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中川川・箱根屋沢
山北 芳弘

山行日 2003年8月24日
メンバー (L)小幡、山北

 私が三峰山岳会に入会した大きな動機の一つは、"沢登り"をしたかったからである。私には、山をやっている友人が数人いたが、皆、「沢は面白いぞ!」と言うわりには、なぜか私を沢へ連れて行ってくれなかった。もう私は山岳会に入り、自力で行くしかないと思い、三峰山岳会にお世話になることになったのである。
 そして、今回の山行の箱根屋沢は、私が山を始めた原点でもあり、ホームグラウンドと自認する"丹沢"を沢から攻めるという意味で非常に興味深いものに感じられた。
 私は山を始めて4年ほど経つが、初めて友人と登った、丹沢の塔ノ岳~鍋割山において、塔ノ岳からの眺望、高山の雰囲気、はたまた、ブナの巨木を目にしたことに感動し、山に魅せられたのである。たまたま、テレビ番組で鍋割山荘のことが放送されているのを見たことが、そもそもの始まりであった。それまでは、丹沢湖を囲む原生林の山に"登山道"という名の道があり、山に登れるということすら全く知らなかったし、考えられなかった。山に登るという行為自体が私の辞書に存在しなかったのである。今、思えば不思議であるが、それまでは登山というものが本当に思考回路に無かったのである。それ以来、こちらも素人の友人と北ア、南ア、八ッなどをかじり、丹沢も西、東と行き、またフリークライミングなどもかじり、山の面白さにハマッテいったのである。4年前に登山というものに出会えたことは本当に幸運であった。そして、現在は三峰山岳会会員となり、今まで以上に山にどっぷり浸かれる。なんと幸せな事だろう!
 8月23日の夕方、私は一人、車で箱根屋沢へと向かっていた。仕事の都合でリーダーの小幡氏とは一緒に現地に向かえなかったためである。私は丹沢は行き慣れていたため、大方の場所は解かり、うまくいけばすぐ小幡氏がテントを張って待ってくれている箱根屋沢の入り口に着くのではと楽観視していたのだが、甘かった。私は現地付近と思われる道路脇に車を止め、キャンプや焚き火をしている人に向かい「小幡さ~ん」と叫ぶ羽目となった。無論、応答は無かった。暗いし、携帯は圏外だし、現地付近に来て初めて、夜間現地集合の無謀さに気づいたのである。小幡氏の顔は天内氏の写真(『岳人』に掲載されていた)を見て知っていたのだが、その状況では全く役に立たない。仕方なく車を止めた場所からザックを背負い中川のバス停まで戻り、そこから中川沿いの道を上流に向かって歩くことにした。そして、車を止めた場所から500mも上流に行っただろうか、小さな沢に架かる橋の欄干に、ヘッデンを灯して立っている怪しい人影を発見、もしやと思い近づいて行くと「山北さんですか?」と。果たして小幡氏との対面と相成りました。おそらく時計の針はもう零時をまわっていたと思われるが、橋の欄干でずっと待っていてくれたとは・・・。感激も束の間、小さな沢、すなわち箱根屋沢に張られているテント内に快く迎えられ、小幡氏が作って待っていてくれた特製カレーを振る舞われたのだった。再び感激。その後、これまでの山の経験などを話したあと翌朝の山行に向け就寝。
 翌朝、目覚めるとすぐ出発の準備に取り掛かった。具材が人参とキャベツのみのラーメンと残りの汁で茹でたウインナーを胃袋におさめ、車を当沢の近くまで移動し、テントなど、不要と思われるものは車に置いて行き、いよいよ箱根屋沢の遡行が開始された。
 明るくなってから見ると昨夜はうるさいほど水流を感じた出合付近の沢の様相も、実にこぢんまりとしていた。が、しかしその後、この沢のスケールの大きさを体感することとなる。しばらく歩くと、滝のオンパレードとなってきたのだ。次から次に現れる滝を小幡氏がリードで行き、私はセカンドだったが無我夢中で登った。滝は一度も巻くことなく全て登り、もうザイルはハーネスに結びっぱなしにし、滝が在ればビレイしあい交互に登り、越えれば、肩に担いで遡行といった具合だった。この密度の高い遡行は、かつて味わったことの無い快感だった。しかし、唯一快感でないものが在った。それは15メートル滝の人工ルートだった。小幡氏が先にアブミを架け替えながら登り、登ったら下に投げるから、それを使って登って来い、ということだったのだが、アブミ初体験で触ったことも無かった私は、内心「マジすか!」と思いつつも、見様見真似で、まさに無我夢中で登った。滝のクラックに打ち込まれた、今にも抜けそうな頼りないハーケンにアブミを掛け掛け登って行き、最後は倒木に架けられた残置アブミを頼りに登りきったのだった。これは、かつて味わったことのない恐怖だった。
 しかしながら順調に沢をつめ、やがて作業道なのか登山道なのか判らない道にぶつかり、道を行くことしばしで屏風岩山山頂に到着。休憩もそこそこに、大滝峠を経て、大滝沢沿いの登山道で下山。ここでも小幡氏の後をカルガモのように付いて行ったのだが、小幡氏は膝が悪いわりには下りも速く、休憩も車まで無しで、付いて行くのが大変だった。箱根屋沢は小幡氏にとっては、軽いトレーニングだったのかも知れない・・・。
 無事下山後は当然のごとく中川温泉のブナの湯に入り、それから家路についたのだが、帰りの車内で私には、すでに、次は丹沢のどの沢に行こうか、行ける沢は全部行きたいという野望が芽生えていた。それほど、今回の箱根屋沢は感慨深いものであり、"沢にハマッタ感"があり、ホームグラウンド、丹沢の別の顔を知る事ができ大収穫であったと思われる。そして、小幡氏には感謝の一言に尽きる。ありがとうございました。


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