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正月合宿偵察から捜索救助されるまでの報告
小幡 信義

山行日 02年11月2日~6日
メンバー 小幡(単独)

11月1日(金)
23:50 新宿発急行アルプスに乗車
 高橋(俊)見送りに来る。信濃大町は大雪の為やめた方がよいのでは、と言われるが、現地を見ないで敗退するのは悔しいので単独で行く事にする。

11月2日(土)
5:19 信濃大町に到着
 三連休の為か、3~4パーティーの登山者がいる。
6:20 バスにて扇沢へ向かう。
6:50 扇沢に到着
 山ヤは3人乗っていたと思う。
7:30 身支度し柏原新道へ向かう。
・単独の人が20分前に先行する。
・天気は雪、30cm位の積雪か。
・トレースはしっかりとあり、先行パーティーが入山しているなと思う。
・種池山荘は1m30cmの積雪の為、入山はやめた方がよい旨の看板があったが、行けるだけ行ってみようと決め、進む。
10:00 ケルンの所で単独の人に追い着き、雪が多い旨の言葉を交わし、先に行く。
12:00 トラバースルートで先行パーティー3人が見える。 15:30 2200m地点で先行パーティー5人及び3人パーティーに追い着くが、ラッセルで時間がかかっており、本日中に種池山荘までは無理と判断し幕営とする。

11月3日(日)
7:00 天気雪、一晩でテント内がかなり狭くなり、除雪を行なう。
・爺ヶ岳まではとても行けそうもないと考え、一日停滞し、4日に下山しようと決める。
・朝からシュラフに潜り込み、ラジオを聞きながら過ごす。
・先行パーティー2組は種池山荘まで行ってしまったようだ。
・積雪でテントが狭くなり、2回ほど除雪を行なう。

11月4日(月)
7:00 天気雪、下山しようと足を踏み出すが胸位の積雪となっており思うように進まず、7時から午後3時まで行動するが扇沢までたどり着けず、下山日となっていた為気持ちが焦るが連絡手段なし。明日頑張る事にする。

11月5日(火)
7:00 天気雪、下山開始。昨日と変わらず7時から午後3時まで行動し300m位(約350歩)しか進めず。まずピッケルで雪を払い除け、足で何回となく踏み付け、潜り込まなくなったら又ピッケルで雪を払うといった繰り返しで、一歩進むのに1分20秒の計算だ。
・下山日から、さらに一日経っても下山出来ず、とんでもないことになってしまったと、さらに気持ちが焦る。
・服部氏が捜索救助メンバーを招集している頃だと思うと、早くこの雪から脱出しなければと、気持ちが焦るが、全然進めず。
・午後3時幕営地探す。
・凍ったテントに無理にポールを押し込んだ為、ジョイント部より折損する。
・夕飯はインスタントのみそ汁一杯と、五目飯を半分喰った後シュラフに潜り込む。
・夜中も雪は降り続きテントを埋めつくす。

11月6日(水)
7:00 コーヒー一杯飲んだ後行動開始。朝から雪が降っていたが予報では午後より晴れるとの事。
・食糧は五目飯半分、行動食はつまみで買って来た鳥肉のかたまり一個。ガソリンは200ml位、ウィスキーが20ml位残っていた。
・本日下山出来なければ遭難の二文字が頭の中をかけ廻る。
・積雪量は、下山してから3日間も変わらず、胸までのラッセルとなる。
・行動中、雪山で死ぬとはどのような状態で死ぬのか考える。
・残しておいた鳥肉の行動食を喰いつくす。一時、力が出たようだ。
・午後になってガスが消え、遠くの稜線が見える。又、扇沢が見渡され、本日中に下山出来るのではと、嬉しくなる。
・ラッセルでもがいている数メートル先をテンがスタスタと横切っていく。なんとうらやましい事か、数分見入ってしまう。
14:30 5日目にしてやっと太陽が顔を出す。体力的にはまだ動けたが食糧、燃料の事を考えるとあと一日が勝負どころだな、と考えながらもがいていると、扇沢の方向からヘリの音がし、真っ直ぐ向かって来るではないか・・・。救助ヘリ・・・。私はピッケルを大きく振り、「ここだ、ここだ」と大声で叫んでいた。ヘリが接近し頭上で丸の合図を送ってくれた。「OK、わかった」と言っているようだ。私の真上から隊員が一人降りてくる。しかし、降りたところで首まですっぽり雪に埋もれ、もがいている。私はすかさずピッケルを差し伸べ引き上げる。隊員も苦笑いしていた。
 私はまず、「三峰山岳会の要請ですか」と声を掛ける。隊員は「ハイ、そうです」と答える。私は、会員が心配して動いてくれたのだと思うと、嬉しさと、自分に対しての情け無さで涙が出そうになるのを必死にこらえる。
 隊員と2、3言葉を交わしたが、多くは語らずただ、頭を下げるしかなかった。
14:50 ヘリに救出される。2日半、雪の中、もがき苦しんでいた事がうそのような気がする。うな垂れながらも時おり外に目をやると、下界は木々が紅葉していて、とても美しかった。昨年も同時季、常念・蝶ヶ岳に単独で下見に行ったが、稜線は全く雪がなく、帰りの上高地からのバスより見る山々の紅葉の美しさに、ただ、ただ感激するばかりの時と違い、予想外の結果になってしまった。
15:00 ヘリポートに到着。待機していた大町警察署員の車で大町警察署へ。ヘリ離陸の際は深々と頭を下げ、心の中で色々とありがとうございましたと礼を言う。
15:30 大町警察署で事情聴取。私一人の判断ミスにより、大町警察署、県警山岳救助隊、パイロット等、色々な機関の人達に迷惑をかけてしまい、ただただ、頭を下げることしか出来ませんでした。
 一通り聴取が終わると一人残される。三峰の一陣がこちらに向かっていると聞き、私の為に会社を休んで捜索隊を招集し、かけつけてくれていると思うと、とてもすまない気持ちと、ありがたい気持ちで一杯でした。何故、3日の日に下山しなかったのか悔やまれます。
 しばらく待機していると、大町近郊の美麻村に居る会員の江村さんが心配してかけつけて下さり、初対面であったが、色々と山の話をして下さり、元気付けられました。三峰のつながりをつくづく感じました。
18:00 第一陣捜索隊と合流、笑顔で迎えてくれたことが今でも忘れられません。会員の皆様、本当に心配をかけて申し訳ありません。

 最後に私一人の判断ミスにより貴重な時間を割いていただき救出にかけつけてくれた金子さん、服部さん、越前屋さん、紺野さん、藤井さん、四方田さん、天内さん、第二陣として待機してくださった野口さん、鈴木(章)さん、松尾さん、佐藤(明)さん、そして総合看板ナイルを東京本部として連絡をとっていただきました田原さん、本当にありがとうございました。
 会員皆様の支えがあるからこそ、山にチャレンジできるのだと、感じました。山をとったら何も無い人間です。これからも長いお付き合いよろしくお願いします。
 二度と同じような捜索救助出動を出さない為に、次の三点を約束します。
(1) 単独での北ア・冬雪山をやらない。
(2) 山に入る時は携帯電話をもつ。
(3) 天候の悪い時は無理に行動しない。


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