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堀内沢・八瀧沢~マンダノ沢・下天狗沢~部名垂沢下降
金子 隆雄

山行日 2003年8月12日~15日
メンバー (L)金子、藤井、田代、高木(敦)、越前屋

 和賀山塊の堀内沢(ほりないさわ)は上部でマンダノ沢と八瀧沢とに分かれる。多分、本流はマンダノ沢と思われるが、八瀧沢を溯行する目的で7年ぶりにこの地を訪れた。1996年の6月に初めて来た時は増水に阻まれてマンダノ沢出合いまでも行けずに途中でエスケープ、同年の8月に大深沢に行ったついでに立ち寄ったが日数不足でマンダノ沢出合いまで行って引き返してきた。いつかまた行かなければ、という思いは募れどなかなか機会がなく今日に至っていた。
 それがどうしたことか今年は他に行きたい所もなく、じゃあ堀内沢にでも行ってみるかという気になって昔のメンバーに声をかけてみた。日程を調整し4名が集まった。更に計画を嗅ぎつけて面白そうだから連れて行けと迫る越前屋さんを加えた一行5名は、11日夜に東浦和に集合して夜の東北道を北上して行った。

 8月12日 雨
 夜通し車を走らせ、盛岡ICで東北道を降りて国道46号線を西進し仙岩トンネルを抜けて、生保内(おぼない)より林道に入る。部名垂(へなたれ)林道を左に見送り夏瀬林道に入り、夏瀬温泉への道と別れて堀内沢へと続く林道へと入る。取水口の少し手前で車を停めて出発準備をする。今日は予報通りの雨で、そのためかアブも少ない。
三角錐岩を登る越前屋オジサン  天気予報では今日は雨だが明日以降は晴れとなっていたので、今日一日の我慢ということで出発する。取水口の先ですぐに沢へと降りる。右岸の林道を朝日沢出合いまで行こうという声もあったが、私としては沢登りに来たんだから沢の中を行くことに拘りたかった。淡々と流れる平瀬をしばらく辿る。水量は心もち多いような気がするが濁りはまったくない。
 やがて両岸に苔むした岩が多くなり旧日の思いが蘇ってくる。ワニ奇岩はやはりその先端を欠いたまま、もはやワニではなくなっている。シャチアシ沢を過ぎると三角錐の岩も旧日のままそこにあった。越前屋さんは天辺に登ろうと何度か落ちながらも無邪気に挑戦する。
 マンダノ沢出合いには昼前に到着した。今日は辰巳又沢の出合い付近まで行く積りであったが、雨も降っているし寝不足で疲れてもいるので今日の行動はここで終わりとする。右岸の幕場にタープを張り今宵の寝ぐらとする。天気は悪くても焚き火が燃え盛れば気持ちも和む。今日もほんの少し溪の恵みを分けてもらい、いつもと変わらぬ夜は更けていく。

溪の恵み溪の恵み

 8月13日 曇り時々晴れ
 朝まで降っていた雨は出発時には止んでいた。今日は未知の領域である八瀧沢へと分け入る。八瀧沢へ入ると堀内沢の穏やかな流れから一変して荒々しい溪相となる。巨岩のゴーロ帯をしばらく行くと最初の5m滝が現れ、右の分流より簡単に越えると3段15mほどの滝が現れる。くの字状に曲がっていて最上段は見えないが、中段までは登れそうに見えたので登ってみることにする。下段を容易に登り、中段の右壁に空身で取り付く。残置ハーケンがあったが一歩がなかなか踏ん切りがつかなくハーケンを1枚打ち足して越える。ザックを荷上げし後続を迎える。最上段はとても手が出ず、右岸より捲いて落口に立つ。
 深い釜を持つ3m滝は泳いで取り付けば越えられそうだが、泳ぐ気にはなれないような気温なので右岸より捲くことにした。しかし、泳げばよかったなと後悔するような厄介な捲きで最後は15mの懸垂で沢に戻った。降りた所はちょっとした河原になっていて泊れそうだが、増水したら逃げ場がなさそうだ。八瀧沢の中流部にはここ以外に泊れそうな場所はなかったので昨日はマンダノ沢出合いで止めておいて良かったということだ。すぐに辰巳又沢が右岸より出合ってくる。
 辰巳又沢出合いを過ぎると沢幅が急に狭まり両岸は見上げるほど高いゴルジュとなり、中には二つの滝が落ちている。ここは右岸を捲いて越える。沢は大きく緩く弧を描くように左に曲がり、曲がり切ると180度方向を変える。
辰巳又沢出合い先のゴルジュ  大滝10mは登れず、それに続く三つの滝ともども右岸より大きく捲いて5mナメ滝の中間に降りる。そのままナメ滝を登るとその先はもう滝もなくなる。流れが細くなってもまだまだ先は長く、今日中に稜線に出てマンダノ沢に降りるのは無理そうだ。水のない稜線での泊りは辛いので水が涸れる前に今日の行動を終えようと思うがなかなか適当な幕場が見つからない。
 標高1200m付近で何とか泊れそうな所があったので整地してタープを張る。流木が少なくて焚き火もショボイが足を伸ばして寝られる場所があっただけでも良しとしなければならないかな。途中で釣ったイワナをムニエルにする。越前屋さんが片栗粉があるというのでそれをまぶしたが、なんだかやけに緑っぽい色をしている。翌日になってこの緑色の正体が判明した。なんとそれはワサビの粉であった。もっと早く気付けよと思ったが妙に旨かったのでこれはこれで新発見かも知れない。

