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南ア深南部・朝日山
越前屋 晃一

山行日 2002年11月23日~24日
メンバー (L)越前屋、鈴木(章)、天内

 久しぶりに東名高速に乗って山に向かう。
 出発1時間前になってメンバーに入っていたSの友人から、Sが渋谷で酔いつぶれて動けなくなっていると連絡が入り、あわてて手持ちの2~3人テントを持ち出すあたふたした出だしになった。本来ならば「市中引き回しのうえ、打ち首獄門さらし首」といきたいところだが「若気の至り」ということで罪一等減じて「きっといつか大荷物を背負わしてやるの刑」に処すことにした。
 それにしても夜の東名はコワイ。さすがは日本の輸送の大動脈を誇るだけのことはあり、大型長距離トラックが圧倒的威圧感をもって迫ってきて、最近めでたく10万キロ走行を達成したわがボロ車はつつましく走行車線を走り続けることになった。
 掛川PAで仮眠、袋井でおりて水窪に向かう。白倉川に入る道をうっかりやりすごしてウロウロしていると、目の前に巨大な構造物が・・・。しかもどうしてこんな山の中にあるのか、フリークライミングの人工壁が毅然と屹立しているではないか。あまりの場違いな様子にあたりを見廻すと「国体」ののぼりがあちこちに立てられていた。03年「国体」は静岡で開かれ、ここは「クライミング」の会場になるらしい。
 すこし戻って白倉川沿いに進み、山王峡温泉の一軒宿を過ぎ、しばらく行くとゲートのある白倉権現橋。車はここまでだが、たっぷり10台はOKという駐車スペースがある。このあたりの人に良く登られているのか登山届けのポストもある。もしかしたら、藪は刈り払われて登山道化しているのではないかという不安にかられながら出発する。
 約9キロ、3時間の長い白倉沢沿いの林道の登りが続く。途中に、営林署の休憩小屋が一定の間隔で建っている。お世辞にもきれいとは言いがたいが、どれも薪ストーブつきの小屋で「こんなところでしばらく暮らしてみたいやね」といったたたずまいだ。
 林道が行き詰まると最後の小屋があり「中ノ尾根山登山口」の指導標がある。水はすこし手前の沢から取れた。
 尾根はよく踏まれて明瞭。ほどよい登りに高度をかせぐ。1900mあたりからだろうか、雪が見えはじめるが、ガレの縁を登り2214Pから広い笹原を突き進んで出た山頂は雪に覆われていた。11月初旬に北アルプスに降った雪がこのあたりまで延びていたようだ。
 今晩はここに幕を張ることにする。

 明るくなるのを待って動き出す。きりりとした寒さが立っているが天候は良く、北にのびた三又山のルートも鮮明。ニシノマタ沢(右俣)を合わせるガレ縁はまだ凍っていたが慎重に通過、ドーム状の2251Pを越えるとまもなく三又山に着く。
 赤石主稜には池口岳がその秀峰を見せる。われわれは分岐点を西の支稜にルートをとる。
 このあたりから雪もなくなり笹の丈も首から下あたり、サラサラした笹藪漕ぎを上々の気分でしばらく楽しむ。白倉山では暖かい日差しを受けて長い休憩をとる。
藪山も良いもんよ、おにーさん  白倉山からの下りは長い二重山稜になっていて、北側の尾根を歩く。1815Pをすぎたところで隣の尾根の末端に回りこみ、そのまま尾根の北面を捲いて平森山に向かう。そのまま進むと平森山へいくようだったが、仕事道のなごりか何かで里に引き込まれても大変と思って、一度稜線に戻ることにした。なぜか稜線上も巨大な倒木があるものの、刈り払いがおこなわれておりすっきりとしていた。
 やがて明瞭な尾根を大きく南に下りさらに1617mの鞍部で左に捲く。しばらく回り込んだところにある沢状の窪地を詰めていくと核心の朝日山に入った。
 昨日頭をよぎった刈り払いされているのではないかという危惧は、取り越し苦労で、2.5~3mの猛烈なすず竹の藪が行く手をふさいでいた。獣道があるにはあるがあまりにもそこら中を縦横無尽に走りすぎて、判断の材料にならない。コンパスで適当に勘をたよりに二、三度つっこんでみてようやく境界見出標が藪の中から顔を出した。
 現在地をおよその見当で決め、とりあえず1667.0mの三角点を探すことにした。ときどきでてくる境界見出標と細い踏みあとを丁寧に拾い北西に進むが山名板のある円地があるだけで三角点は結局見つからなかった。もう少しもう少しと探しているうちに、藪から抜け出してしまう。これ以上下ってもヒョー越に向かうだけと判断し、もとに引き返すことにした。
 そろそろ時間も気になりだし、1667m付近からのびている登山道に入ってみたがとんでもない密藪にさえぎられて押し戻されてしまう。パーティーが持ち合わせていた2万5千図はH13年現地調査のものとH4年調査のものがあったが、13年版にはこの道だけが記されていた。
 やむを得ず残るH4年版の登山道を探しに境界見出標沿いに進んだが、ちょっとしたはずみに北側に進路をはずしてしまった。ここでのロスタイムは致命的で、もしかしたらビバークになるかもしれない、2人に謝らなければならないと思っていた矢先に、天内さんが「明日、わたしは人と会う約束がある」と言い出した。聞いてみると確かに大事な用事なのだ。章子さんも「歯医者の予約が・・・」と言う。
 こんな時は、もうこれしかない訳で、GPSを出して現在地を確認して登山道に向かって直線を引き周囲の形状は一切無視、南に藪漕ぎ10~20分。これがどうしたわけか朝日山一般ルートの山頂に飛び出したのだ。
 なんと、H13年調査の新しい2万5千図では密藪にふさがれた旧道が残されて、整備された新道が誤って削除されていた。
 山名板は混乱していて、ここが1667m地点だというものもあるが、境界見出標を変形×印三角点とまちがえているらしく、長野県南信濃村側から山頂を出臍のように捲いた静岡側との県界尾根の突端と判断してまちがいないと思われる。1691~9mのここが朝日山々頂で、三角点は何かの理由ですこし下の別の場所に置かれたというのが正しいのではないだろうか。
 とりあえず、日が落ちる前にと大急ぎで写真をとり、ここからは整備された登山道を脱兎のようにかけ下った。林道に降り立ったところは昨日行きがけに見た「朝日山」の指導標のあるコンクリートの階段で大正解。
 日はもちろんとっぷりと暮れ、ぎりぎりセーフだったが一件落着、ほっとする。

〈コースタイム〉
23日 白倉権現橋(10:15) → 登山口(12:40~13:15) → 中ノ尾根山(幕)(15:50)
24日 中ノ尾根山(6:17) → 2251P(6:48) → 三又山(7:10) → 白倉山(9:15~45) → 平森山(11:30) → 朝日山々頂付近(13:30) → 朝日山々頂(16:30) → 登山口(17:20) → 白倉権現橋(17:55)

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