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黒薙川・北又谷
高橋 俊介

山行日 2002年8月3日~11日
メンバー (L)野口(芳)、高木(敦)、高橋(俊)

 今回の山行はリーダーが野口さんとの事で一抹の不安がよぎっていたのだが、やはり計画段階から予想通りだった。
「今回の山行テーマは、お魚にしよう!」
第一声がこれだった。つまり、北又谷で淡水魚を堪能したら、そのまま栂海新道を縦走し今度は海水魚を味わおうではないか!というやんごとなき計画なのである。さすが、Mrシェルパ。考えることがちがいますなぁ、と皆の尊敬のまなざしにもかかわらず集まったのは僕と高木さんのみ。あれ? まぁいっか。あんまり多いと時間かかっちゃうもんね、とルーム後、冷酒を片手に計画を決める。
「今回は長いし、究極の軽量化を図ろう!」とリーダー。なんだかんだいってもちゃんと考えてくれてるのね。ところが、後日来たメールには、
<食料計画>
朝:お茶漬け
昼:ソーメン
夜:米
※状況に応じて現地調達          以上
えっ?これだけ?すかさず2人で突っ込むと、
「人間、追いつめないと本気になんないでしょ?それに究極の軽量化っていったじゃん」
確かに飲み会の時、究極の軽量化に同意したからって・・・

 リーダーには逆らえず、上野から急行能登に乗り込みいざ出陣。泊駅から予約していたタクシーで越道峠へ。ここであれ?なんか忘れてきたような気が・・・。ま、いいか、簡単に朝食を済まし、標識裏の踏み跡をたどる。1000mあたりのコルから適当に枝沢を下ればなんとかなるんでないかい?と皆の意見で、適当に見切りをつけ下るとこれまたバッチリ眼下に北又谷が見えてきた。するとそこにまるで我々を歓迎するかの如く、ひょっこりカモシカが顔を出している。いやぁ~、最高だねぇ、と言いつつ笑顔で再び下り始めようとしたらリーダーがずっこける。豪快に笑いとばしさっさと下る。(後に分かった事だが、この時あばら3本折れてたとの事です。)

