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刃物ヶ崎山
金子 隆雄

山行日 2003年3月8日~10日
メンバー (L)金子、越前屋、鈴木(章)、天内、土肥

 ここ何年かは3月の残雪期にこの山域に通っている。今年は刃物ヶ崎山から雨ヶ立山へとつなげて、縦走してみようと計画した。最初は21日~23日の連休で計画していたが、都合が悪くなり2週間早めての実施となった。しかし、結果はこの計画変更が見事に裏目に出てしまい、三日間ずっと雪に降り込められて、縦走どころか刃物ヶ崎山さえ登れずに敗退することになってしまった。

 7日夜、東所沢駅に集合して車で出発する。その日は谷川岳ロープウェイの駐車場で仮眠し、翌朝に須田貝ダムに向かった。ゲート前に車を停めて出発準備をしていると、地元の建設会社の工事事務所からオジさんがやって来て、「見たことある顔だな」と言う。「いやー、人違いでしょう」と返すと、「いや、やっぱり見たことある顔だ」と言いながら事務所に戻っていった。見た顔だと言ったのは私のことか越前屋さんのことかは分らないが、言われてみれば私もこのオジさんに前に会ったことがあるような気がする。初めてここに一人で来た時、ちょっと話をしたような記憶がかすかにある。いずれにせよそんな前のことを覚えているとは、この辺を登りに来る人は少ないということだろう。
 車は事務所脇のトイレの横に停めて欲しいとのことなのでそうすることにした。今日はゲートが開いていたが歩いて行くことにする。予定通りに縦走できたらここに降りてくることになるので、車で入っても回収に行かなければならないから同じことなのだ。工事事務所のオジさんは「通してあげてもいいんだが公団がうるさいからな」と言う。公団とはダムを管理している水資源開発公団のことだろう。
 雪が舞い落ちる中、きれいに除雪された道を歩き、2時間強で矢木沢ダムに到着。矢木沢ダムの駐車場から取り付くのだが、今年は雪が多いようで雪に埋まってどこが駐車場だか分らない状態だ。青い鉄梯子があったはずなのでそれを探し、その辺の適当な斜面を登って尾根に上がる。すぐに見覚えのあるアンテナ小屋が現れ、ここから本格的な登りが始まる。
 1009mピークまでは登り一辺倒で雪も深く、なかなか行程がはかどらない。天内さんは、ラッセルとなると水を得た魚のようにどんどんすっ飛ばしてすぐに見えなくなってしまう。逆に女性二人は遅れ気味で、パーティの間隔が開いてしまう。1009mピークから先は傾斜もゆるくなり楽になるが、雪の深さは変わらない。
 1113mピークを過ぎてしばらくすると、なだらかなブナ林となる。以前一人で来た時に泊りたいなと思った所だ。今日はまだ視界がきくので問題ないが、視界が悪い時はルートファインディングに苦労しそうな所だ。これは下山時に実感することになる。時刻は既に14時になっており、明日以降の天候や雪の深さを考えると雨ヶ立山までの縦走は無理に思えたので、今日はここに泊って刃物ヶ崎山をピストンすることに計画を変更した。
 翌9日も雪が降り続いており視界も悪い。MSRが不調で使えず、予備で持ってきたガスコンロでお湯を沸かし、行動食で朝飯を済ませて7時50分にテントを残し出発する。
 雪は昨日より更に深くなっている。そんな中、天内さん今日も絶好調、トップでがんがん飛ばす。しかし勢い余って二つ目のコブで方角を変えるべきところ、真っ直ぐ行って谷へ下ってしまい登り返すことになる。視界が良ければ間違うような所ではないが、今日は慎重にルートを選ばないとならない。家ノ串山東峰直下の急雪壁を登り切って10時5分に東峰に到着。ここまで上がると風当たりも強くなってくる。矢木沢側は雪庇が張り出しているので、ハモン沢側の樹林帯の中を進んで、10時45分西峰に至る。天気が良ければ正面に刃物ヶ崎山がどーんとその雄姿を現すのだが、今日は白い空間が広がるだけで何も見えない。
 ここまで来るのに出発してから既に3時間が経過している。先はまだまだ遠い、天候なども考え合わせると暗くなる前に幕場に戻るのは厳しいと考えられる。残念だが今回は諦めて引き返すことにする。なんともあっけない幕切れだが、来年また来ればいいさ。
 家ノ串山からの下り口が分るか不安であったが、まだ踏み跡は消えずに残っていたのですんなり幕場に戻ることができた。早めに幕場に戻ったので不調だったMSRをあれこれいじっていたら調子よくなったので朝飯用に用意してあったソバを食べる。
 10日、天気は昨日と変わらず雪はますます深くなっている。今日は下山するだけだから楽だなと考えていたが、そうは簡単にはいかなかった。ブナ林の入口に特徴的なブナの大木があったのでそれを目指して行けば目的の尾根に辿り着けるはずであったが、一発目は失敗。尾根は見つからずに谷に降りてしまいそうになり、トラバースしてみるがやはりダメで元に戻ることにする。幕場跡まで戻って慎重に地図とコンパスでルートを定めて進むがまたもや失敗。ここで温存してあった最終兵器のGPSを使うことになる。正確な現在位置を割り出し、方角を定めて進むと踏み跡に出くわす。それは先ほど自分達が歩いた跡だった。これでもダメなのかと落胆しかけたが、そこからわずかに方向修正することで目指す尾根を見つけることができた。100mにも満たない距離なのにずいぶんと時間を費やしてしまった。
 ブナ林を抜け出すと順調に高度を下げていき1009mピークに着く。ここからダムまで一気に下降だということで下り始めたが、何だかルートが違う気がすると言うメンバーがいるので、とりあえず下り始めたピークまで戻ってみることにする。戻って検討してみてもルートはここ以外になさそうなので再び同じルートを下降する。やがてダムが見えてきたので間違ってはいなかったようだ。登った時とは雪の量がまるで違うので、違うルートに思えたのだろう。
奥利根湖に無事帰還  ダムからテクテクと歩いていると工事関係者の車が通り、乗せてくれると言うので、越前屋さんだけ乗せてもらい残りの四人は待っていることにする。待つこと1時間あまり、寒さが身にしみてじっとしていられなくなった頃ようやく越前屋さんの車がやってきた。車が雪に埋まっていてなかなか抜け出せなくて時間がかかったとのことだった。
 やはり3月は中旬過ぎでないと天候が安定しないようなので、来年はその頃を狙って再挑戦しようと思う。日数ももう一日余裕があった方がよい気がする。

〈コースタイム〉
8日 須田貝ダム(8:10) → 矢木沢ダム(10:40) → 1009m(11:40) → 幕場(14:00)
9日 幕場(7:50) → 家ノ串山東峰(10:05) → 西峰(10:45) → 幕場(12:30)
10日 幕場(8:15) → 矢木沢ダム(11:30)

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