノ沢を思い出す。ルート図集との違い。沢だってその時の水量、残雪の多少などにより、同じ沢でもずい分違ってくるだろう。これは一般コースだって同じだ。今回の山行後、「ワラジの仲間」の年報を見たら(カモシカスポーツで売っていたのをちょっと立ち読みしただけ)、彼らも99年2月(だったと思う)、タカマタギをめざしているが、初日はラッセルがひどく、高架鉄塔まで行けず、駅に戻りステーションビバーク。2日目は他会のパーティー(東京白稜会だった。相変わらず日帰りだ)と合同でラッセルしたが、棒立山あたりで引き返している。やはり雪の状態でずい分変わるものだと、つくづく思う。
 尾根はきれいな樹肌のブナの林が続く。途中、飯塚さんは谷にカモシカを見つけたり、小堀さんは雪の中の樹の根に足をとられ、ぬけ出すのに四苦八苦したりする。
 後半、少し風も出、視界も多少悪くなったりしたが、どうにかタカマタギを越えた鞍部にテントを張ることができた。
 夜、風が出、テントが圧迫してくる。
 3月3日(日)
 昨夜、私は自分のワインだけでなく、小堀さんのバーボンを飲んでしまったらしい。小堀さんに言われる。少々、飲みすぎてしまったようだ。最後の方は憶えていないので。反省。少し、自重しなくては、と思う。(しかし、この後、少し自重し、適度に飲んだつもりのGWの白馬岳では、逆に「のまないさん」になってしまった、と言われてしまった。なかなか難しい)
 外に出てみると、一面灰白色の世界で、その中に樹々の枝についた新雪がさらに白く浮かび上がっていて幻想的だ。しかし、寒い。
 視界はあまりよくない。尾根の左側には雪庇が発達しているので、できるだけ右側の樹の生えている所を歩くようにする。昨日もそうだったが、私が先頭の時、つい1人先に行ってしまいがちになる。余裕がないからだ。冬山(3月は冬山に入るのかな?)は正月につぎまだ2度めで、今日などおだやかなものだと思うけれど、ちょっと冬のきびしさを感じ、つい、早くメドをつけてしまいたいという気持ちになってしまう。もう少し後の人のことを考える余裕を持たなくては、と思う。
 時々、飯塚さんのワカンの紐がゆるみ、そのたび立ち止まり直している。私の方は何ともない。きっといい方を貸してくれたのだろう。感謝。
 それでもコースが判然としない時、彼女がコンパスと地図を胸の前に持ち、きっと前方を見つめ、コースを指示する様はさすがリーダー、頼もしい。
 しばらく行くと、樹に赤布のついたピークに出る。前方を見てもこれより高いピークはなく、これが日白山だろうと判断し、大休止する。ここは谷川連峰などの展望がいいらしいが、今日は何も見えない。しかし、しだいに明るくなってくる。見上げると、雲の間から太陽が白い円盤となって現われたり消えたりしている。
 そして、再び歩き始めた頃、さーっときれいな青空が広がり、白い樹々がいっせいにキラキラと輝く。うーん、フォトジェニックだなあー。みんな、きれい、きれい、を連発している。こういうシーンを見ると、冬山はたしかにきびしい面も多いけれど、来てよかった。冬山をやらない人達にも見せてあげたい、と思ったりする。
 荻原さんは元気だ。どんどん先頭をきって下る。高架鉄塔を過ぎた少し先で、右の斜面を下り樹林帯の中に入ったが、少し早かった。できるだけ尾根伝いに行った方がよかったようだ。
 それでも、ドンピシャリ、バス停の前に出た。いあわせた地元のおじさんによれば、以前滑落事故があり、大変だったとか。また、クマの話をすると、それはカモシカだと言う。私たちは、あれはやっぱりクマだ、と話し合ったが、家に帰ってから昔撮ったカモシカの足跡の写真を見たら、それとそっくりなので、今はあれはカモシカの足跡、きっと飯塚さんの見たカモシカのものだろうと思うようになった。
 バスで越後湯沢に出(バス賃610 or 650円)、温泉(300円)に入り、食事し、荻原さんは家族サービス、仕事などの為、1人先に新幹線で帰京。他はその後、鈍行を乗りついで帰京した。
 タカマタギ~日白山は、ブナの林につつまれた、静かでおだやかな山で、特に危険な所もなく、今回はわからなかったけれど展望もすばらしいらしく、雪山入門としてとてもいいコースだと思う。
 この山行を企画してくれた飯塚さんやあっこさんに感謝。

〈コースタイム〉
3月2日(土) 土樽駅(6:50) → 取付(7:50) → 松川分岐(10:00) → 棒立山(11:00) → タマタギ(12:20) → 下のコル(幕場)(13:50)
3月3日(日) 幕場(6:50) → 日白山(7:10) → 東谷山(7:50) → スキー場バス停(11:20)

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ309号目次