 ようやく入渓地点に降り立つと、さすが黒部。表しようもない見事な景観とラムネ色した水質。軽く一本を入れ、準備してさっさと行きましょうとハーネスをつける為ザックをあけると、「あっ! 米を忘れてきた・・・。」「えっ・・・マ・マジ?」
でもこれでみんな真剣に現地調達する気になるよね。するとさすがです、リーダー。お魚ちゃんが走る走る。これは期待増。さっさと行こうと足早に遡行すると、爆音と共に目の前に魚止め滝が現れる。この滝は昔、倍の落差があったが何年か前の台風により一晩で半分に削られてしまった。何人かの釣人がここで竿を出していたが、我々はその横を颯爽と取り付く、のかと思ったら、
「はい、俊ちゃん、ザイル。たのむでぇ~」
はいはい行きますよ。あれ、なにこれ、ホールド全然ない。くっそ負けへんでぇ、と気合で乗り切る。後のみんなは登る気ゼロ。ゴボウで全員突破。ところが、ここが今日の核心。ここから対岸にジャンプと遡行図に書いてあるが、上から見ただけじゃ水深が分からないし、ミスったら間違いなく滝壷に巻き込まれ出てこられないだろう。よおしゃ。勇気を振り絞りザイルをつけジャンプ。なんとか成功。この後も、いやらしいトラバースや滝越えなど遡行を続けると、ようやく恵振谷到着。ツェルトを張って一息ついたのもつかの間、大粒の雨が降り出し瞬く間に増水。一段上にツェルトを張り直したものの、緊張しながら夜を迎え、あまり良く眠れなかった。
 翌日、昨日の増水が嘘のように引き天気もピーカン。意気揚揚と出発。今日の行程は一気に沢を大きく高巻き、枝沢に50mの懸垂で再び本谷に入る。かすかな踏跡を辿り急登を上る。200m程登ったところで1本をとる。行動食を口にしていると、どこからともなく「ブーンブーン」という羽音が。今後この羽音に終始悩まされるとはこの時点では誰も想像をしていなかった。まず一人目の餌食は、やっぱりリーダー。
「いってぇ~(怒)」
この後も続々と「いってぇ~、いってぇ~」という声がこだまする。そんなこんなでこの高巻きで5時間近くを費やしてしまった。そんなわけで、今日はこれでおしまい。早々と幕営地を探し、念願の釣りに没頭する。すると、あら、あらあらあらら、まずは25cmクラスが。次も続々と釣れちゃうじゃないですか。こりゃ、たまりませんなぁ。
へへへへっ・・・ 。天国良いとこ一度はおいで。  これに味をしめ、翌日は昨日の幕営予定地だった白金沢出合まで釣りながら遡行する。いたるところに魚影があり、あっという間にビクいっぱいに。それもほとんど尺もしくは尺近い立派なものばかりなので、25cm以下は惜しみなくリリース。いやぁ、こりゃアブさえいなきゃ楽園だねぇ、と笑いが止まらない遡行を続ける。2時間あまり歩いて白金沢出合到着。それぞれに昼寝したり釣りしたりして酒飲んで寝る。
 翌日も楽チンで爽快な遡行となる。一箇所ゴルジュがあるはずだったが、水量が少ないのかどこだか分からずいつの間にか抜けていた。今日も何箇所かザイルを出す場所はあったがそれほど厳しいものではなく黒岩沢出合到着。ここに一日停滞することに。昨日と同じく釣りしたり昼寝したり酒のんだりアブにさされてみたり(?)とにかく楽園を味わう。
 こんだけお魚堪能しちゃったからそろそろ下山しましょか、ってことになり栂海新道の計画を変更。最初っから行くとは思ってなかったけどね。そこで、黒岩沢をつめ黒岩平にあがり小滝駅に向かうことに決定する。コースタイムだけで11時間かかる。黒岩沢上部にも魚影が確認できる。でも今日は海水魚を食すため我慢することに。藪こぎ無しで黒岩平の湿原に飛び出す。まったくこの沢は最後の演出まで泣かせるじゃないの! チングルマが咲き乱れる中ようやく栂海新道にでる。いやぁ、最高ですなぁ、とみんなご機嫌でハーネスをはずし、「ビールだ、生だ」とさっさと下る。と思ったのだが・・・リーダーのコンパスで確認したのにどうにも登っている気がしてしょうがない。30分ほど疑問を抱きつつ、やっぱりおかしいと思い再度確認すると、あれ?
「このコンパス、赤が南になってません?」
「そんなはずないでしょ。だっていままで俺ずっとこれ使ってきたんだもん。」
ってなわけで、僕のコンパスと見比べると・・・やっぱし。しょうがないから180度方向転換。いままでどうやってきたんですか? 小滝までの道は荒れていると聞いてきたが、そうでもなく2時間ほどで林道にでる。でもただ一つネックなのは、マムシ天国ということ。誰かは、「俺怖くてこれ以上いけない。引き返そう!」と、かつて無いほど真剣に言ったくらいですから。ところが、あとは林道を3時間歩きだ。と、ちんたら行こうとしてたら、ある意味ここが本当の核心部。今度はアブ天国なのである。しかもちょっとやそっとの数じゃない。養蜂場で蜂でひげを作ってるおっさんをテレビでみたことあると思うけど、まさしくあんな感じなのである。体中に何百匹も、しかも3時間ずっとまとわりついてくる。こりゃ、もうたまらんと思い、真夏の炎天下の林道を上下雨具で身を固め、防虫ネットで完全防備に変身する。「ワッハッハ、所詮人間様の知恵にはかなわないのだ」と肩で風をきって歩くこと、5分。「暑くてたまらん」ってなわけで、雨具を脱ぐとまた養蜂場に逆戻り。くっそー、こんな脱ぎ着を繰り替えしているうちに、虫にみな心を支配され、無言でひたすら歩く。「生、なま、ナマ」まるで呪文のように心の中で唱えてないと虫に心を支配されてしまう。そんなわけなので、1歩でも立ち止まろうものなら、ちょっとした服の隙間からたちまち餌食になってしまう為ひたすら3時間歩き続けた。そんなわけなので、明星山のキャンプ場についた時にはみんなフラフラ。タクシーを呼ぼうと電話を探すが、管理小屋の管理人に聞くと、あと4キロ下らないと電話が無いという。さすがにこれ以上雨具着て歩くのはゴメンなので、懇願してみるとトラックの荷台に電話があるところまで乗っけてってくれるというではないか。さすが、田舎の人はあったかい。
 携帯でタクシーを呼び、糸魚川まで行き宿に入る。部屋に入ってザックを置いた瞬間に、ザザーッとアブの死骸が落ちるのにはさすがに辟易した。もう、生しかない。風呂に入って日本海の海水魚を存分に堪能する。
 今回はいろんな天国を堪能し楽園を垣間見てしまった。この年齢でこれはやばいかな? でも今までの私の沢歴の中で、ダントツのNo.1になったことは間違いない。

楽勝!

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