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大洞川井戸沢(例会編)
荻原 健一

山行日 2003年7月5~6日
メンバー (L)荻原、越前屋、飯塚、天内、高橋(俊)、中沢(佳)、山北

 「井戸沢」は、私にとって2度目である。10年以上も前、まだ私が学生だったころ双子の片割れ(埼玉大WV部所属)と二人で行ったことがあった。当時、私は沢は2回目の初心者で、WV部員としては、1年先輩(奴は現役、私は一浪君だった)の片割れに連れて行かれる形だった。その時は、「キンチヂミ」を越えた後、枝沢の「栂の沢」を遡行して奥秩父の主稜線上の「狼平」という鞍部から「荒沢谷」を下降ルートに使って車で帰った。奥秩父では最難ルートとされる「井戸沢」(栂の沢を遡行した為、半分しか遡行してないが)は当時の私にとっては、付いていくのが精一杯で、記憶も定かではないが、花束を背に背負って一人遡行してくる釣り師と会い、1週間前相棒が高巻きで落ちたと言って、わざわざ落下場所まで案内されて一緒に合掌した記憶だけが今でも鮮明に焼き付いており、その時はもう沢登りなんぞは今回限りで絶対止めようと固く心に決意したものであった。
 そして10数年後、やっぱり沢を止められず、今度は井戸沢全ルートの遡行をリーダーとして計画して再びやってきてしまったのであった。
 と、いうことで今回の例会は私としては並々ならぬ覚悟で来たのであったが・・・?

(7月4日)
 西武池袋駅に22時集合。22時20分発「飯能」行きに乗車し、途中乗り換えて、23時50分頃「横瀬」に到着。そこから10分程歩いて、武甲キャンプ場の片隅にテントを張り仮眠。

(7月5日)
 6時過ぎの始発で、「西武秩父」に出て、「お花畑」まで歩き、7時前に「三峰口」に到着。予約していたタクシー2台に乗り、約1時間で「荒沢谷」出合の車止のゲートに到着。料金は一台あたり7千円少々。
 ゲートから約40分で「惣小屋谷」出合。ここが遡行開始地点だ。出合へは「松葉沢」沿いに林道が大きく迂回する場所から明瞭な踏跡が伸びている。ここで沢装備を装着して9時に出発。堰堤を左側から小さく高巻くと直ぐに分岐となり、左(南)から「井戸沢」が入ってくる。進路を左(南)にとり進んでいく。ここから「栂の沢」出合までは、かつては「通らず」と呼ばれた壮絶なゴルジュ帯だったとのことだが、現在は難しい箇所には全て「巻き道」か「残置シュリンゲ」等があり、また今回は水量も比較的少ないことから、人数が多いものの順調に進む事が出来た。「キンチヂミ」の悪場の8m滝は高巻後、予定通り懸垂下降で滝上に出る。人数が多いことから多少時間はかかったものの、13時には全員滝上に出る。その後もいくつかの滝をFIXロープ等にも助けられながら、14時に「栂の沢」に出合い、やっと核心部である「通らず」のゴルジュ帯を抜ける事が出来て一安心する。まだ一本取るには早いと思って地図を見ると、20~30分も歩けば「サワラ谷」との出合まで行けそうである。「サワラ谷」は「井戸沢本流」に対して真左(真南)から入っており、水量比も3:2と書いてある。明快で直ぐに分かる分岐なのだろうと思いながら、一応左手に注意しながら進んでいく。
 しかし・・・、いつまで経っても分岐は現れない。途中、高巻き等で随分時間を食ったので恐らくそのせいだろうと思い込む。磁石で方向だけでもと思い、首から下がっている磁石を取り出すと大きな気泡が入ってしまっており確認出来ない。まあ、見逃す訳はないから分岐に付いたら誰かのを借りて確認すればいいやと思いそのまま進む。そして「栂の沢」出合から2時間後、ついに明快な分岐に出合う。方向もぴったりだし、ここがサワラ谷分岐かな?と思い込もうとするが、いくらなんでも時間が掛かり過ぎなのと、高度計と地図上の標高が150mも違うことから、さすがにみんな不安になり、地図を広げ議論するが、議論の前提が「井戸沢本流のどこなのか?」に終始してしまい(この時既にサワラ谷に入ってしまっている)結論が出ない。もともと長い沢で明日のことを考えると少しでも先に行きたいという気持ちもあり、結局「ここがサワラ谷分岐」ということで私が結論を出して進むことにする。分岐から先は直ぐにゴーロ状となるはずなのに変な滝が出てきたり、今度は直ぐに右側から大きな沢が入って来たりとますます説明出来ない状態となっていくが、この沢を前新左衛門窪と強引に読み替え(ここはアザミ窪左俣・右俣の分岐だった)更に進む。直ぐに15mくらいの大滝が出現し、途中まで高巻くが簡単に巻ける滝でないことが判明し、さすがにもはや完全にルートを外していることを認識する。
 再度みんなで地図を開き現在地について議論する。沢はもちろん藪でもここまで現在地が完全に把握出来ないのははじめてであったが、ベテランメンバーの落ち着きに助けられ、冷静になってセオリー通り明快に現在地を把握していた場所(今回は栂の沢出合)まで地図を遡る。誰も明快な「サワラ谷との分岐」を確認していないことから、もし「サワラ谷」に入っていた場合と仮定して地図を追って行くと、今まで説明のつかなかった枝沢との分岐の全てについて残念ながら説明が付いてしまった。現在地が確認出来た喜びと下山への不安が交錯するが、既に時間は18時を過ぎておりぐずぐずしていられない。
 エスケープルートは落ち着いてからメンバー全員の意見を聞いて決めることにして、とにかく日が落ちる前にテン場を探すことにする。もと来たルートを戻りながら、俊介に先行してテン場を探してもらう。なんとか2張り張れそうな場所を見つけたころには18時半をまわっていた。本来なら明日のルートについて悩みながら寂しく切ない夜を過ごすところなのだが、さすがは三峰のベテランメンバー(いいのかわるいのかこういうことに慣れている?)。ちゃっかりたき火もして、更には越前屋さんが「花火セット」まで持ってきて下さったおかげでなんか妙に盛り上がった夜になってしまった。
 明日のルートについては、(1)沢の下りはやはり危険で時間もかかる(2)遡行図はないものの、「サワラ谷」がルートになっていることは間違いないこと、から「サワラ谷」と「アザミ窪」の出合まで戻った後「サワラ谷」を遡行して奥秩父主稜線に抜けることとした。

