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御座山
さとう あきら

山行日 2002年11月2日
メンバー (L)佐藤(明)、鈴木(章)、伊藤(め)

千曲川を離れ南相木川沿いの道に入ると、谷は急に狭くなった。時折通り過ぎる収穫を終えた高原野菜の畑は、昨夜の降雪で白一色だ。不規則に点在する人の頭ほどの盛り上がりは、取り残された白菜なのだろう。集落を結ぶ道は、動くものの気配がなく、寂しい。
 御座山(おぐらさん)はいわゆる西上州といわれる山塊の西端に鎮座する、標高2千メートルを少し越える岩峰の山だ。20年近く前に日航ジャンボ機が墜落した御巣鷹山とは、上信国境を隔てたわずかな距離にある。東京からのアクセスには恵まれないが、そのどっしりとした雄姿は地元の人気が高く、それにつられてか遠方から訪れる人も多いとの事だ。
 栗生登山口に着く頃には、青空が広がり、稜線に陽が当たるようになってきた。しかし晩秋の弱々しい光は谷あいにはまだ届かず、冷たく漂う空気に登山の出発をする手はかじかむ。
 枯れ枝を払いながら沢沿いに1時間も進むと、水音がしてきた。不動の滝である。季節がら水量はだいぶ控えめではあるが、こだまする滝音は大きく、人気のない山の静寂を突き破る。小休止のあと沢から離れ、つづら折りに山腹を登る。登山道に積もったナラの落葉はやわらかく、薄く覆った雪の下でカサコソと申し訳なさそうに音を立てている。こんな静かな初冬の道を歩くのが、私は好きだ。
登山口にて カラマツが美しい(モデルも)  こちら南側からの登山ルートは交通の便が悪いためか、他の登山者は見当たらない。静寂を独占出来るのがうれしいが、それ以上にいやし系のメグちゃんの同行がありがたい。会話の冒頭に2分休符を入れてから始める語りかたは、おっとりとして、今回のようなのんびりしんなりペースのハイキングに花を添えてくれる。
 見上げると、稜線の木々を白めていた霧氷が溶けて落ち始めていた。陽光に照らされて、淡い青空を背景にキラキラと光り輝くさまは、銀紙の小片が舞っているのかと見違うばかりだ。歩みを停めて皆で見入ってしまう。
 そして眼下のカラマツ林にも陽が当たり始めてきた。それは山はだ一面に広がる、黄金色の三角錐の幾何学模様。谷を覆うこれ程大規模のカラマツ林は、近県では長野の、それも軽井沢や佐久などの限られた地域だけなのだろう。均整の取れた一本一本は、その全てがほぼ同じ樹高と枝ぶりで統一されている。そして規則正しく植林されたらしく、まったく同じパターンで山腹に広がる。以前絵本の挿絵で見た、ふくよかな金色の尾を持つキツネを思い出した。そのキツネが何千匹もひれ伏し、尾を天に向けている、そんな柔らかな輝きだ。
 今迄、紅葉イコール広葉樹、それもブナの樹一本一本の個性豊かな色合いが重なるところが美しい、などとのたまっていたのだが、針葉樹もこれ程美しく紅葉するとは、知らなかった。今後の紅葉狩り行先リストに、カラマツ林も入れておこう。
初雪を踏みしめ登る  滝からさらに登ること1時間で御座山頂上直下だ。うっそうとした樹林の中に、新築された避難小屋があった。先頭をシャカシャカ歩くアッコさんが、小屋の脇をすり抜けざまにキャーと大声を上げて飛び上がった。何でも誰かが小屋の中でヌーと出てきて、こちらを凝視していたのだという。何だろうとメグちゃんと寄って行くと、小屋には大きなガラス窓がはめ込まれている。小屋の中をのぞき込むと、ウァ映った。日焼止めで白くなったメグちゃんの顔が、暗い林をバックに浮き出てる。アーラアッコさん、今日は日焼止めが厚塗りじゃない。強がりを言っているけど、案外カワイイところあるじゃない、ということでオバケ事件は一件落着。それにしても広く快適そうな小屋だった。こりゃ宴会に最適だね。
 ピークの岩峰は、抜群の展望だ。正面の八ヶ岳は風雪模様だが、北にうねうねと低く広がる山々は茶色にくすみ、雑木林は冬の装いだ。顕著な高みも見当たらない、特徴のない山並みだ。来秋はあんな西上州の里山をのんびりと歩くのも静かでいいなぁ。地元の人からコンニャク芋や干し柿のお土産でももらえるかな。
 そんな事を夢見ている間に、テキパキアッコさんはおでんを温め、ふうふう言いながら皆でほおばる。隣に座ったハンサム男性二人組にもおすそ分けをするが、私がいたせいか話は遠慮がちになり、女性陣には申し訳ないことをした。
 寒さに耐えかね、食事終了と共に下山開始。下りは1時間強で登山口に到着。そのまま南相木温泉の滝見の湯に直行となる。清潔で安価なことに加え係員の対応も良い。この日は終わり良ければ全て良しの、大満足山行でした。


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