 8月14日 曇り時々雨
 八瀧沢も残すところ後わずかである。出発後30分ほどで水が涸れ、1時間ほどヤブを漕ぐと稜線に出ることができた。稜線上はガスっていて視界はほとんどなく、冷たい風が吹きつけじっとしていると震えてしまうほどだ。眼前に薄ぼんやりと大きなピークが見えたが、後で考えるとこれが和賀岳だったようだ。早くマンダノ沢へ降りたかったので和賀岳はパスして稜線上を治作峠へと急ぐ。
 1412mピークまでは踏み跡があったので視界不良でも特に問題はなかった。ここからは踏み跡もなくなり微妙に方向を変えるので慎重に読図して進路を決めた、つもりでいたがガスの切れ間に見えた前方は切れ落ちて谷に消えている。どうやら辰巳又沢へ下っている尾根に入り込んでしまったようだ。下っている途中に高木さんが右の方に尾根が見えたと言っていたが他に誰も見ていなかったので取り合ってもらえなかった。1412mピークまで登り返す。途中に青テープの目印があるが、真っ直ぐ進めというのか曲がれというのか判らない。しばらくヤブの中で寒さに震えながらガスが切れるのを待つ。
 ほんの一瞬のガスの切れ間に進路が見えた。なんとそこは二重山稜になっていて地図からは読み取れなかったのだ。北側の尾根に続く踏み跡が見えたのでそれを辿って目指す尾根上に出る。この先に踏み跡はなく治作峠まで完全なヤブとなるが、所々に青テープの目印が付いている。1281mピーク手前辺りからガスも消えて視界が利くようになってきた。
 治作峠からマンダノ沢を目指して支沢を下降する。10分ほどのヤブ漕ぎで首尾よく沢に行き当たり、更に15分ほどで水が流れるようになる。この支沢はたいした悪場もなく楽にマンダノ沢に降り立つことができた。降りた所は蛇体淵と二俣の中間辺りだった。
 当初の予定通りマンダノ沢、堀内沢を下降して車まで戻る積りでマンダノ沢の下降を始めたが、マンダノ沢は水量が多くて水線通しの下降が難しく、時間がかかりそうだったため、ルートを変更して下天狗沢を溯って朝日岳から部名垂沢を下降することにした。下降してきた沢の出合いまで戻り、そこから10分で上天狗沢(天狗の沢ともいう)と下天狗沢(龍又の沢ともいう)との二俣に着いた。二俣は開けた場所で整地された幕場もある。この先に良い幕場はないのでここにタープを張る。タープの中を風が吹き抜けてとても寒い夜だった。

 8月15日 曇り時々雨
 日程に余裕がなくて今日はどうしても帰らなければならないので早めの出発となる。天気は昨日と同じでよくない。下天狗沢は出合いからしばらくは穏やかな平瀬が続く。二俣を過ぎても困難な所はなく、一箇所だけロープを必要とする滝があっただけの印象の薄い沢だった。詰めは急な草付きを登りつめて少々ヤブを漕ぐことになった。最後の二俣で右に入るべきところを左に入ってしまったためと思われる。
 稜線上は昨日と同じでガスっていて視界はなく風が冷たい。朝日岳山頂には二人の登山者が休んでいた。彼らは部名垂沢から登ってきて和賀岳まで縦走すると言う。「天気も悪いし、この先ヤブで大変だから止めた方がいいですよ」と言うと、「いや、行けるだけ行ってダメなら引き返します」とのこと。果たして彼らは和賀岳まで行けたんだろうか。
 ゆっくりしている時間もないし、なにしろ寒いので早々に下山にかかる。高山植物が咲き乱れる中の部名垂沢に続く踏み跡はしっかりと踏まれてまるで登山道のようだ(地図には載っていないが登山道なのだろう)。二ノ沢畚へと続く尾根に沿って下り、尾根を乗越して支尾根に沿って更に緩く下っていく。最後は急なルンゼ状の道を下って部名垂沢に至る。鉄分のためか赤茶けた沢だ。下れないような滝には捲き道がついており、フィックスロープもあるが結構な急下降が続く。
 ゴーロ帯となった所で越前屋さんと私とで先行して車の回収に向かう。ゴーロ帯は結構長く続くが堰堤をいくつか越すと左岸に林道が現れ、これを行く。林道が右岸に渡った所で靴を履き替えていると早速アブがたかってくる。荷物を置いて空身で車の回収に向かう。アブを払いながら林道歩き約1時間で車に辿り着く。
 下山がだいぶ遅くなってしまったが温泉へ向かう。私にとっては入りたくない温泉ベスト3にランクされる国見温泉で汗を流し、盛岡で焼肉と冷麺で腹を満たし、一路夜の東北道をひた走る。東浦和で解散したのは始発電車が走り始める時刻だった。
 今回の山行中は異常なほどの低温が続き、真夏の沢に来ている実感はなかったが充実した4日間であり、和賀山塊は良い所だと再認識した。

〈コースタイム〉
12日 出発(7:00) → 朝日沢出合(9:10) → マンダノ沢出合(泊)(11:30)
13日 出発(6:40) → 辰巳又沢出合(9:00) → B.P(15:00)
14日 出発(6:50) → 稜線(8:20) → 治作峠(12:05) → マンダノ沢(13:50) → マンダノ沢二俣(泊)(15:00)
15日 出発(5:50) → 下天狗沢二俣(6:20) → 羽後朝日岳(10:05) → 部名垂林道(14:40) → 車(15:50)

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