(7月6日)
 本日は、予定外の行動であり先が読めないことからなるべく早い出発とする。3時半起床、5時出発。5時半に「サワラ谷出合」。ここから「サワラ谷」を遡行する。「サワラ谷」はここから源頭部まで美しいナメ滝と小滝の連爆帯が続き更には、ほとんど人の気配の感じられないなかなかの銘渓である。更に付け加えさせて頂くと、尺級のイワナがうようよ走っている(しかしながら、遡行中釣りをする精神的余裕はもはやなかった)。「けがの功名」ではないが、思いがけず貴重な沢の遡行を堪能出来た。ルートファインディングは特段難しいところはないが、昨日のこともあり飯塚さんからコンパスを借り、慎重に現在地を確認しながら進む。源頭部手前で40mはあろうかと思える大滝が出てくるが、右側ルンゼより簡単に高巻けた。大滝を越え、標高1650mの三俣を過ぎると水量もぐっと少なくなる。ここから方向を合わせて軽い藪こぎをまじえながら標高1840mの最低鞍部へ突き上げる。
 稜線の登山道についたのは、丁度9時だった。一時は懐電歩行、最悪の場合はもう一泊のシミュレーションもしていたので、最短時間で稜線に抜けられたことに、とにかくほっとひと安心。ここからは、ばてばてになりながらもほぼコースタイム通りで約5時間かけて、14時頃丹波のバス停に到着。奥多摩に出た後、温泉に入って解散とする。
 今回、私のルートミスによりメンバーには、「敗退」だけでなく、「下山の日程」まで心配を掛けてしまったことについて深く反省したい。敗因は挙げればきりがないが、面倒くさくても現在地はこまめに確認するという非常に初歩的な行為を怠った為ということに尽きる。結果的には、最後に正確に現在地を確認した「栂の沢」から4時間歩いた場所で、再度現在地を確認したことになるわけであり、その間は、ある意味遭難していたのと同じなのだから。

〈コースタイム〉
7月5日 荒沢谷出合ゲート前(8:00) → 惣小屋谷出合(8:40) → キンチヂミ8m滝上(13:00) → 栂の沢(14:00) → 標高1250mサワラ谷・アザミ窪の分岐(16:00) → アザミ窪左俣最初の15m大滝(18:00)C1
7月6日 C1(5:00) → 標高1250mサワラ谷・アザミ窪の分岐(5:30) → 飛龍山北西方標高1830m鞍部(9:00) → 丹波(14:00)

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